今日(16日)は、土曜日だが例によって出勤。早めに職場を出ようと思っていたのだが、結局午後8時まで仕事に追われた。8時過ぎに、警備の人に「失礼します。」と挨拶すると、「今夜は寒いですよ〜。」との答え。夜間用の出入り口を出ると、なるほど、身を切るほどの冷たい風が吹いている。連夜の冷え込みだが、こればかりは慣れることはないようだ。
土曜日の夜はあまり遅くなることがないので、これからどうしようかちょっと迷う。目黒、学芸大学、渋谷、新宿、高田馬場、阿佐ヶ谷、鷺ノ宮・・・いろいろな店が頭に浮かぶ。別に、絶対寄らなければならないわけではないのだが、つい店のことを考えてしまうのが可笑しい。今いる場所、時間を考えて最適な店を選ぶとしたら・・・という風に考えて出た結論は、都立大学駅近くのバー「
CORNER POCKET」。
この寒さの中、遅くまで飲み歩く気にもなれない。でも、1週間の疲れを、静かな店で少しだけ癒して帰りたい。そんなときは、バーがいい。静かで、気取る必要もないバーといえば、自分が今いる場所からすると「CORNER POCKET」ということになるのだ。目黒通りに出て、ちょうど来たバスに乗る。都立大学駅前までは、そんなに時間はかからない。うとうとする暇もないほどだ。
バスを降りて、目黒通りから、都立大学駅まで歩く。駅とパチンコ屋の間の道を、自由が丘方面に少し歩くと、トリツフードセンターという高架下の商店街がある。昨年、改修工事が終わったので、入り口がちょっときれいになった。階段を上がると2階が飲食店街。昔ながらの渋い店が並ぶ。かつて下の道横で立ち飲み屋をしていた「
レモン・ハート」は、いろいろな店の形態を経て、鉄板焼きの店になった。他は昔からやっている店ばかり。ちょっと極めてみたいような魅力のある飲食店街だ。
その店を両側に見ながら、真ん中の通路を奥に進む。一番奥にあるのが「CORNER POCKET」だ。ドアを開ける。「こんばんは。」「いらっしゃいませ。」と女性の店主が迎えてくれる。「目黒通り寒かったですよ〜。」と言うと、「最近寒いですよね。」との答え。コートをカウンター横のハンガーに掛けて、L字カウンターの入り口と平行している方に座る。先客はいない
「お久しぶりです。」「何年ぶりくらいになるかしら?」「多分、3年ぶり。」「もうそんなになりますかねえ。」「いつもいらっしゃってた元気なご老人方にも会いたいです。」「もう、皆さん87歳になるんですよ。今は月2回のペースでいらしてますよ。」「へえ〜、すごいですね。」「まったくね。相変わらず、よく飲んで、よく食べて、ハリのある大きな声で話してね。元気ですよ。」・・・素晴らしい!87歳で「よく飲む」とは!
