時間よ、止まれ。・・・鷺ノ宮「ペルル」
先週の土曜日のことだ。いつものように中野のバーに寄り道して、ウイスキー4杯分のほのかな酔いを感じつつ阿佐ヶ谷経由で鷺ノ宮に帰ってきた。明日は休みだから、もう少し飲みたいなと思い、和食系某店のドアを開けた。と・・・満員・・・。カウンターにもテーブルにも空きがない。何にも言わずに帰るのも失礼だと思って、てんてこ舞いの女将さんに「残念だけど、満員ですね。また来ます。」と声をかける。女将さんが、これ以上ないというくらい申し訳ないという表情で、「すみませぇん。またお待ちしておりますぅ」と答えてくれる。この表情は素晴らしい! ついこちらも「とぉんでもなぁい。また、来ますぅ。」という感じの言い方になってしまう。
それで、駅の方向に逆もどりしながら、どこに行こうかなと考える。選択肢は限られているのだが・・・。こんな時こそ、はじめての店に行ってみるという手も・・・とはいっても、鷺ノ宮になぜかたくさんできたエスニック系は、ちょっと無理。辛いの苦手なんですぅ・・・。
というわけで、飲みたいが、行きたい店がないという辛い状況に陥った。じゃあ「ペルル」だな。最近、ご無沙汰だし・・・。マスターが入院してしまい、店も近々移転ということで、足が遠のいていたが、馴染みのカウンターでもう少しだけウイスキーを飲んで帰るのもいいじゃないかと思ったのだ。
「ペルル」のある路地に入るとやけに暗い。それは、隣の居酒屋が営業していないからだ。この辺り一帯が立ち退きになるからだろう。もう営業をやめたのだろうか・・・。と、大きな笑い声が聞こえてくる。どうやら「ペルル」の常連であるFさんの声らしい。とにかく笑い声がでかい。爆発する感じで笑うのだ。いつもの「ペルル」じゃないか・・・。
いつものように、木の扉を開け、カランカランという扉に取り付けられた鈴の音を聞きながら、「こんばんは」と声をかける。カウンターの客が三人こちらを振り替える。Fさんもいるし、あとの2人も顔見知りだ。カウンターの中は、手伝いの女性のMさん。いつものように自然な笑顔で、「いらっしゃいませ。」・・・いい感じだ。
奥の席に座ると、自分のボトルが出てくる。あまりに久しぶりなので、瓶に白いマーカーで書いた名前が消えかかっている。ボウモア(サーフ)だ。・・・ずいぶん待たせたな、元気だったかい?
「土曜日も仕事でしたよね。お疲れ様。」とMさん。んもう、気を使ってくれるなあ。「そうなんですよ。朝からびっちり仕事でした。」などと甘えてみる。カウンターの人たちも、「お疲れ様。」とグラスをあげてくれる・・・うぐっ、嬉しい・・・毎日通うべきだなあ・・・。
とはいえ、話はやっぱり移転のことに・・・。明日からここにも工事が入るらしい。移転先の鷺ノ宮地域センターの近くの店は着々と準備が進んでいる。いよいよだ。「ということは、今日がこの店の、このままの状態としては最後だというわけか。」と隣の客がしみじみ言う。「今日来てよかった。」・・・来週も営業はするものの、少しずつ物が新しい店の方に移動していくようだ。何日までは営業、だけど何日と何日はお休み。それで、新しい店は何日に開店。という段取りが話し合われている。「うまくいけばだけど・・・。」マスターも開店の頃には退院かな。
「じゃあ貼り紙を作ってくる」ということで、一人はいったん帰宅。入れ替わりにもう一人の常連さんと土曜日担当の手伝いの女性が入ってくる。しばらくはいつものたわいもない話。阿佐ヶ谷の新しいイタリア料理店の評判とか、どの魚が一番好きかとか・・・。自分も時折加わりながら、ずいぶんウイスキーを飲んだ気がする。長いことこうやって、この店で飲んできたんだなあ・・・。
マスターがいないのでダジャレは聞けない。でも、マスターの存在はしっかりこの店の空気に溶け込んでいて、ここにはいなくても、やっぱり「ペルル」はマスターの店だ。だから、店は移転するけど、マスターがそこにいる限り「ペルル」は何にも変わらない。そう思う。
常連で今はタイでNGO団体の代表をしているKさんがいっていた「ペルルは自分の大学です」という言葉を思い出す。もっともマスターは「いやペルルは幼稚園です」と答えたけど・・・。みんなここで、マスターと勉強し、そして遊んできた。校舎は変わっても、先生がいる限り学校は続く・・・。
ずっと飲んでいたかったけど、最後もやっぱり自分のスタイルで・・・「ごちそうさま。帰ります。」・・・勘定が氷代の500円だけだったのもいつも通り・・・「気をつけて」とカウンターの中からMさんが送ってくれる。「またね。」とカウンター席のお客さんたちが声をかけてくれる。そう、いつも通り・・・。
外に出る。時間は容赦なく過ぎていく。街もよく見れば少しずつ変わってきている。「時間よ、止まれ」・・・まだ今夜はこのままで・・・酔いは確かに強く身にしみ渡っているようだが、これじゃあ全然足りないよ・・・そうも思うのだ。
Posted by hisashi721 at 11:14│
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ペルルのお話でしんみりと・・・
いつ読んでもすっきりとしていて味わいのある文章で、飲んでもいないお酒に酔う心地がしてくる「寄り道Blog」。
とうとう、旧ペルルにはお邪魔できませんでしたが、新装開店後の落ち着いたころに伺いたいですね。
寄り道Blog
時間よ、止ま....
鷺宮の歴史が、また1頁【さぎのみや散歩日記】at 2009年10月20日 15:41
ペルルさんは入った事はありませんが、帰宅時にお店の前を通ると、大人の雰囲気が窓から伺えました。
外観写真を撮っておけば良かったなァ。。。
マリンさん、こんにちは。
昨夜、前を通ったらドアが白くなってました。それから、ランタンみたいなのもなくなってました。
今夜はもっと変わってるのかな。
ちょっと寂しいです。
これからも、よろしくお願いします。
寄り道さんの記事を呼んでると東京で生活しているような気分になれます、田舎者なモンで。
福島の田舎侍さん、こんにちは。
寄り道Blogを読んでくださってありがとうございます。
東京といっても、銀座や六本木などの華やかな場所は出てこないので恐縮です。
これからも、よろしくお願いします。
HAPPYな一年を!