寄り道Blog

今日（14日）は、昨夜少し遅くなったため、朝はゆっくり過ごす。午後外に出てみると、思ったより暖かい。これなら、少し遠くまで自転車で走っても大丈夫だな、と考えて新宿まで行くことにする。新青梅街道、環七、甲州街道を走って、新宿駅南口方面へ。「シアトルズベスト」でコーヒーを飲み、東急ハンズや紀伊国屋書店を回っていると、時間はあっという間に過ぎていく。

帰り道は、走っているとどんどん辺りが薄暗くなってくる感じ。それに、昼間に比べて気温がぐっと下がってくる。それでも、快調に走って、野方に近づく、野方駅方面に入り、みつわ通りを経て都立家政商店街が見えてきた時にはちょっと安心する。商店街は自転車や歩行者が多いので、裏道を縫って走る。都立家政駅前の踏み切りを渡ると左に曲がり、「竹よし」の前の道を走る。通り過ぎる時、ガラス越しに、カウンターの3人くらいのお客さんとマスターがチラッと見える。

真っ直ぐ行くと鷺ノ宮に出るという道に入り、さて、鷺ノ宮に向かおうと思った時、ふと左を見ると、明るいライトが目に入る。「旬」という和食料理屋さんの看板を照らすライトだ。そういえば、Ｔさんという地元のお店に詳しい方から以前薦められたことがある。Ｔさんが「いいよ。」と言う店は、間違いなくいい。なぜならＴさんは、いいと思った店には何度も通うからだ。一度や二度行ったくらいでは、本当にいい店かどうかは実は分からない。なぜなら、たまたま、いい雰囲気だったかもしれないからだ。

例えばこういうことがある。初めて入った店で、たまたま隣に座ったお客さんがとてもいい人で、話が弾み、お客さんの数もほどほどで、店の人も余裕があるので注文がすんなり通り、楽しく過ごすことができた。次も期待して行くと、グループ客ががやがやとうるさくて、忙しさのため店員さんも余裕がないのか、注文もなかなか通らない、しかも、勘定を間違えられ、「ありがとうございます。」という言葉も形式的で、突き放された感じ・・・。これは最悪のパターンだが、何度行っても気持ちのいい店というのが本物なのではないだろうか。

というわけで、「旬」に行ってみたくなる。でも、自転車が・・・。まあ、押して帰ればいいかと考えて、短時間駐輪できそうな場所を探す。・・・「旬」は半地下の店で、外から、中の様子が見える。お客さんは入っていないようだ。階段を下りると、すぐに入り口がある。初めての店に入るときは、やはり軽く緊張するもの。どんな風に迎えてもらえるのだろうか・・・。

ドアを開けて、店の中に入る。店は右側が小上がりで、左側にカウンター。とても立派なカウンターだ。店の照明といい、壁の色といい、落ち着いて過ごせるように工夫されている。こんな雰囲気のいい店が、都立家政にあったのか。入った瞬間に、いい店に入ったなあ、と実感する。カウンターの中のマスターに「こんばんは。」と声を掛けると、「いぃらっしゃいませぇ〜。」と明るく伸びやかな声で迎えてくれる。女将さんが、「お1人ですか？」と声を掛けてくれる。「1人です。」「おタバコは。」「吸わないです。」「ではこちらの席に。」カウンターの一番奥の席に案内される。「ノンスモーキングのお客様ぁ、お1人ご案内でぇ〜すぅ。」とマスター。いい声だなあ。

脚の長いスツール風の椅子に座る。女将さんが改めて「いらっしゃいませ。」と言いながらおしぼりを持って来てくれる。「生ビール（中550円）をお願いします。」と注文する。「はい、生ビール、注文いただきましたぁ〜。」とマスター。誰に言ってるんだろうと思ったら、奥の厨房に、料理長のような方が作業している。なかなか本格的な店であるらしい。

生ビールとお通しが届く。生ビールを一口、柔らかい口当たり。香りもいい。さすがに自転車で走ってきたので、喉が渇いている。ぷはぁ〜、美味しい！お通しは、鶏肉と野菜の炊き合わせ。鶏肉を一口、甘味を抑えて、出汁を効かせた上品な味だ。この店のレベルの高さを感じさせるお通しだ。とても美味しい。生ビールが進む。


