2010年02月15日

思い出横町のバレンタイン・・・新宿「つるかめ食堂」

DSC01178今日(14日)は日曜日。バンクーバーオリンピックが始まっている。せっかくだからと、午前中はテレビを見て過ごす。ジャンプノーマルヒル、女子モーグル、ショートトラック・・・チャンネルを切り替えながら、全部見る。そんなことをしているうちに、あっというまに時間は午後2時。

コーヒーでも飲みながら読書をしようと出かける。鷺ノ宮から電車に乗り、西武新宿駅に。大ガード横の横断歩道を渡って、思い出横町を抜ける。思い出横町を出て左すぐの「但馬屋珈琲店」に入る。オリジナルブレンドコーヒー(650円)を注文。本は新潮文庫の『灰色の月・万暦赤絵』(志賀直哉)を読む。この文庫本に中の「自転車」という短編を何度も繰り返し読む。なぜ、こんなに心惹かれるのかと不思議に思う。

午後5時30分を過ぎる。「但馬屋珈琲店」を出ると、もう夕暮れの景色だ。思い出横町に入って、左右の店を見ながら歩く。どの店もお客さんが多い。ビール飲みたいなあ・・・「つるかめ食堂」を見ると右側のカウンターに空きがある。あの席、位置的に居心地がよさそうだ・・・。サッシの戸を開ける。

入口右手奥、2階に上がる階段の下は常連席。一番奥は空いているが、よっぽど混んでないかぎり案内されない。柱の影になっていて注文が通りにくい席だからだと思う。二番目の席には常連さん。その隣、三番目の席が目をつけた席だ。「こんばんは。1人です。ここいいですか。」とカウンターの中の女将さんに声をかける。「どうぞ!」という声が返ってくる。

この店は、コの字型カウンターの縦棒が長く、上下の横棒が短いイメージ。自分はコの字の上の横棒の真ん中辺りに座っている。カウンターを見わたすと、ほぼ席は埋まっているようだ。外から店の中を眺めて、諦めて他の店に向かう人も多い。

「ビール(大600円)。それから牛すじ煮(300円)を、お願いします。」と女将さんに注文する。腰が少し曲り気味とはいえ、それでも、きちんとお化粧をして、白い上着に長靴という颯爽とした格好は全然変わっていない。女将さんが冷蔵庫からビールを出して、栓を抜いてくれる。「はい、ビール。どうぞ。」

では、一口・・・冷たいビールが喉を通っていく・・・これって快感だよなあ・・・美味しい!外国人の若い女性店員さんが、大皿に入っている「牛すじ煮」を大きなスプーンですくって、細長い皿に移してくれる。「お待たせしました。牛すじ煮です。」では・・・一口・・・醤油味で煮てあるので甘くはない・・・すじの脂身がとろりとして口の中で溶ける・・・よく煮込まれているので、ずじの旨味だけで味が濃くなっている・・・美味しい!ビール、ビール!
DSC01170
DSC01171

女将さんは、注文を奥の厨房に通したり、料理を運んだり、会計をしたりで大忙し。それでも、若い女性店員さんには、「洗い物してくれて、ありがとうね。助かるよ。」と声をかけている。それに、常連の1人客にも「いつもすみません。席が窮屈になっちゃって、ごめんなさいね。」と話しかけて、「今日はバレンタインデーだから、一つどうぞ。」とスーパーのレジ袋から、小さなチョコレートを出してプレゼントしている。もらったお客さんは、
焼酎を飲む手を休めて、嬉しそうにチョコレートを頬張っている。
DSC01177

店の外は、相変わらず人通りが絶えない。店の中を覗いては、どの店に入ろうか迷っている様子。何度も行ったり来たりしている人もいる。カップルが一組入ってくる。「満員?」と男性が、カウンターの中に声をかけると、「そこに入れますよ。どうぞ。」と女将さんが答える。「1つしか椅子空いてないよ。」とお客さんの1人が言うと、「皆さん、ご協力をお願いします。」と女将さん。みんなが少しずつ左右に椅子をずらす。すると女将さんが、奥から予備の椅子を持ってくる。「蛍光灯に気をつけてください。」といいながらカウンター越しにお客さんに椅子を渡す。「みなさんありがとう。」と嬉しそうに男性が頭を下げる。

ビールを飲み終えたので、次は焼酎。「すみません。焼酎のお湯割り(400円)をください。」と女将さんに注文する。「新規で焼酎ね。」「はい。」グラスにキンミヤ焼酎を入れ、大きな薬缶からお湯を注ぐ・・・グラスから湯気が立ち上る。「どうぞ。」・・・では、一口・・・ほわ〜、温か〜い。店の中が広いせいか、座っているとちょっと寒い。だから焼酎の温かさが嬉しい。「今日は寒いからね。美味しいでしょ。」と女将さんが言う。
DSC01174

つまみも、もう一品。この店は天ぷらのメニューが多い。天ぷらを食べようかな・・・「すみません。ミックス天ぷら(350円)お願いします。」と若い女性店員さんに注文する。ミックス天ぷらとは、野菜天とあじ天の盛り合わせだ。・・・「これ。」「何?」「今日は?」「バレンタイン・・・そうか、ありがとう!」というやり取りが聞こえてくる。思い出横町のバレンタイン・・・いいなあ〜。

「ミックス天ぷら」が届く。かなりのボリューム。銀色の皿に盛られているのが渋い。では、あじ天を一口・・・揚げたてで、熱々。あらかじめ天つゆをかけてあるので、衣はしっとりとしている・・・美味しいなあ〜。お湯割り、お湯割り。「すみません。お湯割り、おかわり。」・・・2杯目。
DSC01173

「今、お湯が沸いたから、熱いのを入れてあげようか?」と女将さんが言う。「うんと熱いのお願いします。」と答える。女将さんがグラスにお湯を注ぐと、さっきとは勢いの違う湯気が立ち上る。「火傷なさいませんように。」と女将さんが笑いながら言う。「大丈夫です。」・・・慎重に少しずつ啜るようにして飲む。熱っちっち・・・おお、これは温まる!

2杯目のお湯割りをゆっくり飲み終えて、今日はここまで。「ごちそうさま。」席を立つ。「ありがとうございました。窮屈ですみません。」「また!」

外に出る。狭い通りをたくさんの人が歩いている。ぶつからないように気をつけながら、青梅街道に抜ける。大ガード下の横断歩道に出ると、視界が広くなる。新宿プリンスホテルがそびえ立っているように見える。
DSC01181
DSC01180

東京都新宿区西新宿1-2-7
03-3343-4078
12:00〜23:15
水休

この記事へのトラックバックURL

この記事へのコメント
寄り道さん、こんばんは。志賀直哉の灰色の月・万暦赤絵、いいですよね。寄り道さんの文章は、読んでいて心落ち着くものがあります。日々の何気ない生活に意外に大切なものがありますよね。先日千成屋を再訪しましたが、たこ焼き屋を開くにあたって、問わず語りに少し悲しいを聞きました。でも店を出るときはとても元気になったような気がします。お仕事大変だと思いますが、更新を楽しみにしています。
Posted by ノア at 2010年02月22日 00:11
ノアさん、こんにちは。

文章を褒めていただいて、ありがとうございます。
本当に嬉しいです。

千成屋のおじさんの話を聞いていると、元気が出ますね。
いろいろな経験がその背景にあるからなんでしょうね。
あの少年のような表情が忘れられません。

更新、できるだけ頑張りますね。
これからも、よろしくお願いします。
Posted by 寄り道 at 2010年02月22日 16:40