2005年06月19日

土曜日の夜は・・・北千住「酒屋の酒場」

酒場日比谷駅で千代田線に乗り換える。土曜日の仕事帰りはちょっと回り道をしてみたくなる。扉近くの手すりにもたれて文庫本を開く。宮本輝『五千回の生死』。この本を読むのは一体何回目だろう。「死んでも死んでも生まれてくるんや。それさえ知っとったら、この世の中、何も怖いもんなんてあるかいな。」という言葉にまた勇気づけられる。

地下鉄が町屋駅を過ぎる。北千住はもうすぐだ。千代田線に乗る前は、頭の中に二つの店があった。ひとつは町屋で降りて荒川線に乗り換えて、3つ目の駅「熊野前」近くにある店。もうひとつは北千住にある店。迷ったときはより遠くへ。目指すは北千住「酒屋の酒場」だ。

地下鉄「北千住」駅2番出口。蒸し暑い夜の中を歩き出す。「きたろーど」商店街に入ると音楽が聞こえてくる。「アタックNo1 2005」だ。なぜこの曲が・・・なにはともあれ、鮎原こずえの前向きな姿勢に学びたい・・・。

日光街道を過ぎて、しばらく歩くと・・・おお、あの看板の灯は・・・「酒屋の酒場」だ!開け放された戸から一歩中に入る。奥へ伸びるカウンターはお客さんがぎっしり・・・テーブル席も埋まっている。奥の座敷もグループ客で占められている。う〜ん、これは・・・。「♪涙も汗も若いファイトで、青空に遠く叫びた〜い。アタック、アタック、ナンバ〜1♪・・・」頭の中でさっきの歌詞が巡る。カウンターの中のマスターと目が会う。「1人?」「1人!」カウンターを2人で見回すが・・・.

スペースに空きはないのだが、何故か1つ椅子が手前のカウンターの角にある。お客さんが次々に入って、1つ押し出された感じの椅子。「そこ、そこに座って。」とマスター。どうやって?近くのお客さんが「ここ、入れねえよ。」と一言。即座に「椅子空いてるんだから、詰めろよ。」ピシャリとマスターが言う。声は鋭いが顔は笑ってる。ガタガタとお客さんが詰めてくれて、何とか隙間に椅子を入れて、そこに嵌まり込む。ふ〜。

素早くマスターがカウンターの外に出てきて、自分の前のスペースを整理してきれいに拭いてくれる。こんな一見の客にこんなに親切に・・・う、うっ、嬉しいぞ。「飲み物は?」「焼酎ハイボール(340円)。」「はい、こちら焼酎ハイボールね。」とマスターがカウンターの中のお兄さんに声を掛ける。「狭いけど、我慢してね。」という一言を残してマスターはカウンターの中へ。優しい・・・ここまで来てよかったぁ〜。

さて、おつまみは・・・カウンター奥の壁のメニューを眺める。この店は千住市場から毎日魚を仕入れているとのことで、刺身系が美味しいと聞いている。「鮪中落ち(350円)」にするつもりだったが・・・関アジがあるじゃないか!しかも、500円!これはいい。カウンター越しに焼酎の入ったジョッキとソーダをお兄さんが渡してくれる。それを受け取りながら、「関アジください。」と注文。お兄さんはすぐにマスターに向かって「関アジ、1人分できる?」と問う。「できるよ。」ちらりとこちらを見たマスターが、にっこり。

スーツの上着を脱いで、カウンターの下に押し込む。開け放されたドアから風が流れ込む。ほっとする一瞬だ。「焼酎ハイボール」を飲んで、人通りの少ない外の往来を眺める。マスターが冷蔵庫から関アジを一匹出して、持ち上げて見せてくれる。立派だ!マスターが何か言ったのだが、周りの笑い声にかき消されて聞こえない。・・・えっ?マスターは関アジをおろし始めている。何?

