寄り道Blog

雨が3日続いた。その雨も今日の午後にはあがって、明るい日差しが眩しかった。でも、頬にあたる風は水の流れのようにひんやりとして、四月も後半に入ったというのにコート姿の人が目立つ。午後7時過ぎ。中野区議会議員選挙戦も激しさを増し、北口ロータリーでは候補者が「私に2期目の仕事をさせてください！」と叫んでいる。その横にはカラオケのティッシュをだるそうに配っている若い女性がいて、さらにその手前にはキャバクラのチラシを配っている体格のいい男性・・・。夜に入る中野の街は、いつものように人混みで埋まり始めている。

サンモール商店街を少し歩き、たこ焼き屋の角を曲がって、更にパチンコ屋の角を曲がる。バー「ブリック」はいつもながら、ひっそりとした佇まい。入り口のガラス戸越しにカウンター席が見える。Ｌ字カウンターの縦棒にはいつものメンバーが座っているようだ。

ドアを開けて中にはいると、ジャズのピアノが微かに響いている。「いらっしゃいませ。」と、三人のバーテンダーに迎えられる。入り口から5番目の席が空いている。両側のお客さんに「すみません。」と言いながら座る。おしぼりがさっと出てくる。「ソーダ割りでいいですか？」と問われる。「はい。」と答える。棚から「ボウモア」が取り出される。流れるように注文が通る。「どうぞ。」ソーダ割りが届く。「どうも」一口・・・美味しい。体の奥底まで染みこむようだ・・・。

「白角」から始めたこの店のボトルも、いろいろ変えているうちに「ボウモア」に落ち着いて、もう5本目。いつもの味は、いつもの気分を引き出してくれる。忙しいとき、このカウンターで仕事の書類を読ませてもらっていた。このカウンターで仕事をすると、ものすごく集中できるのだ。もっとも、その後の酔いの回り方も凄いのだが・・・。それにしても、一人でほっとできるこの店に、なんど救われたことか。

つまみは「ミックスナッツ」にしようかな・・・。ミックスナッツもいろいろな注文の仕方があるようで、最近ではグリーン豆を混ぜてもらうことが多いのだが、今日はグリーン豆だけにしてみよう。「グリーン豆を。」「はい。」・・・時々見かける、白髪の大学教授風の渋いお客さんがいるのだが、その方がいつもバドワイザーとグリーン豆。それをまねして食べてみたら、かの有名な「春日井のグリー豆」の素朴な美味しさにすっかり引き込まれてしまったというわけ。もっとも、その方は「グリーンピース」と注文されるので、最初は茹でたグリーンピースが出てくるんだろうかと思っていたのだが・・・。

隣の男女二人組は、男性がコロナビール、女性が白ワインだ。男性は50代の重役風。「ビールは他に何があるの？」と尋ねる。「あとは、モルツとハイネケン、バドワイザー・・・」「じゃあ、バドワイザーもらおうかな。」というバーテンダーとのやりとりの後、女性に向かって「僕がアメリカの大学に留学したときはね〜、最初バドワイザーの向こうの発音がわからなくてねえ。」「へえ〜、アメリカではバドワイザーはなんて発音するの？」「広い大学でね。大学の中に街があるって感じ。その街の飲み屋に教授に誘われてはじめて行ってね。」「うんうん。」「教授が何を飲む？って聞くんだけどね。その頃は何にもわからないから、ビアって答えたんだ。」「ふむふむ」「そしたらね、教授が、だ〜〜〜っと」「だ〜？」「ビールの銘柄を言うわけ。それが聞き取れなくてね。」「なるほど」「かろうじて、ミラーだけ分かったわけ。それで、ミラーを飲みますって。それからミラーばっかり。」「で、バドワイザーは、なんて発音するの？」「ミラーってさ、日本で飲むとなんだか水っぽい感じがしてねえ。わざわざ向こうのを取り寄せたりしてねえ。」「・・・・」・・・バドワイザーはどうなったの？

この店では、ソーダ割りは5杯までと決めている。「4杯目でしたっけ？」とバーテンダーさんに確認。「そうですね。」グリーン豆をぽりぽり食べながら、ウイスキーをゆっくり飲む。とりとめもない考え事をすることが本当に楽しい。話したくなったら目の前のバーテンダーさんに話しかける。「明日は暖かくなるかなあ。」「そのようですよ。」「今度の連休はのんびりしたいな。」「どこかに行かれるんですか？」「そうだなあ・・・。」・・・時間が過ぎるのが惜しい。時間をかけて飲んだ4杯目が空になる。では、最後の一杯を・・・。