2010年01月24日

本当にお久しぶりです・・・木場「河本」

DSC00885本当は午後4時に行きたかった。でも、仕事があるから仕方がない。急ぎに急いで、木場の駅に着いた時はもう6時近い。急ぎ足で橋を渡り、イトーヨーカドーの前を通り、信号が変わるのを待ちかねて横断歩道を横切って、店の前に立つ。古びた建物と暖簾。久しぶりだ。何年ぶりだろう・・・。とにかく店に入ろう。今日(23日)は土曜日。閉店時間は午後7時なのだから。

ドアを開けると、予想通り満席状態。カウンターの何人かがこちらを振り向く。だが、「ここ空いてますよ。」などという優しい言葉は聞こえてこない。左側の一番奥が、わずかにスペースが空いているように見える。カウンターの中で煮込みの鍋を掻き混ぜていた女将の真寿美さんが、やっと顔を上げてこちらを見る。「ああ、いらっしゃい。」と笑顔で声を掛けてくれる。「一番奥に入りますね。」といいながらカニ歩きで、お客さんの背後を通り、奥へ向かう。

思ったとおり、一番奥には空いてる椅子がある。しかも2つ。それが壁に向かって縦に押しやられている。それぞれが少しずつ詰めれば、後2人は座れるはずなのに・・・。狭いがなんとか壁にくっつくようにすわる。正面には棚があるから、何だか物かげに座っている感じ。真寿美さんが近くに来てくれる。「飲み物は?」と言う表情。「ホッピー(400円)お願いします。」「ホッピーね。」

まずジョッキをカウンターの上において、ペットボトルに入っている焼酎を小さめのコップに入れる。そしてコップからジョッキに焼酎を移す。これで焼酎の量を一定にするわけだ。そして、冷蔵庫からホッピーを取り出し、栓抜きでポンと詮を抜き、カウンターに届けてくれる。「はい、どうぞ。」「どうも。」ホッピーは自分でジョッキに注ぐ。瓶一本分ホッピーを注ぎきると、ちょうどジョッキが満杯になる。氷は入っていない。では、一口・・・氷が入っていない分、そんなに冷えていないのだが、却って柔らかい飲み口だ・・・ホッピーの味がよく分かる・・・美味しい!
DSC00886

カウンターは2つに別れていて、入って右側の壁際の席は常連客が座っている。ほぼいつも同じメンバー。何年かぶりに来たのに、前に来たときと同じ顔が並んでいるのには驚く。入り口正面から左側に続く長いカウンターは「一般席」。土曜日は相変わらずカップルが多い。後は、会社の同僚といった感じの人たち。常連客は軽口や冗談で盛り上がり、一般客は「すみません、おかわりください。」とか「おでんのとうふ、いいですか。」と腰が低い。時折、常連客が一般客に話しを振り、一般客が「そんなあ。ははは」などと遠慮気味に笑う・・・。

サワーを飲んでいる常連客1人を除いて、みんなホッピーを飲んでいる。一般客の1人が「ウーロン茶ないですか?」と真寿美さんに尋ねている。「何?」「ウーロン茶ないですか?こいつ酒弱いんですよ。」「あら、そう。ないよ。」「じゃあ、いいです・・・。」「ホッピーそのまま飲めば。焼酎入れずに。」「それは・・・。」「いるよ。お子様で飲む人。」「そうですか。」「いるよ。焼酎入れないから、お子様って言うの。」「はあ・・・じゃあそうします。」「これ結構アルコール分あるんだよ。0.8%。」「そうなんですか・・・。」真寿美さんの、なんともとぼけた感じの接客も久しぶりだなあ・・・。

「真寿美さん、煮込み(300円)お願いします。」「煮込みね。はい。」・・・真澄さんが鍋を開けて、よく掻き混ぜてから、皿に盛ってくれる。「はい、煮込み。」「どうも。」・・・ほとんどがプリプリのもつで、こんにゃくが少しだけ入っている。独特の煮込みだ。では、一口・・・もつの脂の部分がとても甘い・・・よく煮込まれていて味がしっかり沁みている・・・なるほどホッピーの淡白な味によく合う味だ・・・美味しい!ホッピー、ホッピー!
DSC00887

真寿美さんは忙しい。次々とホッピーのおかわりの注文が入るからだ。その度ごとに、焼酎をコップに移し、ジョッキに注ぎ、冷蔵庫からホッピーの瓶を出して栓を抜き、カウンターに届ける。ずっと立ちっぱなしでもあるし、足がきついだろうと思う。隣のカップルがお勘定を済ませながら、「お大事に。」と声を掛けている。「一時は歩けなくなったんだよ。それがね。なんとか歩けるようになってねえ。お医者さんも驚いてたんだよ。」などと話している。いまでも医者さんに通っているらしい。「医者にいくとね。逆に疲れちゃってね。」などと笑ってる。

