うとうとしたと思うともう目的の駅に近づいていた。土曜日(4日)の仕事帰りはいつも眠い。地下鉄千代田線「我孫子行き」。日比谷で乗り換えてから15分ほど。車内放送が、まもなく「町屋」駅に到着することを告げる。地下鉄は静かに駅に滑り込む。ドアが開く。初めての街・・・さて、どんな街なんだろう。
1番出口の階段を上っていると、雷の音が響く。ものすごい雷雨だ。階段まで雨が吹き込んでくる。気温も下がっているようだ。階段の上の方では、外に出るに出られない人たちが戸惑ったように空を見上げている。これでは、傘をさしていてもずぶ濡れになってしまうだろう。自分が最初に乗り込んだ駅では、なんだか雲行きが怪しくなってきたという程度だったのだが、地下鉄に乗っている40分位でここまで天候が変わってしまったのか。自分が持っている折り畳み傘では心もとない。
階段を降りて再び駅に戻り、駅ビル「サンポップ町屋」に入る。エスカレーターを上っていくと、傘を売っている雑貨屋を見つける。女性用しかないが、できるだけシンプルな傘を購入。これなら何とかなりそうだ。少し時間をつぶしてから、もう一度駅に戻り、階段を上る。雨は降っているものの、随分弱くなっている。雷雲もどこかに行ってしまったようだ。さて、傘をさして目的の店に向かおう・・・向かうは「亀田」だ。
都電荒川線に沿って歩く。白い半纏姿の男女グループとすれ違う。見ると、神輿も置かれている。明日はお祭りかな・・・そういえば祭り前夜の華やかさが街を覆っている。ふと気づくと、紺の暖簾がゆったりと風にはためいている。ここが「亀田」か・・・。早速ドアを開ける。
濡れた傘を畳みながら、店の中を見ると手前にテーブルが2つ。それぞれ6人くらいかけられる大きなもの。片方はグループ客が占め、一方は2人か座っている。その奥、左手が小上がり座敷。6人用のテーブル2つ。両方グループが入っている。奥右手がL字型カウンター。縦棒に2人客が一組、1人客が離れて2人座っている。横棒にはおじさんが1人、一番右の壁よりの席が空いている。カウンターの中の焼き台にいるご主人と目が合う。「こちらにどうぞ。」と示された席は予想通り、カウンター横棒一番壁際の席。「どうも。」
さて、飲み物はどうしよう。メニューを見ると、酎ハイと白ハイがある。酎ハイはいわゆる「下町ハイボール」で黄色いエキスが入ったもの。白ハイは焼酎を単純に炭酸で割ったもの。それぞれ270円。安い!注文しようと思うが、目の前で横向きで焼き台に向かっているご主人はとても忙しそうだ。ちょうどフロア係の女性が、後ろのテーブル席に料理を届けに来たので、「こっち、酎ハイね。」と声をかける。するとすぐにカウンターの中から「はい!」と応じる声がする。どうやらご主人がこちらを気にかけてくれていたらしい。寡黙だが、店全体に気配りできるご主人とみた。この店、居心地よさそう・・・。
黄色い酎ハイが届く。一口・・・う〜ん、なんとも言えない香りと甘み・・・落ち着く味だなあ。では、焼き物を・・・焼きとんも焼き鳥も1本70円。や、安い。相変わらず、焼き台に向かっているご主人に、「1本ずつでいいですか?」と問いかけると「いいですよ。何にしましょう。」との答え。「じゃあ、れば、はつ、たん、かしらをたれで。」と注文。いつもなら塩焼きで注文するところだが、こういう店のたれの味に興味がある。期待できそう〜。
この店は創業50年ということだが、店を新しくしていることもあって清潔感がある。照明も明るめ。小上がり座敷で家族連れが楽しそうに飲んでいるが、この雰囲気なら大丈夫だろう。大声で喋る客もいなくて、とても上品な印象だ。
左隣のおじさんが席を立つ。見ると皿の上にティッシュが山盛り。ゴミ出しすぎだよ〜。「ありがとうございました。」の声に送られて静かに出て行く。ここで、焼とんが届く。よし、それでは、ればから・・・このたれ、シンプルだがコクがある〜。さすが長年地元で愛されてきた店の味だ。美味しい! 次は、はつ・・・う〜、いい歯ごたえ。いいなあ。では、たんを・・・味がしっかりしている・・・これは食べ応えがあるぞ。かしらはどうだ?・・・文句なし! かしらだけが1本80円と10円高い。それが却ってこの店の良心的な価格設定を際立たせている。70円はギリギリの価格設定。だが、かしらはどうしても70円にできなかったという感じ。他の店では一律90円とかにしちゃいそうだ。
L字カウンターの角の席に女性客が座る。ビールを注文したあと、メニューを見ながら携帯電話になにやら打ち込んでいる。メニューをメモしているのかなあ・・・すごく熱心だ。他は何も見えないという一途さがある。取材?
