先日、新宿東口近辺を歩いていたところ、新たに2軒の立ち飲み屋を発見してしまった。それぞれ個性を出そうと工夫しているようで、時間があれば入ってみたいような店だった。このブログでも立ち飲み屋の記事が増えてきて、新宿だけでも「
おおのや」「
新宿ばーる」「
ひなどり」「
葵」の4軒。新宿から徒歩圏内の大久保にも「
ぽかぽこ」「
大久保バール」。もちろん記事で紹介していない店が他にもある。この新宿地区をはじめ、立ち飲みといえば恵比寿や渋谷、新橋、神田・・・どの地区にもものすごい勢いで増えているようだ。
しかし、いかにも立ち飲み屋がありそうな繁華街をもつ地区ではないところに、立ち飲み屋はないのだろうか。ふと、そういう思いにとらわれてしまった。例えば学校が多い文教地区で、駅前商店街もこぢんまりしているような場所に・・・。
仕事が早く終わった日。午後5時過ぎ。立っていたのは地下鉄丸の内線「茗荷谷」駅からすぐの道端。目の前に「立ち飲み處 皆吉」の看板が見える。店の外観は新しくてスッキリしている。街に自然に溶け込んでいる。こ、これは入らねば・・・。ドアを開ける。ん?準備中?カウンターの中の女性が、「まだなんですよ。」マスターが「すみません。5時半からなんです。」・・・しまった。「すみません。また後で来ます。」
どうも立ち飲み屋は早い時間からやっているはず、という先入観があったようだ。どこかで時間をつぶさねば。駅前に出るとドトールがある。じゃあ、ここで。というわけでアイスコーヒーを注文し、窓際の席に。村上春樹の新刊『東京奇譚集』を取り出す。60ページほど読んだところで、時計を見ると5時35分。よし。ドトールを出る。「皆吉」に向かいながら、つくづくこの街は中高生が多いなと実感する。多くの学校があり、下校時間と重なったせいではあるが、大人が少ないぞ。
「皆吉」の前に着く。ドアが開け放されて、長い暖簾が下がっている。中に入るとカウンターの中のマスターとすぐ目が合う。「先ほどはすみませんでした。」と声をかけてくれる。「いえいえ、こちらこそ。確かめずに入ってしまって・・・。」そこに奥さんが出てきて、「いらっしゃいませ。」といいながら会釈、そのまま店を出て行く。料理の手伝いを終えてちょうど帰るところだったらしい。
店の中は予想以上に広い。壁に沿ってカウンターが作られ。メインのカウンターには日本酒や焼酎の一升瓶がずらりと並んでいる。シンプルだがよく考えられたつくりで、ゆったりと飲むにはいい環境なのではないだろうか。メインカウンターそばのテーブルに立つ位置を決める。
「お飲み物は?」「ビールをください。」・・・壁やボードにメニューが書かれているのだが、値段は一切書いてない。生ビールが届く。「どうも。」「400円です。」・・・ああ、その場で清算するシステムなのか。財布を鞄から取り出して400円を渡す。ビールをぐっと飲む。ふは〜、美味しい。おつまみは・・・カウンターの上には枝豆やきぬかつぎ、鰯の煮付け、などが並び・・・おお、じゃこ天がある。「これは・・・」「はい、長崎のじゃこ天です。」「じゃあ、これを。」「分かりました。」・・・マスターがじゃこ天を炙り始める。
「じゃこ天」が届く。「え〜と・・・」「400円です。」「つまり、全品400円ということですか?」「そうなんですよ。」「焼酎とかも?」「はい。日本酒もお得です。」・・・焼酎は「一粒の麦」や「富乃宝山」などをはじめなかなかの品揃え。日本酒も八海山の本醸造や黒龍の純米吟醸、十四代の本丸などがずらり。ほー。・・・さてじゃこ天を・・・う〜ん、魚の旨味が凝縮されている。美味しい〜。ビール、ビール。
「お店、広くていいですね。」「ありがとうございます。ゆったり飲んでいただきたいので。中には2時間くらい腰を据えて飲まれる方もいらっしゃいます。」・・・そうだろうなあ。「立ち飲みは、わいわい賑やかな方かいいという考え方もありますが。」「いや、落ち着いて飲むというのも貴重ですよ。」「そうですね。」「カウンターやテーブルに使っている木もいいですね。」「群馬まで行って仕入れたんです。」「ほー。店のデザインは?」「自分でやりました。」「すごいです。」
ビールを飲み終えたので、次は・・・日本酒にするかな。いろいろあって迷うが・・・
その中で、臥龍梅の純米吟醸ひやおろしをもらうことに。静岡の酒だ。慣れてきたので、カウンターに400円を置いて注文。冷蔵庫から一升瓶が取り出され、まずラベルをことらに見せて確認。次にグラスに慎重に注ぐ。「どうぞ。」では、早速・・・ほぅ・・まずは華やかな香りがふわっと広がり、米のしっかりとした味がその後に続く。いい酒だなあ。
男性が1人入ってくる。初めてのようで、どこに立っていいか迷っている様子。「ビールある?」「はい、ビールですね。」「あっ、待って。瓶で。」「生だけなんですが。」「そう、じゃあ、それでいいよ。」「あとね〜、この鰯、それにこっちは里芋?」「はい、きぬかつぎです。」「じゃあ、それも。これは?」「長崎のじゃこ天です。」「いいね。これも。」「1600円です。」「あっ、まって手羽もちょうだい。」「はい。では2000円です。」ビールを持って壁際のカウンターに移動。やっと落ち着いた様子。
男性客はビールを飲みながら、次々と届く4種類のつまみを黙々と食べ始める。「この鰯、どうやったらこんなに柔らかくなるの?おいしいよ。鰯の煮付け、自分でも作るんだけど、うまくいかないんだよ。」「ありがとうございます。」マスターは親切に梅干や生姜も選ばなくてはいけないとか、料理酒ではなくちゃんとした日本酒を使わなくてはいけないとか、アドバイス。聞いていると、自分も食べたくなってしまう。
2杯目は「陸奥八仙」のひやおろし無濾過原酒を選ぶ。青森の酒だ。800円を渡しながら鰯も注文。「陸奥八仙」が届く。早速、一口・・・こちらはどっしりとした味わいだ。その中から爽やかな芳香がさっと口の中に広がり、それが深い旨味に変わっていく。美味しい!こちらもいい酒だなあ。
温められた「鰯の煮付け」が届く。まるまるとした鰯だなあ。では一口・・・ほっこりしている・・・確かに柔らかい・・・生姜によって臭みが消え、その代わりに旨味が十分引き出されている。煮汁も甘味を抑えたくどくない味で、鰯の味わいがそのまま残されているという感じだ。美味しい。
若い男性が入ってきて、カウンターの中に入る。キビキビした動き。いいなあ。マスターは所用があるらしく、店を任せて外出。入れ替わりにお客さんが2人入ってくる。「いらっしゃいませ!。」と元気のいい声。「焼酎にしようかなあ。」というお客さんに、「こちらは・・・」などと的確に解説。これは確かに任せても大丈夫だな。
さて、この辺で。「ごちそうさま。」「ありがとうございました。」元気な声を背に店を出る。
今日は上着を着ないと肌寒いくらいの1日だった。空もいつ雨が降ってきてもおかしくないくらい。徐々に秋も深まっていくようだ。寂しさよりも、爽やかさを感じ取ろうと、ゆっくり歩いて駅に向かう。
東京都文京区小日向4-6-3
Posted by hisashi721 at 16:00│
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