2006年10月29日

夕暮れの道・・・高田馬場「升や」

升や土曜日の夕暮れ。10月も終わろうかというのに、駅の中はじっとり汗ばむように蒸し暑い。日は落ちて、街の灯が街に華やかさを添えている。高田馬場駅を出て早稲田通りを明治通り方面に向かって歩く。人通りが多くてなかなか前に進めないほどだ。でも急ぐ必要はない。明日は日曜日。久しぶりに仕事のない休日なのだから・・・。

居酒屋「寿限無」や「鳥やす」支店を横目に見ながら歩き続ける。ラーメン屋がますます増えたなあという印象。駅に向かうカップルとすれ違うとき、「ここはラーメン激戦区だからね。」という男性が女性に説明している声が聞こえる。そうだよなあ、やっぱり・・・。しばらく歩くと、明治通りが見えてくる。

明治通りを渡って、通り沿いに左に曲がるといくつかの赤提灯が見える。その中に、今日久々にのんびり飲みたい店がある。ちょうど暖簾が出たばかりのようだ。店の前のボードには湯豆腐の文字が見える。いつの間にかそういう季節になったんだなあ・・・。戸を開ける。カウンターの中のマスターと目が合う。「こんばんは。」「いらっしゃい。」店の名は「升や」だ。

開店直後の店には先客はいない。後ろの壁際においてある台に鞄を置いて、カウンターの真ん中あたりの席に座る。さっと出されたお絞りを受け取りながら、「ビールください。」と告げる。今日はさすがに喉が渇いた。程なくビール(スーパードライ中600円)が届く。お通しを待つのももどかしくビールをグラスに注いで一口・・・冷えたビールが喉に心地よい。夏とは違い、静かに体に染み渡っていく感じ。美味しいなあ。BGMのジャズが耳に心地よい。

ビール

「お通しです。」・・・おお「ぶり大根」だ。これはいい。まず大根から一口・・・ほぅ〜、さくっとした歯ざわり・・・う〜ん、これは汁がよく滲みている・・・味付けは濃くなく、出汁がよく効いた上品な味だ。美味しいなあ・・・ビール、ビール。ぶりのほうはどうかな。刺身にしてもいいようなぶりを厚切りにして、出汁と合わせてある。一口・・・う〜ん、魚臭さがなく、旨みが凝縮されたような味だ。いいなあ・・・。

ぶり大根

この店は、魚の刺身や焼き物、それから野菜を中心とした煮物が美味しい。もちろん、一品料理も充実していて、どれも味がよくて、適度なボリュームかあるのが特徴だ。自分としては、刺身が最初で、次が煮物の順。刺身は何にしようかな・・・この店はぶりが最高だし、イサキもいいし・・・迷っちゃうなあ。う〜ん。今日は・・・「飛び魚のたたき(750円)をお願いします。」「はい。」・・・楽しみ、楽しみ。

50代くらいの男性が入ってくる。常連さんである。「ビール?」「うん、ビール。」「ぶりちょうだい。」・・・やっぱり、ぶりの刺身から来たか・・・。「暑いよねえ、今日は。」「暑いですね。」「雨でも降るのかな。」・・・天気予報は下り坂だ。男性はビールを美味しそうにごくごく飲んでいる。「あとね、焼き茄子の山かけも頼んどこうかな。」・・・さっと壁のメニューを確認する。そうか、ただの焼き茄子ではなくて、山かけがあったのか・・・。

「飛び魚のたたきです。」・・・おお、来たか・・・丸ごと一匹をたたいただけあって、ボリュームがすごい。早速、山葵醤油をちょっとだけつけて、一口・・・むお〜、最初はこりこり。これは新鮮・・・たたき特有の、ねっとりとした身の舌触りが次に来て・・・ほのかな甘みを含んだ香りが口の中に広がる・・・うま〜い!ビール、ビール。本当にこの店の刺身は美味しい。

飛び魚のたたき

隣の男性にも、ぶりの刺身が届く。おお、身が・・・ピンクに染まって・・・これは美味しいそうだ。「うまいねえ。ホントにうまいよ。」「ありがとうございます。」・・・美味しそうにたべるな〜。で、ビールをゴクゴク。すばらしい!「お酒ちょうだい。」速いペースだなあ。

自分もビールを飲み干して、お酒を注文。「菊正宗を燗で。大徳利(650円)でお願いします。」この店には、他にたる酒や浦霞などが置いてある。大徳利が届く・・・燗酒も久しぶり・・・一口・・・ほわ〜っとした柔らかい感覚が燗酒の味を再確認させる。いいなあ。この感じ。ゆっくり飲みたいよな。男性客はマスターと映画の話をしている。マスターは映画通のようだ。

燗酒

男性客の注文した「焼き茄子の山かけ」が届く。上にかかっている山芋はしっかりとした粘り気があって食欲をそそりそう。それを焼き茄子と一緒に食べるのだから、これは美味しいはず。ずるずるっと食べる男性客も満足そう。日本酒によく合いそうだ。じゃあ、自分も何か・・・煮物がいいな。「すみません、ふきと高野豆腐とつみれの煮物(500円)をお願いします。」・・・こっちも美味しそうだ。

そこに、また一人の常連客が入ってくる。「おお。」声をかけて、先客の男性の横に座る。「たる酒を冷で。刺身は、え〜と・・・」メニューを確認して・・・「さばの刺身ね。」うん、うん。メニューには(三重)とある。「三重のさばなの?」「ええ、無菌の。」「へ〜、三重(みえ)なのか、三重(さんじゅう)に盛ってくれるのかと思ったよ。ははは。」・・・常連の会話というのは、いいものである。

「ふきと高野豆腐とつみれの煮物です。」・・・いいねえ。見ただけでその美味しさが伝わってくるようだ。さて、ふきから一口・・・しゃきしゃき・・・汁がまたなんともすっきりとした味で・・・それがふきの独特の香りを引き立てている。酒、酒。次は高野豆腐・・・一口・・・柔らか〜い。口に入れると、すぐに汁が口の中に溶け出す感じ・・・美味し〜い。酒、酒。で、つみれ・・・鶏肉だな・・・一口・・・うん!文句なし!汁と肉がよく合ってる。んもう〜、酒、酒。

煮物

煮物をつまみにゆっくり燗酒を飲んで、酒場の空気に馴染んでいく。男性客に出されたさばの刺身の見事な切り身に見とれたり、BGMに身を委ねたりして、心からくつろぐ。ああ、明日は休みだからなあ・・・。

お酒を飲み干して、さて、ここまでにしよう。「ごちそうさま。」「はい、3000円ちょうどです。」それにしても美味しかったなあ。「ありがとうございました。」という声に送られて店を出る。

駅に向かって歩き始める。風はほとんどなく、まだ少し蒸し暑さが残っている。そんな空気の中をのんびりと歩いていると、ほんのりとした酔いが体を巡ってくる。気持ちいいなあ。駅までの道をゆっくり歩きたくなるのは仕方がない。

東京都新宿区西早稲田3-29-5  03-3203-23

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この記事へのコメント
寄り道さん、こんばんは。
高田馬場というところは私は大好きです。
お値段も良心的で、美味しいお店も沢山ありますよね。
日記が更新されているとワクワクしながら読ませていただいています。
明日の我が家の夕食は、ふきとつみれの煮物に決定です。
お仕事大変にお忙しいそうですが、どうかお身体を大切になさってくださいね。(〃⌒ー⌒〃)
Posted by みどり at 2006年10月31日 00:06