サッカーW杯最終予選バーレーン戦はもう始まっている。どこかの店に入って見たい。どうせなら気になっている店に入りたい。ということで学芸大学駅を出て西口商店街を歩く。商店街を歩いていった先に、美味しそうなおでん屋があるのだ。おでんはテイクアウトできるようで、外からもおでん鍋が見える。店の名は「やべ」。
商店街の人通りがいつもに比べて極端に少ないのは、やはりサッカーが原因だろうか。ここまでとは思わなかった・・・。「やべ」の前に着き、さて中に入ろうかとドアに手をかけようとしたとき、中から女性が出てくる。どうやら店の方らしい。すれ違って中に入る。お客さんはいない。テレビの場所は分からないが、興奮した実況アナウンサーの声が聞こえる。よかった!テレビがあるぞ。カウンターに腰掛けながらキョロキョロ見回す。
テレビの場所を探していると、「いらっしゃいませ。」と声がかかる。「えーと瓶ビール(500円)。」慌てて答える。テレビは・・・あれ、これ?・・・それはカウンターの中のマスターの自分用のテレビ。画面は10cm四方しかない・・・しかも、室内アンテナで画面はほぼ映っていいない・・・さらに客には見えにくい場所にある・・・しまった!
お通しが届く。切干大根の煮物だ。テレビの音だけ聞きながらビールを飲む。そこに、さっきの女性が帰ってくる。「お客さん連れてきたよ。誰も歩いてないんだもの。」そのお客さんも女性。カウンターの奥に座る。店の女性がそのお客さんに話しかける。「今日はまったくお客さんがこないのよ。来ても女性だけ。」と言いながらちらりとこちらを見る。あらっ、来てたの?って感じ。
じゃあ、おでん食べようかな。カウンターにはおでんのメニューがズラリ。値段は書いてない。「牛すじ、がんも、厚揚げ、チーズ巻き・・・でお願いします。」・・・この店には女性が3人。マスターの奥さん、その娘、そのまた娘かな。それとも、奥さんと娘姉妹?こういうことは聞く訳にはいかない・・・。
おでんが届く。チーズ巻きは注文を受けてからスープの中に入れるらしい。チーズが溶けだすとまずいからか。それ以外の3品だ。目立つのは牛すじの大きさとがんもの小ささ。牛すじから食べる。コリコリだ。柔らかい牛すじを期待していたが、この店のは固い方。しかし、このコリコリがいい。美味しい。こりゃあいいや。こりこり。すじの味が噛めば噛むほど出てくる。ビール、ビール。
スープは鰹だしがよく効いた薄味。さっぱりしていて美味しい。地元の人たちが惣菜として買っていくだけあって、癖のないシンプルな味。厚揚げはそのスープがよく滲みて味わい深い。
女性客は焼酎を緑茶で割ったものを飲んでいる。この店は、ビール、日本酒(400円より)の他は焼酎中心。基本は「いいちこ」で、キープボトル(2500円)が壁の棚にずらりと並んでいる。その他に、芋焼酎系がカウンターの上に何種類か置かれ、地酒系が冷蔵庫に入っている。
ビールの後は焼酎のレモン割(400円)にすることに。サワー類はなくて、ウーロン茶や生レモン、生グレープフルーツ、水などで割ったものがメニューにある。レモン割が届く。大き目のグラスだ。一口、おお、酸味がキツイがいいちこの香りとよく合って、スッキリとしている。なかなか、美味しいぞ。
そこに60代くらいの男性が2人入ってくる。常連さんらしい。「サッカーはどうなってる?」「テレビが映らないから、分からないけど点は入ってないみたい。」「まったく、ここの親父は客のためじゃなくて、自分のことしか考えてないからなあ。大きいテレビ置こうよ。」とからかう。マスターが苦笑い。娘さんの方が「今日は、女性のお客さんしか来ないのよ。」・・・だから来てるって。
常連さんはおでんではなくて、ホワイトボードのお薦めメニューを見ている。「黒豚とんかつってどんなの?」「とんかつなんですけど、中身が黒豚なんです。」「じゃあ、それもらおうかな。」・・・な、なんていう会話だ。成立しているところがすごい。
そのホワイトボードに「すじポン(500円)」というのがある。たぶん、さっきの牛すじをポン酢で食べるんだろうな。これにしよう!「すじポンください。」「はい!すじポンね。」期待しちゃうなあ。もう1人の常連さんは「牛すじ2本ちょうだい。」とおでんを注文。やっぱりこの店は牛すじがメインか・・・。
そこに40代後半のサラリーマンが入ってくる。カウンターの右隣に座る。座るや否や「サッカーどうなってます?」「まだ点は入ってないよ。」とマスター。「そう。」・・・映ってない小さな画面をじっと見ている。生ビールを注文。「えーと、牛すじ煮込みね。」・・・おっ、いいぞ。実はすじポンと煮込みで迷ったのだ。煮込みの方を見てみたいぞ。「やっぱり煮込みやめる。おでんの牛すじね。」がくっ!
「ずじポン」が届く。牛すじの上にたっぷりネギがかかっている。「七味唐辛子をかけて食べてね。」・・・はい、はい、七味、七味・・・で、まずこの大ぶりのやつを・・・コリコリだがさっきのよりも柔らかい・・・この歯ごたえと味・・・ポン酢によく合うなあ・・・たまらん!美味しい!コリコリ、くぅ〜。コリコリ、はぁ〜。
レモン割をお替り。「外、誰も歩いてないよ。」・・・なんだか寂しくなってきたなあ。常連さんは上機嫌で飲んでいる。奈良の出身の方らしく、吉野の桜の話題も出る。もう1人の常連の方は京都出身。「嵐山はもみじやな。秋はこっちや。」・・・奈良に京都か・・・で、自分が広島・・・飲んでる場所は学芸大学・・・なんだか不思議な気もするぞ。
W杯予選も気になるのでこの辺で。それにしても牛すじ美味しかったなあ。「ごちそうさま。」カウンターの中の4人が「ありがとうございました!」・・・家庭的な店というのはよく聞くが、ここはまさしくそれ。カウンターの中では容赦ない家族の会話が繰り広げられる。それがまた暖かい。店の雰囲気はそこから醸し出されているようだ。
外に出る。確かに商店街を行きかう人はますます少なくなっている。日本中がサッカーで盛り上がっているんだろうな。携帯で途中経過を確認しながら、駅へ急いだ。
Posted by hisashi721 at 15:26│
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