冬の夜はカウンターの片隅で・・・学芸大学「目黒かっぱ」

学芸大学駅東口。商店街はクリスマスの電飾で華やかな雰囲気だ。そのまばゆい光の中を歩きははじめる。駅前のパン屋からいい香りが洩れている。目の前のビルの2階には、お気に入りの珈琲店「りどうあんぐいゆ」がある。この界隈を歩くのは久しぶりだ。
レトロな雰囲気の洋食屋「三沢堂」も健在だ。ここのハンバーグも思い出深い。さて、メインストリートから、右に曲がる。少し歩くと、焼き鳥屋「むら井」と並んで、昔ながらの居酒屋の雰囲気を漂わせている店がある。看板には「目黒かっぱ」とある。紀州名物「なれ寿司」で有名な店だ。
ドアを開けて中に入る。10人位座れそうなカウンターが奥にのびている。入り口近くの席に座っているお客さんの視線が上に向いている。入り口の上にテレビが置かれているのだ。カウンターの中の女将さんが笑顔で「いらっしゃいませ」と声をかけてくれる。手前のお客さんに「すみません」とことわって、後ろを通り店の奥に進すすむ。
「ビール(大550円)ください。」と注文。「サッポロ、キリン・・・。」・・・銘柄を選ぶスタイルだったか。「「じゃあ、サッポロで」。ふと横を見ると、入り口近くのお客さんはキリンビールを飲んでいる。「はい。」と女将さんがまずグラスを渡してくれる。「どうも。」と受け取ると、女将さんがビール瓶を持って待っている。おお、お酌をしてくれるのか、とグラスを出す。女将さんは、一瞬「えっ?」という表情だったが、すぐに笑顔で「ようこそ」とお酌をしてくれる・・・勘違いだったか。「すみません。そういうことじゃなかったんですね。」「いえいえ。」ちょっと恥ずかしいぞ。
さて、何を食べようかな。カウンターの上には大皿料理。美味しそうな煮物が並んでいる。その中から「高野豆腐と竹の子の煮物」を選ぶ。またまた、ふと気づくと、入り口近くのお客さんの同じものを食べている・・・う〜ん、どうも他のお客さんの、注文しているものが気になるなあ。
煮物が届く。おお、鶏肉や椎茸も入っている。さて、一口・・・まず、高野豆腐から・・・ほっほー、そんなに甘くない上品な味だ・・・出汁がよく効いている・・・その煮汁がよぉ〜く滲みている〜・・・美味しい!ビール、ビール。竹の子も・・・一口・・・しゃきっとした歯ごたえ・・・ふ〜む、噛むといい香りが口の中に広がるぞ〜・・・これもいい!ビ〜〜〜ル!
ビールを飲みながら、後の壁に貼ってある和歌山県の地図を見ていると、「和歌山県には行かれたことありますか?」と女将さんに尋ねられる。「一度もないんです。」「ああ、そうですか〜。」・・・しまった、これでは会話が終わってしまう。「串本出身の友達がいましたけど・・・。」「串本ね。いいところですよ。いまはダイビングが盛んですね。」「へ〜。」・・・いいぞ、いいぞ。
目の前の笊の中には、うるめいわしの丸干しとさんまの丸干しが入っている。さんまの丸干しは食べたことないなあ。壁のメニューには「紀州直送」とある。「これは、届いたばかりだから、まだ柔らかいわよ。」と女将さん。美味しそうだなあ。天井から吊るされた丸干しを指差して、「こっちは時間が経っているので、少し固めだけど・・・」みると吊るされた方はいい感じの飴色になっている。こっちも美味しそうだ。初心者としては新しい方を注文すべきだろう・・・。「じゃあ、柔らかいほうをお願いします。」「はい。」
女将さんは新宮の出身。新宮というと、詩人の佐藤春夫を思い出す。それも「秋刀魚の歌」・・・「あはれ秋風よ 情あらば伝へてよ――男ありて今日の夕げに ひとりさんまを食ひて思ひにふける と。・・・」・・・そうか、新宮はさんまの漁獲地だったんだなあ。
さて、「さんま丸干し(400円)」が焼けてきたぞ〜。「脂が抜けてますからね。」ふむふむ。じゃあ、一口いただきますよ・・・おお!脂が抜けている分、旨味が強調されている・・・噛めば噛むほどその味わいが増して・・・美味し〜い!ビール、ビール、ビール。「これはいいですね。」「私が子供の頃は、お弁当に入れてもらってたんですよ。熱々のご飯の上に梅干と一緒にのせて、お昼にあけると、いい味が出てるんですよ。おかずはそれだけで十分。」・・・ぐお〜、美味しそうだなー。ビール、ビール。
