寒い・・・くぅ〜、風が強いなあ。早く、どこかの店に入らなくては・・・。またまた、西武新宿線に乗り換えず、高田馬場駅で降りてしまった・・・。足は自然と「さかえ通り」に向かっている。「清龍」から出てきたおじさんグループがの一人が、「ほー、寒いねー」と大きな声を出す。「そりゃあ、12月だもんよ。寒くなきゃ、困るべ。」「雪が降ってるわけじゃなし、酒が足りねえんじゃねえか。」などと言い合いながらグループは駅方面に歩いていく。平和な光景である。
左手の小路を猫がよぎっていくのが見える。おお、こんな寒い夜に・・・大丈夫か・・・思わず駆け寄る。ちらりとこちらを見た猫は・・・全速力で逃げていく・・・心配してやったのに。傷つくぞ。さて、猫に誘われて入った小路ではあるが、自分の今日の目的も実はここ。この通りには飲み屋が幾つか並んでいる。その奥は怪しげなホテル。更にその先には渋い卓球場が見える。
小路の中ほどにある「とん八」は、いつ覗いても大勢のお客さんで賑わっている。今日はどうだろうか。ガラス戸を透かして中を見る・・・一見すると満員。テーブルや奥の小上がり座敷は埋まっている。カウンターも隙間なくお客さんが座っているように見えるが・・・一人だから何とかなるかもしれないな。とにかく入ってみよう。ドアを開ける。
ドアを背に立っていたお兄さんが、さっと振り返って「お一人様ですか?」と声をかけてくれる。「一人です。」と答えると、「じゃあ、こちらにどうぞ。」とカウンターの中ほどの席を示してくれる。そちらを見ると確かに椅子は一つ空いているが、スペースが狭すぎる。気づいた左右のお客さんが少しずつ詰めてくれて、ようやく一人分のスペースができる。鞄を棚の上に乗せ、コートを壁際のハンガーに掛けて、そのスペースにはまり込むように座る。
「まず、お飲み物からおねがいします。」「ビール(大550円)を。」「はい。」・・・自分の前にはネタケースがある。中には今日のお薦めの素材がズラリ。牡蠣、赤貝のひも、つぶ貝、銀だら、えぼ鯛、まぐろ・・・さてと、何を食べようかな。店の壁のメニューを眺めてみる。店名からしても、やはり焼とんからかな。カウンターの奥の席で学生風のお客さんがタレ焼きの焼とんを、皿に盛り上がるほど注文してもりもり食べている。うまそ〜。ビールが届く。一口・・・ふひ〜、美味しい。タレの焼とん食べたい〜。
「すみません。かしらとはつを、タレで2本ずつ。」と注文。この店は、塩、タレ、辛味噌の3種類から味を選べるようだ。楽しみ、楽しみ。左隣のお客さんが席を立つ。おお、スペースが広がった。ふ〜。その左がさっきの学生2人組。一人は学生服。体育会系?よく見ると、2人の奥におじさんがいる。大学の先生だろうか。主にそのおじさんがしゃべって、2人は食べながら聞いている。「昔は金がなくてね。終電を逃すと、よく小岩から市川まで歩いて帰ったもんだよ。ははは。」「へー。」「ほー。」「あと、深夜喫茶ってのもあったな。珈琲が普通は50円だったんだな。それが深夜料金で200円。高かったなあ。」「ほー。」「・・・(もぐもぐ)。」「でな、あくまで喫茶店だから、寝ちゃあいけないんだよ。寝てると起こされるわけ。それがつらいんだよな〜。」「あー」「ふー。」・・・って感じ。
焼とんが届く。来た、来た。このタレの照り・・いいなあ。早速、はつから・・・一口・・・この甘口の濃厚のタレが、肉にまとわりついて・・・焼き加減もいいなあ、このこんがりと焼けた食感・・・美味しい!ビール、ビール。ゴクゴク・・・ぷふ〜。次は、かしらだな・・・こっちは肉の味も濃いから・・・タレと肉の味がうまくミックスされて・・・たまらな〜い。ビ、ビ〜〜〜〜ル。
右隣のおじさんはウーロンハイ。つまみは酢の物としらすおろし。さっぱりした組み合わせだなあ。その右のお客さんは今日始めてこの店に入ったらしい。元気のいい人である。「いやー、いつも覗くとね、いっぱいだから。今日は空いてるなと思ってね。いいねー、この店。料理も美味いしね。ご飯ほしいよ。」「うちはご飯のおかずになるつまみが多いですからね」「私は昭和8年生まれ。71歳になるんだよ。マスターは?」「9年の3月」「うわー、同級生か・・・。」・・・2人とも元気よすぎ。
今日のお薦めのホワイトボードで気になっている「牡蠣の柳川風(500円)」を選んで注文。目の前のネタケースに入っている牡蠣がぷりっとして美味しそうなのだ。「ごぼうがなくなったので、葱でもいい?」と女将さん。葱でも美味しそうだ。楽しみ、楽しみ。飲み物はライムサワー(300円)に切り替える。
ライムサワーが届く。レモンでもいいのだが、今日はライムで。さて、一口・・・爽やか〜。ぐびぐび・・・ん。猫の鳴き声が聞こえるぞ。マスターも気がついて、「寒いから、中に入りたいんだろう。」と一言。そうそう。しばらくして、また聞こえる・・・「俺を呼んでいるような気がするなあ。」と、またマスター。この通りは猫が多いのだ。自分も呼んでくれ〜。
牡蠣の柳川風が届く。おお!牡蠣がぷりっとしてるなあ。これは美味しそうだ・・・早速一口・・・まず牡蠣から・・・ふは〜、出汁のよく効いたスープの味がよく滲みこんで・・・はふ〜・・・美味しい!サワー、サワー・・・、もう一口・・・は〜、これは美味しい。葱のしゃきしゃき感もいいぞ!
目の前で誰かが注文した厚揚げが焼かれている・・・これも美味しそうだなあ〜。注文しちゃおうかな。「すみません。厚揚げ(350円)ください。」・・・他のお客さんが食べている玉子焼きや、銀だらやきなんかも本当に美味しそうだ。この店、いいなあ。
ライムサワーをお替りしたころ、厚揚げが焼きあがってくる。たっぷりの大根おろしにおろし生姜がのっている。厚揚げの表面には焦げ目がついて食欲をそそる。さて、大根おろしに醤油をかけて、生姜とともに厚揚げにのせて、一口・・・ん・・・もう〜、これは美味しい!表面がカリッとして中が滑らか・・・味わい深いぞ!サワー、サワー。
2杯目のサワーを飲み干して、今日はここまで。猫も呼んでるし・・・。「ごちそうさま。」「ありがとうございました!」働き者のお兄さんが気持ちよく送ってくれる。
外に出る。探してみたが猫は見当たらない。どこかのお店に入れてもらったのだろうか。さかえ通りに戻る。駅までの道は近いが、いい店に入った後は、余韻を楽しみたいものだ。それにしても風が冷たい。冬はまだ始まったばかりだ。懐かしい寒さが自分を包む。
Posted by hisashi721 at 16:13│
Comments(4)│
TrackBack(0)