東京に日射しが戻ってきた。気温も10℃くらいまで上がり、寒さも少し和らいだ感じだ。こうなると、春も近いのかなあ、と心も軽くなるし、背筋も伸びてくる。仕事ではトラブルが続き、ちょっとへこみ気味だが、いいことを数え上げて、自分を励ます。もちろん、今日は暖かかったというのも、いいことの一つに数える。
午後6時、鷺ノ宮駅に到着。最近はこんなに早い時間に鷺ノ宮に帰ってくることも少なくなった。今日は気分転換に、地元ながらまだ入ったことのない店に行ってみようと思っている。改札を出て、いつもは北口に下りる階段に向かうのだが、今日は南口へ。
南口の階段を下りると線路に沿って、いろいろな店が並んでいる。その中に「東宝亭」という居酒屋があり、何度か行ったことがある。もう何年も前に阿佐ヶ谷北6丁目あたりから、ここに移転してきたということだった。
この店に最初に入った時、黒板の「今日のお薦め」の中に「わらさ刺身」というのがあった。当時、魚の知識が全くなかった(今でもないが)自分は、「さわら」という魚は知っていたので、これは「さわら」を書き間違えたのだと思ってしまった。「間違ってますよ。」と言おうかどうしようか、心の中で葛藤していたら、ちょうどお客さんの誰かが「わらさと、さわらって名前は似てるけど、俺はわらさの方が断然美味いと思うよ。」みたいなことを言ってくれたので、内心、言わなくてよかった〜、セーフ!、とほっとしたことを覚えている。
で、この店では、なぜが「わらさ」を注文したくなる。特に好きな魚というわけでもないのだが・・・。それから、鰯の刺身を注文した時に、三枚に下ろして、残った骨の部分を、ロースターでこんがり焼いてくれたことがあった。それは、香ばしくてとても美味しかった。こんな風に気が利いて、しかもアットホームな雰囲気のいい店なのだ。
でも、なかなか積極的に行く気になれない。それはなぜかというと、地元の人が夕方、ふらっと寄るというタイプの店なので、スーツ姿では浮いてしまうからだ。他の人はラフな格好なのに、自分だけスーツ姿で飲むのがなんだか落ち着かない。それは、北口にある「満月」という店も同じで、こういう店は休みの日の夕方に寄って、のんびり飲みたいもの。だが、自分は土曜日が勤務で、なかなかそういうわけにもいかない。日曜日は休みの店が多いし・・・。
「東宝亭」の並びに「味よし」という店がある。確か6年くらい前の夏にオープンしたと思うが、ここは定食屋と居酒屋を兼ねている小さな店だ。小さな店というのは、常連になれば、却って過ごしやすいのかもしれないが、なかなか入りにくいものだ。そういうわけで、一度も行く機会がなかった。こういう日は、思い切ってそういう店に入る気分になれる。
鷺ノ宮駅の南口階段を下りて、すぐ右にあるのが「味よし」だ。駅から最も近い店ということになる。ここにはかつて小さな本屋さんがあった。その本屋は狭いながらも、工夫して幅広い品揃えをしていたので、大好きな店だった。それでも街の小さな本屋というのがやっていけない時代になり、閉店。その後、携帯ショップを経て、この店舗に「味よし」が開店したというわけだ。
ドアを開ける。「こんばんは。」カウンターの中にいたマスターが「いらっしゃいませ。」と迎えてくれる。店はカウンターが6席くらいと、4人掛けテーブルが2つ。入口側のテーブルには近くに住んでいるという雰囲気のご夫婦が座っている。カウンターの一番奥の席に座る。
「生ビールの小(400円)、お願いします。」と注文。初めてなので、どういう風に過ごしていいのか、ちょっと戸惑う。「はい、生ビール。」・・・では、とりあえず生ビールを一口・・・よく冷えている。だんだんビールが美味しい季節が近づいているなあ・・・美味しい!「はい、お通し(300円)です。」・・・お通しは「牛すじ煮」。大きなすじ肉だ。一口・・・柔らか〜い。噛むと繊維がこりっとしているところもあり、それもまたいい。さすが定食屋さん、煮物が上手!
しばらくは、牛すじでビールを楽しむ。女将さんが、買い物から戻ってきて、元気な声で「いらっしゃいませ。」と声をかけてくれる。テーブル席のご夫婦とは知り合いらしく、しばらく楽しそうに話をしている。「知り合いがね、携帯を鞄から出して電話しようとしたらね、テレビのリモコンを間違えて持ってきてたんだって。可笑しいわね。ほほほ。」・・・明るい女将さんだ。
外に自転車が止まって、年配のお客さんが入ってくる。奥のテーブルに座る。マスターが「ベンツでのご来店ありがとうございます。しばらくぶりじゃないですか。」と迎える。「俺のベンツは防水じゃないから、雨の日はだめなんだ。」と男性が答える。「二輪のベンツは珍しいしね。」・・・店の雰囲気はとてもいい。
女性のお客さんが一人入ってきてカウンター席に座る。「野菜炒め定食」を注文する。女将さんが、にこやかに話しかける。こういうところが、女性が一人で気軽に食事ができる雰囲気を作っているのだと思う。定食には、メインの野菜炒めの他に、ポテトサラダと筑前煮がつく。小鉢というよりしっかりとした量がある。もちろん、味噌汁とお新香もセットだ。
レモンサワー(350円)を注文する。何かつまみを・・・。カウンターの上の大皿に入っている煮物も美味しそうだし、ポテトサラダもイモがころっとしていて、いかにもつまみとしてよさそうだ。いろいろ迷うところだが、定食屋の焼き魚というのも美味しそうだと思い、「焼きサバ(500円)」を注文する。
焼きサバが届く。ふっくらとした焼き上がり。箸を入れると、じゅっと脂が沁みでてくる・・・一口・・・う〜ん、塩加減がいいなあ。ほくほく食べられる。これは、ご飯が欲しくなるよな〜。美味しい!サワー、サワー。ん?レモンサワーにも合うじゃないか!
レモンサワーをおかわり。店の柔らかい空気に包まれていると、心が落ち着いてくる。常連になったら楽しいだろうなと思う。
レモンサワーを飲み終えて、今日はここまで。「ごちそうさまでした。」席を立つ。「ありがとうございました。」女将さんの元気な声に送られる。
外に出る。川沿いの道を歩いて帰る。踏切がまた閉まっていて、赤いランプが点滅している。地元の小さな店に、元気な女将さんと、料理上手のマスターがいて、常連客が毎日楽しそうに話をしている・・・こんな光景が身近にあったんだなあ・・・なんだか、心が温かくなる。
東京都中野区若宮3-58-26
Posted by hisashi721 at 17:30│
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貴兄のブログを読むとほっとしますね。羨ましい日常が見えるようです。一週間纏めて拝見しているので若干コメントがずれますがご容赦を。「つるかめ食堂」は学生時代(約40年前)時々行きました。確か「ソイ丼」が有名なお店でしたよね。東口に同名の定食屋があり、そちらはよく利用していました。「ハムかつ」が食べたいな