さて、なれ寿司だな。「なれ寿司、食べたことないんですよ。癖があるような気がして・・・。」「うちのなれ寿司は現代風にアレンジしたものなので、癖はあまりないんですよ。」・・・この店のなれ寿司は、柔らかめに炊いたご飯に酢を混ぜて、その上に魚をのせ笹の葉で包む。それを箱に入れて何時間か押す。それを5日間くらいまで熟成させるのだそうだ。3日目くらいを好む人が多いらしい。・・・「じゃあ、鯖(300円)とあじ(350円)のなれ寿司をお願いします。」「はい、今日は3日目ですから、美味しいですよ。」楽しみ、楽しみ。
新しいお客さんが入ってきて、その方もなれ寿司を注文。「お腹が空いたから、まず、寿司からね。」・・・なるほど。なれ寿司が届く。「よかったらこれをつけて召し上がってみてください。」七味唐辛子がはいった醤油の皿が出てくる。では、まず何もつけずに・・笹の葉をむいて、一口・・・ほほー、これは・・・大坂の押し寿司の味わいを深くした感じ・・・癖はない。誰にでも好まれる味だ・・・ご飯がまたねっちりとして美味しい〜・・・ビ〜〜〜ル。
「赤ワインが合うと仰る方もいますよ。」と女将さん。「じゃあ、グラスワイン(300円)をお願いします。」・・・赤ワインが届く・・・では早速試してみよう・・・一口・・・むむ、フルーティーなワインの香りが、熟成したなれ寿司の深みのある味を引きたてて・・・いいなあ。
紀州名物といえば、もう一つ梅干がある。その梅干をリンゴと合えたものも美味しいそうだ。「昨日テレビの取材があって、歌手のHさんが食べていったんですよ。」・・・おお、あのHが!(放映前なので、イニシャルで・・・。若い演歌歌手のHです。おば様達の追っかけもいる、あの・・・)。
なれ寿司はあっという間に食べてしまう。で、次は・・・メニューに「ほねく(400円)」というのがある・・・。「ほねくっていうのは、さつま揚げみたいなものでしたっけ?」「そうですね。太刀魚のすり身を揚げたものですね。」「じゃあ、それもください。」「じゃあ、焼きましょうね。」
「お酒にしようかな。」「お燗しますか?」「そうですね。」「じゃあ、五十五万石(一合400円)の方がいいですね。」・・・南方熊楠ゆかりの酒蔵「世界一統」の「紀州五十五万石」だ。いいなあ。「じゃあ、ぬる目の燗でお願いします。」「はい、ぬる目ですね。」
お酒とほねくが届く。まず、酒から・・・一口・・・ふ〜む、ぬる燗は優しい口ざわりさなあ。ほんのりした香りがいい。味は辛口。では、ほねくを・・・香ばしく焼けているなあ・・・魚の味がしっかり残っている・・・いい風味だ・・・美味しい!酒、酒。ふい〜。
「今日は静かね。」と女将さん。「今日は金曜日ですからね。多分、皆さん忘年会じゃないですか?来週の金曜日は祝日だしね。」「そうですね。」「まあ、のんびり飲めていいですけど。」・・・お客さんと女将さんと少人数で、しみじみ話しながら飲むのもいいものだ。
さて、お酒を二合飲み終えて、今日はこの辺で。「ごちそうさまです。」「ありがとうございました。」今日はよく食べたなあ。お酒も美味しかった。今日も楽しい寄り道になったなあ。
外に出る。風が冷たい。駅に向かって歩きはじめると、どこからかクリスマスソングが聞こえてくる。さすがにこの時期になると夜は冷える。だが、そのかわりに空を見上げると月の光は澄み切っている。地上ではクリスマスのイルミネーションが輝きを増している。
東京都目黒区鷹番3-14-20
Posted by hisashi721 at 19:19│
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こんばんは。私もつい先日、かっぱに行こうと考えました。実現しませんでしたが。
いよいよ、城南行脚の始まりですか(笑)?
12時を回って、ふらり、Kっぱ【mesizo】at 2005年12月17日 22:33
寄り道さん、こんばんは。
うーん。落ち着いたいい夜といった感じですね。
忙しい年末を送っていても、時には落ち着いた夜を過ごしたいものです。
「このブログがすごい!」を読んで、やってきました。本に載るなんてすごいですね。
純連の近くのワインバーは
http://tokyo.gourmet.livedoor.com/restaurant/info/5452.html
こんな所です、リゾットが絶品と言う話を近くのバー
http://maimaizbar.at.infoseek.co.jp/pc/index.htm
のお客から聞きました。
こういう小さな居酒屋でも、ワインまで置いてあると、「さすが、お客さんの事を考えてるなぁ」と思いますね。