酎ハイを飲んでしまったので、次の飲み物を注文しようかな。「デンキブランハイ(250円)ください。」・・・実はこれが飲みたくて、この店に来たのだ。自分で作って飲めばいいじゃないかと思われるかもしれないが、やはり店で飲むのは一味違うはず・・・期待しちゃうぞ!
「デンキブランハイ」は酎ハイより小さめのグラスで届く。では、飲むぞ〜・・・一口・・・デンキブラン特有の味が炭酸によってまろやかになっている。しかし、香りは却って引き立っていて・・・うん、爽やかな甘みだ。美味しい。
焼き台の上は相変わらず30本位ずらりと串が並んでいる。ご主人が丁寧に焼き上げていく。そして皿に盛り上げられて客席に運ばれていく。よく、串焼きの店であっても、その他の料理ばかり出て、あまり串の注文のない店があるが、ここは違う。あくまでも串焼き中心。それだけお客さんに支持されている味ということだろう。
では、次の注文を・・・「なんこつ、しろ、だんごを塩で。」本来ならたれ焼きが合いそうなものばかりだが、あえて塩で。ご主人も「塩でね。」と大きく頷いてくれる。自信の表れだな。
70歳前くらいの白髪のおじさんが左隣に座る。ご主人が「梅入り?」とすかさず尋ねたところをみると常連さん。「いや、酎ハイ。あと、れば5本。全部たれで。」・・・いきなり、ればのたれ焼き5本とは、やるなー。「それからねえ、ほうれん草のおひたしダブルでちょうだい。」・・・おひたしダブル?元気だなあ。
塩焼きが届く。だんごから。つくねみたいなものかな・・・一口、意外とあっさりとしている。塩焼きで食べると肉の味がよく分かる。美味しいなあ。次は、なんこつ・・・柔らかい肉の部分と硬い部分が噛み合せると、いい味になるなあ。この味は好きだな〜。しろ、しろ・・・くにゅっとした食感がいい。デンキブランだ〜〜〜。
「もう一回、酎ハイね。」と注文。「デンキブランハイ」は何杯も続けて飲むものではないと判断。左隣のおじさんは「ればたれ焼き」をゆっくり味わいながら食べている。本当に美味しそうに食べるなあ。ご主人が、ちらっと自分の方を見る・・・ん?すると奥の方に早足で入っていって、「カウンターのお客さん、酎ハイだろ!早く。」・・・おお、注文してから1.2分位しか経っていなかったのに、ちょっとタイミングが遅れたとみて催促してくれたのか・・・本当によく見ててくれるなあ。嬉しいぞ。
最後にもう1品。「げそわさ(200円)ください。」・・・焼き物以外も安いなあ。焼き物以外の料理は奥の厨房で調理される。そこには女性が3人位いて、忙しそうに作業している。すぐに「げそわさ」が届く。わさびをつけて、一口・・・さっぱりしている。焼とんの後のつまみとしてはこういうのがいいよなあ。
さて、今日はこの辺で。「ごちそうさま。」「ありがとうございます。1490円です。」・・・安い・・・。傘を持って、もう一度ドアの前でご主人に頭を下げる。ご主人もこちらに体を向けて深々と頭を下げてくれる。気持ちがこもってるなあ〜。ほろっとくるぞ!
外に出る。雨は小降り。駅に戻りながら、雨で輪郭がぼやけて見える街並を眺める。初めての街でも、もうよそよそしさは感じなかった。
東京都荒川区町屋2-15-19 03-3892-0383
Posted by hisashi721 at 23:29│
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