カウンターの上にある小さな冊子のようなメニューを開く。カクテル、ウイスキー、シェリー、ワイン、スピリッツ・・・メニューは何ページもあって、品揃えの豊かさを示している。今日は、シングルモルトにしようかな。まずは・・・「グレンゴイン(1100円)をオンザロックでお願いします。」と注文する。中央ハイランドで、ローランドに近い地域のスコッチだ。スッキリした味わいが好きで、鷺ノ宮のバー「ペルル」に置いてもらっていたこともある。
お酒は、店主がカウンターから出て、席まで届けてくれる。「どうぞ。」・・・では、一口・・・癖がなく、まろやかで飲みやすい印象だ・・・・そうそう、その後の香りがいい・・・蜂蜜のような香り、そしてバニラのような香りも加わって・・・美味しいなあ。「シングルモルトがお好きなのね。」「ええ好きです。特にこの3、4年くらいはよく飲むようになりました。」・・・そういえば、この店ではカクテルを飲むことが多かったからなあ・・・。
「自由が丘の金田には、最近行きましたか。」と聞いてみる。「去年の2月に久しぶりに行ったのよ。ちょうどフードセンターが改修工事をしていて、お休みだったから。金田とはお休みが同じだから、いつもは行けないんだけど。」・・・自由が丘の居酒屋「金田」のご主人と、この店の店主は、緑ヶ丘小学校の同級生。お2人とも自由が丘生まれの、自由が丘育ちだ。
それで思い出したのが、
緑ヶ丘小学校の近くに湧き水があって、魚がいっぱいいたという話。「かつての自由が丘に池みたいなのがあったんですよね。」「ああ、ありましたねえ。牛蛙かなあ、大きなかえるのオタマジャクシを取って遊んだなあ。足が出てきてね、それも大きくて、面白かったなあ。」・・・魚とオタマジャクシかあ。男の子と女の子の違いかなあ・・・。
次のウイスキーを。「オーバン(1100円)をお願いします。同じくオンザロックで。」と注文する。西ハイランドの港町のスコッチだ。阿佐ヶ谷のバー「アルフォンソ」で、初めて飲んだシングルモルト。アルフォンソのマスターに、「シングルモルトはお詳しいんですか?」と聞かれたなあ。「全然、オーバンというスコッチは初めてだし。」と答えたんだっけ。その時、このスコッチを飲んだとき、美味しい!と感動したのを覚えている。
「オーバン」が届く。では、一口・・・芳醇でコクがある印象。果物っぽい甘みが長く続くよなあ。それと同時に潮の香りもするようだ・・・港町を想像させる味だなあ・・・美味しい!「やっぱりオーバンは美味しいですね。」「そうですね。お酒って種類がもう無限にあるから、勉強するのが大変。」・・・さりげない言い方だが、40代になって、主婦からバーテンダーに転じて、20年以上も店を続けてきた人の言葉は重い。なんたって、お酒のことは全く知らない状態から、ここまで来たのだから。
店は静かだ。BGMはジャズ。目黒通りがまだ途中で切れていた時代の話や、店主が中学生だった時の都立大学や自由が丘の話が面白い。うまくイメージできているかは自信がないが、昭和20年代や30年代の東京の話を聞くのが好きだ。この辺りに緑が溢れていて、東横電車がのんびり走っていた東京オリンピック前の光景・・・その中を走り回っていた少年や少女たち・・・話を聞きながら、その思い出の中に少しだけ入れてもらう・・・そんな時間が好きなのだ。
この店での時間をずっと楽しんでいたいのだが、時間が遅くなってしまいそうだ。・・・「じゃあ、最後に軽いカクテルを。スプモーニ(900円)をお願いします。」と注文する。・・・カンパリ20ml、グレープフルーツジュース30ml、トニックウォーター適量・・・「どうぞ。」・・・ほのかに赤いカクテル。その名の通り、トニックウォーターの泡立ちが美しい。
では、一口・・・爽やかな味わい・・・甘さと酸味、そして薬草っぽい苦さのバランスがとてもいい・・・美味しいなあ。「どうですか?」と問われる。「とても美味しいです。他の店のより繊細な味がするようで・・・。トニックウォータの量が絶妙です。」「ありがとうございます。」・・・本当に美味しい。今夜最後に飲む酒にふさわしい。
スプモーニをゆっくり飲んで、話の続きを楽しむ。飲み終えたところで、このままこの店で飲んでいたいという気持ちを打ち消して、「ごちそうさまでした。」と席を立つ。「また、話を聞かせてください。」「こちらこそ。またお待ちしています。」・・・コートを着て、ドアを開けて外に出ると、店主がドアの外まで来て送ってくれる。
階段を下りて、フードセンターを出る。冷え切った空気に包まれる。都立大学駅前に戻る。今見ているこの街並と、さっき聞いた話の中の街が重なる。すこし街を歩いてみようか・・そして、かつての街の名残を見つけてみよう。そんな気になって、横断歩道を渡る。
東京都目黒区中根1-5-2トリツフードセンター2F 03-3723-7192
18:00〜0:00 日休
Posted by hisashi721 at 17:47│
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