それにしても、みんなが慌しくしてる中で、静かにのんびり飲む・・・・・、うらやましい限りです。
こんばんは^^
なれずしと赤ワインの取り合わせってチーズとのそれと同じような感じなのでしょうか?試してみたい一品です。
『ほねく』というのははじめて聴きました。とても美味しそう。。。羨ましいです^^
タマさん、こんにちは。
その日は忘年会ラッシュの日だったのですが、自分は相変わらず一人飲みでした。ゆったり飲めましたよ〜。
お笑いさん、こんにちは。
「このブログがすごい2006」を読んで来てくださったんですね。ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。
かくたろうさん、こんにちは。
高田馬場の「山でん」には行きましたよ〜。おでん美味しかったです。
こっちのワインバーにも行きたいです。
タナカデニーロさん、こんにちは。
そのワインが300円というのも良心的ですよね〜。こういう時期に一人でしみじみ飲むっていうのもいいです。
naeさん、こんにちは。
「ほねく」は香ばしい味で美味しかったです。何もつけないで食べても十分です。山葵をちょっとつけて食べるのもよかったですよ
この店は20年以上あると思いますがまだ行ったことがありません。
しかし今年になって寄り道さんの記事に背中を押されるように学大周辺の未開居酒屋へ何軒も行くことができました。
感謝です!
「三沢堂」も行かれたことあるんですね!
ここは多分40年以上やっていると思いますが、一度も行ったことがありません。
2階ということもあり、あの店には怖いお兄さん方がたむろしていると幼少の頃、勝手に想像していたことが足かせになっているように思います。
BIBさん、こんにちは。
三沢堂は結構上品な店ですよ。店内も味もレトロですが、そこがまた癖になります。
学芸大学周辺の居酒屋では目黒郵便局の近くの店が気になってます。
寄り道様
だいてんです。
2月5日(日曜日)午後7時、テレビ朝日の「旅の香り」という旅行番組の中の氷川きよしのコーナーでこちらの「かっぱ」さんが紹介されていました。
実は先月に店の前まで行ったのです。近くで芝居の稽古があり、稽古に顔を出す前に場所だけ確認したのであります。でも帰りは大人数、とても「かっぱ」さんには入れません。しかも「夢呆」さんは10時20分くらいだったのですが、すでに終わりのようで入れませんでした。偶然発見した立ちのみ「根室食堂」学芸大学店にも人数の関係で入れませんでした。「かっぱ」さんも混んでしまって次回は入れないのではと心配です。ああ、学芸大学は行きたいお店がいっぱいです。
だいてんさん、こんにちは。
おお、ついに放映されましたか。収録日の翌日だったので、女将さんからその時の話をいろいろ聞くことができました。氷川さんは、とても感じのいい人のようですね。たくさんの料理を用意していたのに、時間がなくて食べてもらえないものもあったということで残念そうでした。自分も番組を見たかったです。
学芸大学にはまだまだ行きたい店があるんですよ。近いうちに行かなくては。それから雪谷大塚にも!
はじめまして。私は学芸大学近辺に住んでいます。
「かっぱ」さん・・・私も先日テレビで観ました。
氷川きよし君が美味しそうに食べているのをみて、
今度是非行ってみようと思いました。
学芸大学はホントにたくさんのお店があって
楽しい街ですよね。
乙女さん、こんにちは。
自分も学芸大学に住んでいたので、この街の楽しさはよくわかります。喫茶店も居酒屋もいい店がたくさんありますね。
かっぱに行ったら、氷川さんが食べた、リンゴの和え物を是非召し上がってみてください。
これからも、よろしくお願いします。
寄り道さん、始めまして

私はかっぱで店をしてる女将さんの姪にあたります

私の叔母です
この度は叔母の店に寄っていただいたそうでありがとうございます
私は和歌山に近い三重県に住んでます
叔母の作るなれずしは私も好きです
たまたまブログを見てたら叔母の店の事が書いてあったから

しました

しーちゅんさん、こんにちは。
女将さんの親戚の方ですか!それはそれは。
久しぶりに、女将さんオリジナルの「なれずし」を食べたくなりました。
三重にも美味しいお酒や食べ物がありますね。いろいろ教えてください。
これからも、よろしくお願いします。