寄り道Blog

JR新宿駅南口。台風などが来ると何故かこの場所が中継される。例えば・・・「JR新宿駅南口です。まだ雨は降っていませんが、時折強い風が吹き台風の接近を感じさせます。JR東日本によりますと、まだダイヤの乱れなどは出ていませんが、今後の台風の進路によっては、運転の見合わせなども予想されるとのことで、帰宅時間を急ぐよう呼びかけています。以上、JR新宿駅南口でした。」レポーターの後ろで携帯をかけながらVサインをしている若者が映っている・・・みたいな。

そんなことを思い出しながら、目の前の横断歩道を渡り、右に歩き通称サザンテラスに出る。すっかりクリスマスモードに入っている。イルミネーションに一瞬幻惑される。NTTドコモビルの時計が7時を回っているのを確認して、スターバックス方面に歩きはじめる。

ちょっとした買い物を済ませて、さて、どうしようかと考える。このまま南口から帰ってもいいが・・・せっかくだから、このイルミネーションを見ながらビールでも飲みたいな。広島のアンテナショップ「夢テラス」にある居酒屋「歓水亭」を覗いてみる・・・満席だ。う〜ん。じゃあ・・・思い出横丁が頭に浮かぶ・・・ちょっと雰囲気が違うなあ。クリスマスっぽくないもんなあ・・・でも、一度頭に浮かぶと離れないものだ。まあ、いいかぁ、まだ11月だし・・・。

ということで京王デパートから小田急デパートのまえを通って、思い出横丁に到着。さてどこにしようかなと歩き始めると、意外と人通りが多い。カメラをもった外国人観光客なども歩いている。その中を歩きながら店を探す。「カブト」は4席ほど空いている・・・いいなあ。「藤の家」も入れそう。ホッピーを飲んでいるお客さんと目が合う。美味しそうだ・・・。お客さんが全く入っていない店もある・・・なぜだ？ざっと歩いて、引き返す。今日は「つるかめ食堂」だな。牛すじ煮込みが食べたくなったのだ。自分にとって「つるかめ食堂」は何といっても「牛すじ」。ああ、食べたい。

店の左側のドアを開けると、ちょうどその前の席が空いている。「いらっしゃい！」とカウンターの中のお兄さんが大きな声で出迎えてくれる。座りながら「ビール（600円）ね。」と注文。「はい、ビール！」。お兄さんが冷蔵庫からビールを取り出し、栓抜きをセットする。来るぞ、来るぞ・・・ぽ〜ん！という大きな音が響く。今日もいい音出してるなあ。

ビールをグラスに注いで一口・・・ふぃ〜、美味しい！店の中は9割の入り。食事のお客さんは少ない。大体の人はビールを飲みながら、一品料理を食べている。他人の食べているものは大体美味しそうに見えるもの。斜め前のお客さんが食べているトンカツが気になるぞ。とはいえ、もちろん注文は「牛すじ煮込み（300円）ください。」「はい、牛すじね。」目の前のお兄さんは中国の方。とても元気だ。



牛すじ煮込みが届く。さて、一口・・・おお、柔らかい・・・とろとろしてるよー。味わいが深いなあ。ビール、ビール。この牛すじ煮込みは、「つるかめ食堂」名物の丼物の一つ「元気丼」に乗せられているもの。元気丼はその他に牛タンマリネも乗って500円。沼袋の「四文屋」というもつ焼き屋で、ご飯に煮込みをかけたメニューを見たことがあるが、煮込みを丼にして食べるというのはそそられるものだ。




そこにおじさんが一人入ってくる。「よう。」とお兄さんに声をかけて自分の右隣に座る。「せいちゃ〜ん。」とお兄さんが嬉しそうに答える。店の人気常連？もう一人のお兄さんも「せいちゃ〜ん、せいちゃ〜ん。」と連呼・・・そんなに人気が・・・。「ビール。」「せいちゃ〜ん、ビール。」ビールの栓がぽ〜んと抜かれる。おじさんがビールを待ちかねたようにグラスに注いでぐいっと飲む。さて、おつまみは？「ソイヘッド！」・・・でた〜。ソイヘッドだ。やはりこの店の名物丼「ソイ丼」のおかずの部分。大豆とひき肉がカレーの味になっている。メニューには「ソイの頭」とあるがそれを「ソイヘッド」と呼ぶところが渋い。「せいちゃ〜ん、ソイヘッド！」お兄さんの元気な声が響く。

ビールを飲み終えて、次はチューハイ〈350円）。ベースは金宮焼酎。グラスには亀甲宮のマーク。チューハイが届く。すっと一口・・・さわやか〜。今度はゆっくり飲もっと。「どうぞ、お二人さん、空いてますよ。」というお兄さんの声で外を見ると、若い女性二人が、中を覗きながら入るのを躊躇している様子。「どうぞ、どうぞ。」というお兄さんの押しが勝って、二人はドアを開けて入ってくる。自分の左隣のお客さんが、ぐっと奥まで詰めて、席が二つ空く。つまり自分の左隣に二人は入ってくる。「はい、メニュー。」とお兄さんがメニューを差し出す。



二人は女子学生風。小さな声で話し合っている。「これ、おいしいよ。」とお兄さんがアドバイス。「あれ、二人は韓国の人？」・・・お兄さんが二人に尋ねる。「そうです。」「日本語上手だね。韓国はどちら？」「ソウルです。」「おお、オリンピックの時に行ったよ。」「ああ。」「ディズニーランド行った？」「まだです。」・・・自分の側で中国の方と韓国の方が日本語で喋っている。なんだか不思議だ。結局、ふたりは「玉子丼」と「フラメンキン（牛肉のガーリック天ぷら）」の定食を注文。

自分も何か揚げ物がほしくなり、「海老かつ（250円）」を注文する。左隣の二人は、出てきた玉子丼とフラメンキンをデジカメで撮影。その後慎重に食べ始める。右隣のせいちゃんは、ビールをもう1本追加。自分はチューハイをゆっくり飲み、なんだか眠くなってくるのを感じている。

「海老かつ」が届く。海老寄せフライという感じの料理だ。一口・・・おお、海老のぷりっとした身がいい歯応え・・・しゃりっとしたいい揚がり具合。美味しいねー。チューハイ、チューハイ。今度は、ついてきた練りからしをちょっとつけて・・・おお、鼻につ〜んとくるぞー。これがまたいい。「チューハイお替り、お願いします！」



チューハイをお替りすると、そのしるしに小さなお椀が空のビール瓶の上に乗せられる。それがなかなか面白い。せいちゃんはビール2本さっと飲んで席を立つ。「せいちゃ〜ん、もう帰るの。」「今日はこれでな。」「忘年会しようね〜。」「じゃあ、また。」「ありがとう！」・・・せいちゃんって、何者？



せいちゃんと入れ違いに、またおじさんが入ってくる。「ビールと・・・」お、考えてるぞ。予想は肉じゃが・・・「え〜と・・・んー・・・」迷ってるなあ・・・「豚汁」・・・ビールと豚汁？予想できない組み合わせだ。

さて、チューハイを飲み終えて、今日はこの辺で。「ごちそうさま。」おじさんは豚汁を啜りながら、ビールを美味しそうに飲んでいる。ホントに合うのか？「ありがとうございました。またよろしく！」と元気な声で送ってくれる。

外に出る。思い出横丁を通り抜けて大ガード側に出る。西武新宿駅に向かう。今日は気温が比較的高く、穏やかな夜だ。大勢の人と大きな横断歩道を渡る。新宿の夜はまだまだこれから。自分の寄り道はささやかな夢のようだ。