春に酔う紺の暖簾も朧にて・・・十条「斎藤酒場」
この前来たのは7月だったな、などと考えながら降り立ったのは十条駅。さっそく駅前ロータリーを右にまわってすぐの路地に入る。おお、紺の暖簾!久しぶりに見る斎藤酒場だ。前を歩いていたカップルが予想通り暖簾をくぐる。店の人にグループだと思われないように、少し間をおいて自分も後に続く。
店に入ると、開店後の常連さんが帰って一息ついたところだろうか、空席が目立つ。それでも各テーブルには満遍なく客が座っている。右手の向かい合わせカウンターのような席は、入り口側にはずらりと人が並んでいるが向こう側は空いている。真っ直ぐ奥に入って、壁際の席に座る。
左隣にはじっと下を向いて、日本酒(160円)を飲んでいるおじさんが座っている。その隣にはコップが伏せておいてある。予約席というわけだ。3人のフロア担当の女性が忙しく行き来する中、一番若い方が注文をとりに来てくれる。「ビールの小さい方(350円)と煮込み(200円)」と注文する。
自分が座っている席からは、店全体が見渡せる。真ん中のテーブルには常連さんが盛り上がっている。全員60代くらい。話題は「楽天、大丈夫か?」。自分の前に入ったカップルはカウンター状のテーブルの端っこ。今日よく出ているつまみは、「うどの酢味噌和え」のようだ。
ビールを飲みながらぼんやりしていると、「はい、煮込み」と声をかけられる。店の雰囲気に入り込みすぎていたようだ。ぼんやりする程ホッとさせる酒場・・・さすがだぜ、斎藤酒場・・・などと1人で納得する。
「煮込み」は味噌味のシンプルなもの。上にネギがたっぶりとかかっていて、しろもつにもコンニャクもよく煮込まれている。さて一口・・・安心する味だなあ。誰もが愛する味というべきか・・・コンニャクにも味がよく滲みている。
左隣のおじさんは相変わらず、下を向いたまま。ひっきりなしに煙草を吸っている。そして、お酒をちびり、マグロの刺身(450円)を一口・・・渋い飲み方ではあるなあ。「先生遅いね。」とお店の女性から声がかかる。「今日は仕事で手間取ってるんだろ。」・・・隣のコップは伏せられたままだ。
ビールの後は、予定通り焼酎。「焼酎(180円)ください。」「お湯割にする?」「いや、そのままで。」「ストレートね。」・・・最近、甲類焼酎をストレートで飲むのが好きになってきたなあ。一時はブームに乗って、本格焼酎を随分試したものだが・・・「黒麹だの、白麹だの、何芋だの、何づくりだのと考えなくてすむ分、楽といえば楽だ。
「はい、焼酎。」「どうも。」・・・またぼんやりしてしまった・・・。受け皿とかはついていない。それもまたシンプルでいい。さて、焼酎を一口・・・透明な味。批評をする必要もない。のんびり飲むかな・・・しかし、「煮込み」とよく合うなあ。
がらりと戸が開いて、40歳くらいの男性が顔を出す。「いらっしゃいませ〜。」「5人なんだけど。」「ええっ、5人はちょっと・・・」ぱらぱら空きはあるものの、5人が一緒に座るとなると厳しい。「いいよ、帰るから。ここに座れば。」入り口から向かって左側のテーブルのお客さんが席を立つ。どうやら常連さんのようだ。「どうもすみません。」と女将さんが頭を下げる。男性は後ろを向いて「お〜い、入れるって。」
男性を先頭にグループ客が入ってくる。後ろは全部大学生。先頭は大学の先生か・・・。大学生達はちょっと引き気味。「ビールでいいだろ。じゃあ、ビールください。」先生だけが元気がいい。
「焼酎お替り。あと串かつ(200円)ね。」・・・やっぱり串かつ食べとかなきゃ。焼酎がじんわり効きはじめたのが分かる。後ろを振り返って壁の鏡を見ると、顔が赤い。今日は酔いが早いぞ。疲れか、はたまた花粉症対策に飲んだ抗ヒスタミン剤&抗アレルギー剤のせいか・・・。焼酎が届く。
串かつは2本。1本1本のボリュームもある。ソースをかけ回して、辛子をつけて一口。う〜ん、この味。衣がさくっとしていて美味しい!焼酎、焼酎・・・くぅ〜、効くなあ。
今日はいい気持ちになるのが早すぎる・・・まだ飲みたいけど、ここまでにしようかな。「ごちそうさま。」左隣のおじさんは、じっと下を向いたまま煙草を吸い続けている。伏せられたコップの席に来るはずの「先生」はいつ来るのだろう。
暖簾をかき分けて外に出る。なんだか、体も足もふわふわしている感じだ。酔ったかな・・・。少し歩いて振り向くと、紺の暖簾が風に揺れている。次に来るのはいつになるやら。そう思うとなんだか暖簾が霞んで見えた。
Posted by hisashi721 at 09:21│
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こんにちは、いつも楽しく拝見してます。
実は私もその日「斉藤酒場」で飲んでいました。
寄り道さんより少し前に入っていたと思います。
もちろん、お顔は判りませんが、
鏡の前に座ったお客さんのことはうっすらと覚えています。
寄り道さんだったんですね。
先生待ちのおじさんや、カウンターの端に座ったカップルや5人の団体さんのくだりで、時間が一致しました。
私はカップルが座ったカウンターで一杯やっていました。
雰囲気のあるいい店ですよね。
仕事先が原宿なので、埼京線を利用して時々遠征します。
私はその後、連れがもう一軒行こうと言うことで、
酔い覚ましを兼ねながら王子の「山田屋」まで歩きました。
、
寄り道さんも毎日のようですね。
楽しいレポートを期待しつつ、どうぞご自愛ください。
Mさん、こんにちは。
ご一緒でしたか(^^)
>酔い覚ましを兼ねながら王子の「山田屋」まで歩きました。
ブログにも書きましたが、自分はこの後赤羽でした。この近辺にはいい店がたくさんあって迷いますね。
>楽しいレポートを期待しつつ、どうぞご自愛ください。
ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。
始めまして。いつも楽しみに読ませて頂いております。今回初めてTBさせて頂きました。
斎藤酒場は念願かなって、という感じで行けたのですが、かなり気に入りました〜。あの空気が好きです。寄り道さんと同じ時期に行っていたのですが更新が追いつかなくて時期外れになってしまいました(笑)。
しらすさん、こんにちは。
斉藤酒場の空気は独特ですよね。和みます。あの雰囲気の中で、串カツ食べたい、焼酎飲みたいなどといつも思っています。(^^;
はじめまして。TBさせていただきました。斉藤酒場のお話、楽しく拝見させていただきました。噂にたがわずすごく味のあるお店のようですね。実はまだ行ったことがなくて、常々行きたいなあと思っているのですが、今日お店の前を覗いてみたらゴールデンウィーク中はお休みのようでした(涙)。ああ、早く行ってみたいです。
kon-konさん、こんにちは。
「斉藤酒場」は大衆酒場の典型のような店です。気取ることもなく、素の自分でいられるので癒されますよー。
タイガースファンでいらっしゃるようで・・・。GWはお手柔らかに(カープファンより)。
これからも、よろしくお願いします。