ホッピーをおかわり。窓際に寝ていた猫を、常連客の1人が抱き上げて、カウンターの上にのせる。猫は撫でられたり、触られたりしているがおとなしくじっとしている。自分も触りたくなるが、遠いのでそういうわけにもいかない。ホッピーを飲みながら、見てるだけ・・・。いいなあ・・・。

「煮込み」を食べ終えたので、次のつまみを・・・。おでんもいいが、ここはさっぱりと「ゆどうふ」で。「ゆどうふ、お願いします。」「大きい方(200円)?」「ええ大きい方で。」「大きい方、もうなかったかもしれないなあ。見てみるね。」「なかったら、小さい方(100円)で。」「はい。」真澄さんがカウンターを出て、奥の厨房に向かう。しばらくして出てきて、「ごめんね。小さい方しかなかったよ。いい?」「いいですよ。」・・・一口・・・熱々でもなく、ぬるくもない、いい茹で加減だ・・・しっかりした絹ごし豆腐というのも好みだ・・・美味しい!
DSC00888

ホッピーをおかわり。3杯目。・・・女性3人組が入ってくる。自分の隣のカップルが座っていた席が空いている。壁に押しやられている椅子を自分の横にさっと置く。それを見て、3人組は「ここいいですか。」といいながら席間隔を調整して座る。閉店時間まで後20分くらいしかない。「うち7時までだけど、いい?」と真寿美さんが問う。「ああ、いいです。さっさと飲んじゃいますから。」「そう。」「ホッピー2つと生ビールありますかぁ?」「生ビールはないよ。」「じゃあ、ホッピー3つ!」・・・元気のいい人たちだ。

女性3人組は職場の同僚という感じ。年齢も様々。「あの人声がガラガラだよね。お酒好きだと、単なる酒やけだと思われちゃう。」「もんたよしのり、みたいな。」「そう、ダンシングオールナイト。」・・・古っ!・・・「新橋の烏森神社の先にいい立ち飲みがあるよ。」「へえ。」「おばさんが勝手につまみ作って出してくるんだけど、それがすごく美味しいんだ。」・・・ふむふむ。「二次会は『てんや』がいいね。天ぷらを肴に飲むのがいいんだよね。」「そうなの!」「私なんて、サービス券集めてるもん。」・・・「てんや」で飲むとは・・・今度やってみよう。

3杯目のホッピーを飲み終えたので、「真寿美さん、ごちそうさま。」と声を掛ける。「ありがとう、ございます。」やっとしゃべれる状況になったので、「本当にお久しぶりです。」と頭を下げる。「ああ、ほんとにねえ。今日は広島から出張で来たの?」・・・誰かが、「あの人、広島に帰ったみたいだよ。」と言ったに違いない。・・・「いや、ずっとこっちですよ。今日は仕事で・・・。」常連客からおかわりの注文が入る。「じゃあ、また、こっちに来たらね。」と向こうに行ってしまう。・・・伝わらなかったか・・・。まあ、出張のときしか来ないお客さんと大差ないからな。せっせと通うしか誤解を解く術はない・・・。
DSC00890

席を立って、お客さんの背後をカニ歩きで通り、ドアを開ける前に、もう一度「ごちそうさまでした。」と挨拶。「どうもね。ありがとうございました。」と真寿美さんが送ってくれる。

外に出る。道を渡って振り返ると、ビルの谷間で、河本は本当に小さな存在だ。でも、この店の中で、真寿美さんが猫たちと一緒に、お客さんを迎え続けている。お客さんたちが、河本の暖簾を目指してやってくる限り、この店はこの街にあり続けるだろう。また来ますね。木場駅に向かって歩き始める。
DSC00891


東京都江東区木場1丁目3−3
03-3644-8738

この記事へのトラックバックURL

この記事へのコメント
お久しぶりです。

先日、12月某日にわたしも久しぶりに河本へ行きました。その時は金曜だったんのに客はわたしだけで、ますみさんとポツポツと喋ってました。

わたしは浅草から亀戸天神を経由してずっと歩いて来たので船橋屋のお土産を差し上げたり木場の今昔の話をしたりと、何だかのんびりとしちゃいました。

いつ訪れても時間の止まった、不思議な店ですよね…。いつもなら河本の後に門仲でハシゴするのですがホッピー二杯で満足してしまい、帰路についたのでした。

PS そう言えば、十五年以上ぶりに満月に行きました。懐かしかったです。
Posted by ぽちぶらっく at 2010年01月29日 23:47
ぽちぶらっくさん、こんにちは。

お久しぶりです!お元気ですか?

河本で、のんびり飲めたんですね。羨ましいです。
ホッピー二杯で満足する気持ち、なんだか分かります。

満月の前は毎日通ってますが、なかなか入る機会がありません。満月も四年以上ご無沙汰してるんですよ。
Posted by 寄り道 at 2010年01月30日 17:07