酒場ハイボール

カウンターの真ん中当たりの2人組が勘定を済ませて立ち上がる。「ごちそうさま〜。」「ありがとうございました。」といいながら、自分を見たマスターが「こっちに移れば。ゆったりできるよ。」「そうします。」鞄と上着を持って立ち上がる。マスターがジョッキを運んでくれる。真ん中に2つ空いた席の1つに座る。すぐに目の前が片付けられる。右手の棚にはテレビが置いてある。

マスターが関アジを届けてくれる。すごい量だなあ・・・。「あれだけ大きいと、1人じゃあ多すぎるよなあ。半身にしといたから。300円で。」・・・なるほど、さっき言ってたのはそういうことか。今日の関アジは普段のよりも相当大きい。だから、いつもと違って1人分では出せない。何人かで一匹注文するようになっていた。だから、自分が注文した時、お兄さんが「1人分できる?」と聞いたのだ。マスターはせっかくだからと注文を受けてくれ、半身を出してくれたというわけ。半身といってもこれだけ大きいと、量もすごい。大ぶりの切り身が10切れ以上は入っている。「それにしても安すぎませんか?」と尋ねてみる。「そう、ふつうじゃあ、この値段ではとても無理。皆さんがたくさんお酒を飲んでくれるから、それで出せるんだ。食べてみて。美味しいよ。」

では、早速。生姜醤油をつけて、一口・・・もちもちじゃん!・・・脂も上品にのって・・・ほあ〜ん、噛むといい風味が・・・こ、これは美味しい。「美味〜い!」マスターまたまたにっこり。そうだ、ホッピー(380円)にしよう。「ホッピー、セットで!」

酒場あじさし

テレビは雨のフルキャスト宮城スタジアムを映し出している。楽天対横浜の交流戦最終試合。仙台は雨か・・・。関アジの刺身を食べながら画面に見入る。試合は雨で中断している。観客席が雨で光っている。

左隣に男性一人客が座る。「ウーロン割り」と一言。お兄さんが対応して「お父さんはタコ刺し?」と尋ねる。「うん。」と男性。いつもウーロン割りににタコ刺しなんだろうなあ。ウーロン茶の缶と焼酎入りジョッキが届く。そういえばウーロン割りのお客さんが多いような気がする。右隣のお客さんの前にはウーロン茶の缶が6本並んでいる。飲んでるなあ・・・大丈夫か?

酒場ホッピー

ナカ(焼酎180円)を注文。左隣の男性が、こちらをチラッと見て「タコやめて、関アジにしてくれる?」とカウンターの中に声を掛ける。マスターが「今日のは大きいから、半身300円で。」と答える。「すごく立派な関アジですよ。」とつい自分も声を出してしまう。「へぇ〜。」男性客の目が輝く。

ところで、せっかくだからもう一品くらい・・・メニューを眺める。それにしても安いなあ。にらおひたし110円、イカげそ焼き120円、イカわた焼き130円、赤えんどう豆130円・・・、ふむふむ、かつお塩焼き270円、さば塩焼き270円・・・さば塩焼きを食べてるお客さんがいるが、丸ごと一匹だもんなあ。アジフライ180円、穴子白焼き420円、キングサーモン粕漬け270円・・・どれも美味しそうだなあ・・・どうしよう・・・ん、「小アジの唐揚げ(320円)」があるぞ。アジが重なってしまうが、美味しそうだ。これにしよう!

「小アジの唐揚げください。」右隣のお客さんの声が大きくなっている。ウーロン茶の缶がまた1本増えている。隣のおじさんと話が弾んでいるらしい。話題は「神仏混交の歴史」。なぜこんな話になってるんだろうか・・・。それがプロ野球の贔屓チームの話のように熱を帯びている。これから、まだまだウーロン茶の缶は増えそうだ。

小アジの唐揚げが届く。見てびっくり。15匹くらい入っている。では、一口・・・からっと揚がっているぞ・・・骨まで柔らかい・・・香ばしいなあ・・・これは美味しい!いくらでも酒が飲めそうだ。ホッピー、ホッピー。う〜ん、ホッピーがこれでは足りない。焼酎3杯で帰るつもりだったが・・・「焼酎ハイボールください。」飲まずにはいられないもんな。

酒場から揚げ

絶品の小アジの唐揚げを食べながら、焼酎ハイボールを飲む。この組み合わせは合うぞ。左隣の男性客も関アジを美味しそうに食べている。右隣のお客さんはまだ熱く語っている。涼しい風が入り口から通る・・・いいなあ、土曜の夜の酒場は。

さて、この辺で。「ごちそうさま。」「ありがとうございました。1680円です。」・・・安い。刺身も唐揚げも質量とも大満足。「じゃあ。」といってマスターを見ると、笑顔。こちらもつられて笑顔になる。

外に出る。駅に向かってゆっくり歩く。空には薄雲にかすんだ月が出ている。日光街道を渡ると、街の喧騒が襲ってくる。気づいたら、また「アタックNo1 2005」が流れている。足取りがさらに軽くなる。

