寄り道Blog

銀座線「外苑前」駅を出ると、青山通りには光が満ちていた。春らしい土曜日の午後。仕事が昼過ぎに終わり、ふと思い立って地下鉄に乗った。神宮球場にカープ対スワローズのオープン戦が行われているのだ。試合開始時間からは随分経っているが、まだ1時間くらいは楽しめそうだ。

秩父宮ラグビー場を過ぎると、左手に都立青山高校が見えてくる。グランドではラグビー部が練習している。程なく神宮球場だ。チケット売り場で外野自由席券（1000円）を購入。一瞬内野席にしようかと思ったが、やはり外野席の魅力には勝てない。

球場を左に回り込んで、外野席入り口の19番ゲートに向かう。場内放送が聞こえてくる。「バッター、佐々岡に代わりまして、新井」。観客がどよめき、トランペットが新井選手の応援歌を演奏し始める。「赤い心見せ〜、広島を燃やせ・・・」小さい声で歌いながら、足を速める。

入り口近くで、工藤静香似の女性を追い抜く。おお、この方は・・・。いつも応援団のごついメンバーの中に座っている女性ではないか。応援団のマドンナというか姉御というか、とにかくものすごいオーラを放つ、カリスマ的女性なのだ。振り返って会釈する。もちろん知り合いでもなんでもない。

球場に入ると目の前は売店。ここのカレーライスやうどんは安くて美味しい。心惹かれるが、早くスタンドに行きたい。今度は通路を右に回り込む。バックスクリーン近くは客が多いので、比較的空いているポール際に席を見つけるためだ。スタンドへ上る前に、奥の売店で何か買っておこう。結局、オタフクソースに惹かれて「たこ焼き（550円）」を購入。

レフトスタンドは、オープン戦というのにカープファンで埋まっている。それに比べてライトスタンドは少し寂しい。カープのレプリカユニホームを着た客が目立つ。スタンドは春の陽光が降り注ぎ、Ｔシャツでもいいくらい。着ているスーツが重く感じる。

スタンドの上の方に空いている一角があるので、そこに座ることに決める。スコアボードを見ると「6回裏」。スコアは2対０。カープがリードしている。マウンドでは小山田投手が丁寧なピッチングを見せている。

まずは生ビールだ。背中にタンクをしょっている女性を呼び止める。ビール売りの女性はそれにしてもどうして揃いも揃って、色白、細身なのだろうか。もっとたくましい方が向いているような気がするが・・・。「生ビール（700円）1つね。」

小山田投手が岩村選手にレフトオーバーのツーベースヒットを打たれる。「だめじゃ〜。」広島弁が聞こえてくる。ビールを一口。冷えてる！今日はビール日和だ。たこ焼きにソースをかけ回して、1個頬張る。外はカリッとして中がクリーミーなタイプ。ビールとよく合う。小山田投手は後続を断ちスリーアウト。「ええどー」左隣のファンが叫ぶ。

「7回の表、カープのラッキーセブンでございます。カープファンの皆様、どうぞご声援くださいませ。」・・・レフトスタンドのカープファンが膨らませたジェット風船を持って立ち上がる。「国歌斉唱！」・・・カープ、カープ、カープ、広島、広島カープ・・・それ行け！カープをみんなで歌う。ファンの一体感が嬉しい。歌い終わると同時にジェット風船を空に放つ。無数の風船が空に舞う。



それにしてもビールが美味しい。後ろのブループもビールを飲みまくっている。「やっぱり神宮はええのう。気持ちがええわ。」「そうよのう。横浜はスタンドが急じゃし、ドームは論外じゃ。野球は青空の下でやるんがええんよ。」

東出選手がセンター前にヒットを放つ。「嘘じゃろ。3本目じゃ、今日はどうしたんや。調子狂うで。」・・・東出選手言われてるぞ。

ビールもう一杯だな。球場で飲むと昼間からでも後ろめたさがない。なんたって売りに来るんだもん。ぐびぐび。嶋選手もヒットで続いたものの、カロッカ選手が併殺打。チェンジ。残念！ぐびぐび。

7回裏も真中選手にヒットを打たれはしたものの、小山田投手が危なげなく投げきる。「如水館はどうなっとるんや。」高校野球も気になるようだ。「同点じゃ。気になるのう。」スタンドがまるで広島市民球場になっている。

8回表、前田選手から。自分がいつもスタンドで着ているのは背番号１の前田選手のユニホーム。打ってほしいが・・・、おお、行け〜、入った！ライトスタンドに突き刺さるホームランだ。広島ファンが総立ちで狂喜乱舞。よかった〜。このホームランを見られただけで来た甲斐があったぞ。「すみませ〜ん。ビール1つ！」

8回裏、永川投手が登板。例によってフォアボールを出す。「永川〜、何しょうるんなら〜。ストライク投げーや。」後ろから野次が飛ぶ。スピードガンは151キロを計測している。頑張れ！永川！・・・田中選手をサードファールフライに打ちとって、この回を0点に抑える。「永川〜、ナイスピッチング！」後ろから声が聞こえてくる。さっき野次ってたお客さんだ。ファン心理というものだ。

9回表、フォアボールで出た東出選手２塁に盗塁を決める。元気づくレフトスタンド。隣のグループはワンカップを飲み始めている。焼き鳥も大量に買ってきている。「今年のカープはええで。わし、優勝にかけてもええで。」・・・顔が真っ赤だ。帰り道は大丈夫か？福井選手の打ち上げた大飛球はレフトフェンス前で失速、レフトフライになる。やはり今年のボールは飛ばないのか。

9回裏、守護神ベイル投手が出てくる。ヒット2本打たれるが、点をとられる気がしない。最後のバッター福川選手がセカンドフライを打ち上げ、試合終了。3対0で広島勝利。応援団の指揮の下ファンが「宮島さん」の大合唱。「今年は幸先がええのう。わし、10年くらい球場でカープの勝ち見てなかったんじゃ。」・・・そ、そんなに・・・。

球場を出て、駅に向かう。心なしか風が冷たい。時計を見るともう３時半を回っている・・・手に持っていたコートを羽織る。セントラルリーグ開幕まであと１週間だ。