午後4時。仕事で新宿を回っている。西口の地下街から地上に出て、さて、訪問すべき場所は後一つ。お昼過ぎから結構歩いたし、少し休んでから、次に行こうかな。早速、立ち並ぶ高層ビルのひとつを目指す。このビルの目立たないところにある「タリーズ」がこのあたりではお気に入りのCafeなのだ。
「アイスショートラテ、お願いします。」とオーダー。プラスティックの容器を受け取って、席に座る。一口・・・まろやかな口当たりの中にほんのりとした苦味を感じる。疲れがスーッと散っていく。う〜ん、エスプレッソをダブルショットにすればよかったかなあ。苦味で、もうひとつ気合を入れたかったぞ。
隣の若い女性の2組がちょっと騒がしい。話題は就職活動。「スーツを着て歩くのがめんどくさいんだよね。」「ありえないよね。」・・・いかん、隣の客がどうであれ、自分の時間は大切にしなければ。バッグからB5サイズのノートパソコンを取り出す。職場に提出するレポートの続きを少しでも書いておこうかな。
「うわ〜、懐かしい名前!」と2人組の一人が叫ぶ。せっかく集中しかけてたのにぃ・・・。レポートが10行くらいで止まる。話題が高校時代の友人たちに移ったようだ。それで、1人が興奮して叫んだのだ。そんなに懐かしがられる友人というのはどんなヤツなんだ、とちょっと思う。2人の声は相変わらず大きいが、幸いなことに平均化してきたので、また集中すべく、キーボードに向かう。
マッピングしておいたキーワードを並べ直して文章化していく、という作業を進める。2人組の話は高校時代の吹奏楽部の思い出に移っている。声のでかさに、しばしば意識を奪われながらも、我ながら健闘している。いいぞ、頑張れ自分、などと時々つぶやきながら・・・。
「ああ、サックス吹きてぇ!」・・・うわ!びっくりした〜。ものすごい叫び声が店内に響き渡ったのだ。で、でかい、でか過ぎる・・・健闘していた自分もついに敗北。仕事は断念だな。ふう〜。自分なんかでは、お2人のパワーには太刀打ちできません・・・パソコンをバッグに仕舞い、店を出る準備を・・・あれ?・・・いきなり2人組が席を立つ。「よし!どっか行こうか!」・・・あらっ、帰るのね。
2人組が出て行った後の店内は静まり返る。静寂ってこんなにいいものだったんだなあ、などと感慨にふけってしまうほどだ。こうなると店を出るのがもったいないなあ。もう少しのんびりしていこうかな。仕事をしようなどという気持ちはもはや起こさず、浮かんでは消える想念に身を任せながら、しばしの休憩を楽しむのがよさそうだ。