酒場看板

東京都足立区千住中居町27-17  03-3882-2970
日曜休 17:00〜22:00

この記事へのトラックバックURL

この記事へのトラックバック
 話題が豊富過ぎて {%ブロっくま寝るdeka%}
 祝 !! リニューアルオープン !!【サンキューはりきゅー 高橋鍼灸院のブログ】at 2009年12月07日 17:48
この記事へのコメント
はじめまして、Blogの更新楽しみにしています。「酒屋の酒場」いいですよね〜、千住市場が近いからでしょうか?魚好きな人にはお薦めです。御主人と息子さん喧嘩してませんでしたか? 
自分は常磐線沿いしか行きませんので、寄り道さんの行動力には頭が下がります。
Posted by よっちゃん at 2005年06月19日 22:29
う〜む…
噂通りの素敵なお店ですね。
あの商店街いまだかつて日光街道をこしたことないんです。
右に行けばO〜はし、左に行けばTワラ&煮込みスナックFや。
誘惑多すぎます… 

あっ!
本日某所にて「宮」マーク入りグラス入手しました!
あまりの嬉しさにどう扱っていいのかわからずとりあえずレモンサワーを延々とグラスに注ぎついでに己のガツに流し込んでたらこの時間…
Posted by キンミヤ at 2005年06月20日 01:36
どうも、こんにちは。
流石、寄り道さん、お目が高い!
アタシも大好きな店!

ここの魚は殆ど時価で値段が変動しますね。
ですから、出来るだけカウンターの品書きの見えるところに座ってサービス品を狙って頼み、「黒ホッピー」呑るのが常です(笑)。

親子喧嘩も名物なんだけど、どこか微笑ましくて客は知らん顔してる(笑)愛嬌のいい親爺さんも最高ですョ。

Posted by たつ! at 2005年06月20日 10:41
よっちゃんさん、こんにちは。
親子喧嘩は火花の散る一瞬はありましたが、事なきを得たようです。美味しい魚を食べてのんびりのんで・・・これ以上何を望もうかって感じでした。

キンミヤさん、こんにちは。
日光街道を過ぎると、少し寂しい感じになりますね。それがまたいい雰囲気です。行きも帰りも、いろいろな店が頭に浮かんで大変でした。なんとか一軒で済みましたけど・・・。

「宮」マーク入りグラスとは、いいものを手に入れましたね。そりゃあ、飲みすぎてしまいますよ。

たつ!さん、こんにちは。
お客さんが食べているものすべてが美味しそうで、目移りしてしまいました。近くにあれば絶対通いますね。
マスターの笑顔には癒されました。
Posted by 寄り道 at 2005年06月20日 14:10
寄り道さんこんにちは。
「酒屋の酒場」いいですね。
以前、有楽町の「新日の基」で隣になった方からこのお店の話を聞いて凄く行ってみたかったのです。
大体の場所は聞いていたのですが、少し不安だったのでこの住所を頼りに今度行って見ます。
私は先週の金曜日に北千住の先にある春日部の居酒屋へ行って参りました。
仕事関係の人に以前より誘われていた店で、店名を「丸金」といい駅から5分ほどの場所にあります。
モツ関係のメニューが凄く充実していて、モツの刺身で5種類ほどあり驚きです。
そのほかにモツ焼き、モツ炒めと盛りだくさんです。
色々試した中でタンの刺身が最高でしたよ。
Posted by BIB at 2005年06月21日 23:48
BIBさん、こんにちは。
春日部の「丸金」ですね。寄り道には遠いですが・・・。機会があったら行ってみたいと思います。タン刺し・・・美味しそうです!
Posted by 寄り道 at 2005年06月22日 17:54
寄り道さん、こんにちは!
ご無沙汰しております
「酒屋の酒場」来ましたね〜
ここは、何と言っても「ポテサラ」!!!
200円でタップリ濃厚な逸品^^v
あとは親父さんのお薦めメニュー!
小生が行った時は「シマアジの天然もの」
こちらから言わなくても親父さんから
「今日いいのが市場で入ってね・・・」
「利益度外視!サービスしちゃうから食べみなよ〜」と出されたモノをみて驚愕・・・
どっさり!でした^^;
ハイボールも結構アタックが強かったですね〜
Posted by fuji at 2005年06月25日 08:41
fujiさん、こんにちは。
やっぱり下町の居酒屋はレベルが高いなあとしみじみ感じました。町屋の「亀田」もそうですが、さり気ない心遣いがいい雰囲気に繋がっている気がします。こういう店がまだまだたくさんあるんでしょうね。寄り道のし甲斐があります。
Posted by 寄り道 at 2005年06月25日 13:46