寄り道Blog

土曜日のせいだろうか。東急大井町線の車内は静かだ。車内放送が「戸越公園」駅が近づいたことを告げる。前2両はドアが開かないので、降りる場合は後の車両に移るようにとの注意が続いて放送される。自分は最後部の車両に乗っているので、駅に電車が着くまでそのままで待つ。電車が駅に滑り込む。ドアが開く。初めて降り立つ駅にはいつも心躍る。風は穏やかだ。

線路を渡り、南口に出て、商店街を真っ直ぐ歩く。道の両側に店がずらりと並び、本当に商店街らしい商店街だ。時間があればぶらぶらと店を覗いて歩きたくなるほど。焼き鳥屋が多いなあ。おっ、銭湯もあるぞ・・・街歩きにはいいなあ、などと考えながらそれでも早足で歩いていく。

長い商店街がやっと途切れはじめた頃、赤い提灯が見えてくる。多分あそこだな。見当をつけて近づいていく。看板が見える。「伊豆屋」とある。やっぱりここだ。前を歩いていた男性がすっと店に入る。「いらっしゃい！。」という声が中から聞こえてくる。自分も続いて店に入る。

店の中はとてもシンプルなつくり。余計なものがない。入り口右が焼き台。それに続いてカウンターが奥にのびる。左手は4人掛けテーブル3卓。一足先に入ったお客さんは、一番奥のテーブル席のところでコートを脱いでいる。スーツ姿でやや大きめのバッグを持参しているところから見ると、出張帰りのビジネスマンというところか。地元に着いてほっと一息。さてビールでも飲んで帰ろうかという感じ。

カウンター席は詰めれば10人は座れそうだが、椅子は6つくらいゆったりとした間隔をあけて置かれている。入り口側に3人。奥の3つは空いているのでそこに座ろうかと、近づいていくと、「テーブルでもいいですよ。どうぞ。」と女将さんが優しく話しかけてくれる。前のお客さんもそうだが、コートや鞄を見て、ゆったりとした席をすすめてくれたらしい。これだけでいい店だということがわかる。真ん中のテーブルに座ることにする。

「お飲み物は？」「ホッピー（400円）、お願いします。」・・・この店は、何だか空気が柔らかい。カウンターのお客さんも、前のビジネスマンも話しぶりから見ると完全に地元の常連さんばかり。でも、「あれっ、誰だ？」という雰囲気もなく、自然に受け入れてくれるようだ。女将さんもマスターも、一人の客として丁寧に扱ってくれる。いいなー、この店。

ホッピーセットが届く。氷の入ったジョッキにホッピーを注ぐ。一口・・・うう、美味しい〜。少し遠くまで来たせいだろうか、味が違うような気がする。マイルドというか・・・なんだか美味しいぞ。・・・さて、焼き物から注文するかな。焼き鳥、焼とんはほとんど1串100円。「すみません。れば、かしら・・・え〜と、つくねを2本ずつ。つくねがタレで、あとは塩でお願いします。」と注文。



店の奥にはテレビがある。どうやらトヨタカップ開幕前日のバラエティー番組のようだ。お笑い芸人と上戸彩が出演している。・・・「ペナルティ」のワッキーだ。そういえば市立船橋高校出身だったよな。サッカー、上手かったはずだ・・・などと見入ってしまう。他のお客さんも笑いながら見ている。

「はい、どうぞ。」という声にはっとすると、目の前に焼き物が届いている。一つの皿に6本のっている。おー、見た感じからして美味しそー。早速、ればから・・・一口・・・おおっ！これの食感は・・・しゃきっとしたればだなあ・・・甘味を感じる・・・これ、美味しいよー。さすが地理的にも、もつのレベルが高い。んー、美味しい！ホッピー、ホッピー。では、かしらを・・・一口・・・くぉ〜、こっちもいいな〜。しっかりした肉の味・・・美味しー。ほ、ホッピー、ホッピー。ふぃ〜、次つくね。一口・・・おろっ、このシンプルなタレの味・・・甘い中にも醤油がきりっと効いていて・・・ほろっとした食感もいいよな〜。んまぁい！ホッピー、ホッ・・・無くなっちゃった。「すみません。ナカミ（250円）、お願いします。」



ナカミ（焼酎）は金宮。18リットル入りのダンボールのような容器から、注がれる。こんなでかい金宮は初めて見たな〜、などと感心する。ナカミが届く。ホッピーを注ぐ。今日はホッピー1本につき2杯のペースで行くことにする。カウンターでは地元のお店の話が始まる。中延や戸越銀座の話。中学の同級生の店の話などで盛り上がっているようだ。自分には聞いてもわからない話が多いが、地元への愛情は話の端々から伝わってくる。地元の飲み屋ってこういう話が楽しいんだろうなあ。いいなあ。

次のつまみは・・・いろいろあるが・・・「すみません。煮込み（400円）ください。」・・・やっぱり基本は抑えておかなきゃ。「こっちにも煮込みもらおうかな。」カウンターのお客さんが後に続いて注文。こういうのって、なんだか嬉しい。ちょっとだけ連帯感が生まれたような気が・・・。

「煮込み」が届く。う〜ん、予想通り。こってりと煮込まれて、食欲をそそる照り具合。しかも、玉子入り！いいぞ。では、一口・・・ほわ〜、柔らか〜い・・・この濃厚な味わい・・・たれのまろやかさ・・・また上にのせられたネギがシャキシャキして・・・う、うま〜い。この店・・・んもう、たまりませ〜ん。ホッピー、ホッピー。もう一口・・・煮込み、いいよ〜。ホッピー・・・「すみません。ホッピー、セットで！」



テレビでは相変わらずお笑い芸人たちが大活躍。「この人たちあんまり面白くない。」と、あるお客さん。じゃあ、だれが好きかという話になる。「次長課長が面白いよ。」・・・おお、岡山出身のグループだな。「う〜ん。品川庄司もいいね。」「うちの息子、品川に似てる・・・庄司だったらよかったんだけど。」・・・品川だけが面白いんだよな。庄司は甘いマスクで人気だが・・・。しかし、ホッピー、美味しいなあ。この店の雰囲気がいいからだろうか・・・。

ナカミを注文して4杯目のホッピーを飲んでいるころ、お客さんが続いてはいってくる。最初の2人は自分の後ろの入り口近くのテーブルへ。次の1人はカウンターへ。それぞれが焼き物を注文して、店内にはいい匂いの煙が流れ始める。カウンターのお客さんは「大根の塩もみ」を注文。「味の素ある？」「味の素、好きねえ。」・・・わかるなー、実は自分も「味の素好き」なのだ。

さて、店内も混んできたことだし、4人テーブルをずっと占領させてもらうわけにはいかない。今日はこの辺で。「ごちそうさま。」「ありがとうございました。」席を立つ。マスターも「ありがとうございました。」と笑顔を見せてくれる。その笑顔に癒されながら店を出る。

外に出る。商店街を駅に向かって歩き始める。それにしても、優しい雰囲気の店だったなあ。これなら、出張から帰ってきて真っ先に寄りたくなる。この店があるから、この街に住んでよかったと思う人もたくさんいるんだろうな。途中で猫と出会う。甘えて自分の足に体を摺り寄せてくる。しばらく遊んで、また駅に向かう。駅が近づく。もう少しこの街の優しさの中にいたいと思う。




東京都品川区豊町５-１０-１４ 03-3781-1503　
17:00〜23：00