2009年10月22日

残されたもの・・・鷺ノ宮「ペルル」

DSC01872中野区鷺ノ宮、夜7:00・・・西武新宿線の踏切はなかなか開かない。鳴り続ける警報機の音が鷺ノ宮の夜空に響いている。今日も中野のバーでウイスキー4杯。それで阿佐ヶ谷経由で帰ってきた。遮断機が上がると、待ちかねたように自転車に乗った人々が先を争うように横断する。それに続いて歩行者も。みんなが渡りきらないうちに、また警報機が鳴り始める。

日曜日から工事が入った「ペルル」は月曜日と火曜日を休み、最後の営業期間に入っている。昨夜、前を通りかかった時は白いドアに変わっていた。これは移転先の店が、元は「林檎の樹」というスナックだったのだが、その店の白いドアがこちらに取り付けられたのだ。ペルルの渋い木のドアが向こうの店に取り付けられたので、最後の営業を続けるこの店に臨時で取り付けられてたというわけだ。
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昨夜は、その白いドアが開け放しになっていた。営業はしていないから、看板には灯りがともっていない。中から声が聞こえてくる。お店を手伝っている方々や応援している近所の人たちが集まって、今後の店の運営について話し合っているらしい。熱心な話し合いのようだったので、お邪魔しないように帰ってきた。

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そうなると今日の営業が気になる。白い扉の向こうはどうなっているんだろうか。カウンターは残されているとは思うが、それ以外は・・・。というわけでまたまた「ペルル」に向かう。牛めしの松屋の手前を左に曲がり、串揚げ屋の角を右に曲がる。笑い声は聞こえてこない。Fさんはまだ来ていないらしい。

店の前に来ると、開店の準備を始めたばかりのようで、ドアのそとでは手伝いの大学生の女性が看板の準備をしている。「こんばんは。」と声をかけて、開けたままになっているドアから中に入る。カウンターの中では、お手伝いのYさんがCDデッキの横で首を傾げている。「どうしたんですか?」と声をかけると、「いらっしゃい。音がでないんですよ。何でだろう?」・・・で見回してみると、壁に取り付けられていたスピーカーがない。工事で取り外されて、移転先の店に移動したらしい。「いろいろ持って行かれてるんですよ。」とYさん。「カウンターと冷蔵庫と酒があれば何とかなるよね。」「照明も暗いでしょう。」天井を見上げると、なるほどメインのものは持って行かれてる・・・。

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カウンターの中程に座ると、ボウモアのボトルと氷が出てくる。カウンターの後ろのテーブルには花が飾られていて、とてもいい感じだ。「この店があと少しで終わってしまうなんて、信じられないですよね。」というYさんは、いつもの笑顔ではあるものの、さすがにちょっと寂しそうだ。

手伝いの女性に移転先の店の様子を聞いてみる。「カウンターの中はここより広いので作業しやすそうです。テーブル席は奥に小さいのがあって、そこで立ち飲みが出来るようになるみたいです。」「へえ〜。でも、この店のカウンター、気に入ってただけに、残念だなあ。」・・・ペルルのカウンターは近所の方が設計したらしいのだが、素晴らしい形をしている。端っこに座ったお客さん同士でも話が出来るように絶妙の作りになっているのだ。「おしいよね。」

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年配のお客さんが一人入ってくる。自称水曜日の男・・・水曜日にしか来ないのである。「やってないかと思ったよ。来てよかった。」一番奥の席に座る。その背後にトイレがあるのだが、そのドアも移転先に運ばれているために、臨時でカーテンが掛かっている。なんだか寂しいけど面白い・・・。

そのお客さんの友だちが合流。「なんでもいいから食べな。」「そうだなあ。なにが出来る?」「冷蔵庫に残っているものなら出来ますよ。」「焼きうどんにするか。」「う〜ん。スパゲッティの方がいいかなあ。」「焼きうどんにしなよ。」「なんでもいいって言ったじゃないか。」・・・70代の友だち同士。いいもんだ。

酔っぱらいそうなので、ウイスキーを水割りに変更する。味が分からなくなってきてないか?自問する・・・大丈夫だろう。たぶん。ここで醜態を晒すわけにはいかない。気持ちよく次の店に入るためには、ここで失敗は許されない・・・なんて大げさに考えてるいるところが、既に酔っぱらっていたのかもしれない・・・。

男女の二人組が入ってくる。若い夫婦だ。どうやらはじめてらしい。表情にとまどいがみられる。「Fさんというお客さんの紹介で。でも、もう最後だっていうので、今日定休日なんで来てみました。」・・・定休日ということは、お店をやっておられるのか・・・。「どちらのお店ですか?」と聞いてみる。「つぶらやというラーメン店なんですよ。」・・・おお!つぶらや! 秋龍というラーメン店の隣にあえて店を出したという、あの店か!

話によると、世田谷区でお店をやっていたのだが、店が広すぎて理想と違う。それで、自分の目が届く範囲の規模の店を探していたところ、ぴったりした物件がこの鷺ノ宮にあったというわけだ。それがたまたまラーメン店の隣だった・・・。謎が解けたという感じ。

今では、「秋龍」はレトロな雰囲気で、そして、「つぶらや」は下町の雰囲気でというように特徴ある店作りをしている。下町の居酒屋の雰囲気を取り入れていて、ラーメン店ながらホイスが飲める立ち飲み屋ということで、地元では注目されている・・・。

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おしゃべりで時間を忘れる所だった・・・もう帰らねば・・・またまた、お勘定は氷代の500円のみ。「じゃあ、お先に。」「おやすみなさい。」「お気をつけて」「またね。」と声が返ってくる。大丈夫、表面的には酔ってないぞ。

外に出る。ペルルも、これからがお客さんがたくさん入ってくる時間だ。惜別の宵が続くことだろう。自分もその中にちょっと入って、いい時間を過ごさせてもらっている。この店に残されたもの。それはたくさんの人々のたくさんの思い出だろう。新しい店での語らいの中で、それは何度も再現され、人々の心に深く深く刻まれていくことだろう・・・。中杉通りに出ると、警報機の音がまた聞こえてきた。

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点と線がつながって麺に展開する夜:鷺宮 ひょんな所から疑問が氷解することがありますが・・・ そうだったんですか・・・ 寄り道Blog 残されたもの・・・鷺ノ宮「ペルル」 http://blog.livedoor.jp/hisashi721/archives/51715605.html ところで「ひょん」ってなんですか?....
ペルルとつぶらやと【さぎのみや散歩日記】at 2009年10月23日 06:51