寄り道Blog

雨の渋谷。東急プラザ横を中央街に入り、「千両」の角を右へ。「福ちゃん」の立ち飲みコーナーは今日も満員。さらにマークシティー横の坂道を上る。「鳥升」のカウンターも常連さんで賑わっているようだ。それにしても、この坂は急だなあ。油断すると転げ落ちそうだ。かつて、酔っ払ってこの坂をダッシュで駆け上がったことがあるが、よく死ななかったなあと今更ながら思う。

坂を上りきると、そこは飲み屋が入ったビルが目に付く。今夜、坂を上ってやってきたのは、この辺りで気になっていた店があったからだ。なんとなく店構えに風格がある。店の名は「七福」。傘を畳みながら、ドアを開けようとすると、後ろから「いらっしゃいませ。」と声をかけられる。見ると和服の女性。この店の女将さんらしい。外出していて今帰ってきたという感じ。一緒に店に入る。

「お1人？」「ええ。」「じゃあ、こちらのテーブルに。」4人掛けのテーブルを示される。カウンターには大学生風の若い男性が座っている。それ以外のお客さんは、サラリーマン風で年齢も30代から50代くらいの落ち着いたスーツ姿の人ばかり。大人の店という落ち着いた雰囲気だ。とにかく、テーブル席に座る。

立派なメニューが出てくる。「お飲み物は？」「瓶ビール（エビス中580円）をお願いします。」メニューを眺める。各種の鍋物から始まって、焼き物などの一品料理が並ぶ。どうやら料理を中心とした店のようだ。その中から「地鶏の生姜焼（700円）を選ぶ。つなぎは「冷奴（300円）」で。女将さんがビールとグラスを届けてくれる。「どうぞ。」とお酌をしてくれる。「どうも。」・・・こういう時はぎこちなくなってしまうなあ。



つまみを注文して、ビールを一口飲んで落ち着く。お通しは厚揚げ煮。これがまた上品な甘さで美味しい。ビールが進む。カウンターの大学生には、丼のご飯と、大きな焼き魚、味噌汁などが出されている。「マグロも食べる？」などと優しく話しかけられている。息子さん？お孫さんかも？大人しくて真面目そうな若者だ。細い身体に似合わずもりもりとご飯を食べている。それを女将さんとマスターが優しく見守っている。心安らぐ光景だ。

「冷奴」が届く。醤油をかけまわし、葱と生姜をまぶして一口・・・滑らかな舌触り・・・すっとした冷え具合・・・改めて冷奴が酒のつまみとして優れていると感じる。ビールもじっくり飲まなくては。隣のテーブルには中年のサラリーマンが2人。お刺身と海老を食べながら、日本酒。口調も穏やかで、この店に合っている。こういう雰囲気の中にいると、エビスビールがうまいなあ〜。



カウンターの若者は、デザートの柿を食べている。大切にされてるなあ。大学の話をぽつりぽつりと聞かれるままに答えている。そこに、常連らしき中年サラリーマン2人が入ってくる。女将さんが、「いらっしゃい！」と張りのある声で迎える。「ここ、いい？」と2人。6人掛けのテーブルの前に立つ。「どうぞ、おかけください。」と女将さん。「焼酎、ボトル出します？そちらはビールでしょ。」「よく覚えてるね。じゃあボトル出して。こちらには、まずビールを。」・・・素晴らしい接客だ。

隣のテーブルにお茶漬けが届く。最後にお茶漬けで〆るというのもいいなあ。お新香を食べながらサラサラと召し上がっていらっしゃる。新しく入ってきた２人組はメニューを見ている。「何を食べようかな。イカ姿焼きと・・・」「旬の牡蠣でフライはどう？」と女将さん。「いいねー、じゃあ牡蠣フライ！」・・・そうか10月だからなあ。牡蠣フライももう旬なんだ。

「地鶏の生姜焼き」が届く。大ぶりの切り身がこんがりとやかれている。さっそく一切れ・・・熱い〜、ジューシー、はふはふ・・・生姜の香りが効いている〜、パリパリの皮も美味しい！これは、いい！ビールを一口飲んで・・・。はぁ〜。そうだ、お酒を飲もう。この雰囲気はやはり燗酒。「すみません。お酒（500円）、燗で。」「はい。」



燗酒が届く。やはり「どうぞ。」とお酌をしてもらう。「どうも。」・・・では、一口・・・いい燗がついてるなあ。しみじみ美味しいぞ。ほわっと柔らかく口の中に広がって行く。地鶏をつまみに、ゆっくりと・・・。隣のテーブルのお客さんが席を立つ。女将さんが丁寧に「どうも、ありがとうございました。」と頭を下げている。「またね。」「どうぞ、よろしくお願いします。」・・・心がこもっている。



燗酒をお替りしてゆったり飲んでいると、1人でいるのが快くなってくる。何にも気を使わずに、お酒を楽しむ。いろいろな考えが浮かんでは消えるが、それを深くは追わず、自然のままにしておく。いわばロンリネス・ハイとでもいうべき状態か・・・。

さて、この辺で。今日もいい時間を過ごさせてもらった。「ごちそうさまです。」「ありがとうございました。」笑顔の女将さん。席を立つ。「また、どうぞお越しください。」「また来ます。」外に出るまで、見送ってくれる。

外に出る。雨は降り続いている。坂を下りながら、これまで数え切れないくらい、自分は雨の中を1人で歩いてきたんだなと思う。

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