店の入り口横の生簀には、ふぐを初めとして、何種類かの魚が泳いでいる。この店のメインは「ふぐ料理」だと思うが、メニューを見ると、刺身、揚げ物、煮物、焼き物、その他一品料理と幅広く、しかもそれぞれの種類が多い。何を注文していいか、迷ってしまう。そこで、Ｔ さんに携帯でメールを打つ。「旬にいるのですが、何を注文すればいいですか。」すぐに返信が届く。「刺身と焼き物をそれぞれ選んで注文してみてください。」・・・なるほど。

メニューの中から、「ほっけの昆布〆の刺身（980円）をお願いします。」と注文する。食べたことがないので楽しみだ。女性客が1人入ってきて、梅酒のお湯割を注文している。「今日は何を食べようかな。」とその女性客。「穴子が美味しいですよ。刺身もできます。」とマスター。へえ〜。そこにＴさんからメール。「マスターに今日のお薦めを聞いてみるといいですよ。いいものがあるかもしれません。」・・・今日のお薦めは穴子だったかな・・・。

ほっけの昆布〆のお刺身が届く。おお、この身の輝き。美味しそうだ。早速、一口・・・もっちりとした食感。透き通った味というか、淡白なほっけの味を昆布の旨味がぎゅっと引き締めている。美味しい！ビール、ビール！・・・女性客との会話を聞いていると、マスターがとても楽しい人であることが分かる。気さくというか、飾り気がないというか・・・。料理の説明をするときも自然で、分かりやすい。こういう店の店主によくある自慢げなところがないのだ。それにしても声がいい。


「初めてですよね。」と女将さんが話しかけてくれる。「はい。」と答えながら、女将さんの方を見ると・・・おお、この笑顔は！・・・初めての来た客で、まして1人だった時には、お店の人は客に対して警戒心というと大げさなのだが、ある種の緊張感があるように感じることが多い。ところが、この女将さんの笑顔にはそれが全く感じられないのだ。この人はどんなお客さんなのだろうと、ウキウキしているように見えるくらいだ。一瞬にして、リラックスする。

「お住いはこちらですか？」・・・話し方も、本当に柔らくて、前々からの知り合いに話しているような親しさが感じられる。しかも、笑顔は全く崩れない。不思議な魅力を持った人だなあ。・・・「鷺ノ宮です。ここからだと15分くらいかかるかもしれません。」ちらっと自転車のことが頭をよぎる。「いつもは、鷺ノ宮のお店に行かれるんですか？」「地元はたまにですね。渋谷とか、新宿、自由が丘とかで飲む方か多いです。」「まあ、おしゃれねえ！」・・・思い出横丁や渋谷中央街が頭をよぎる。「おしゃれな店では、あまり飲まないんですよ。」・・・はい。

女将さんが自然に話してくれるので、ずっとこの店に通っていたかのような錯覚をしてしましそうだ。マスターも、時々話しに加わってくれるので、とても楽しい。居心地がいいので、日本酒を注文することにする。「すみません。お酒を燗（八海山2合1300円）でお願いします。」と注文する。趣味の自転車の話を女将さんが熱心に聴いてくれる。気がつくと、べらべらと薀蓄を話してる。聞き上手だなあ・・・。

燗酒が届く。夕方になって、外はかなり冷え込んでいる。まだまだ燗酒の美味しい季節はしばらく続きそうだ。では、一口・・・ほわっと温かい。すっきりした飲み口が、この季節には合うのかもしれないなあ。美味しい！では、ここで、Ｔさんのアドバイスの「揚げ物」を1つ。メニューの「揚げ物」の欄の中から、「活きあなごと新玉ネギのかき揚げ（780円）」を選んで注文する。


女性客の連れの男性客がちょっと前から合流している。カウンターには自分を含めて3人の客。「なんて静かな日曜日なんでしょう。」と女将さんが、例の笑顔で言う。「みなさんどこかにでかけちゃったんでしょうか。」「いつもの日曜日はどうなんですか？」「家族でお食事に来られるお客さんも多いんですよ。」「今日はホワイトデーだから、家で水入らずなのかも。」と思い付きで言ってしまう。言ってしまってから、あんまり説得力がないことに気づく。でも、「静かな日曜日」という言葉は、ちょっといいなと思う。こういう題で詩が書けそうな気がする。

「活あなごと新玉ネギのかき揚げ」が届く。一口、パリッとした歯ごたえがいい。穴子は柔らかくて旨味がたっぷりだ。玉ネギはなんともいい甘さだ。美味しいなあ。燗酒、燗酒！・・・半地下のためか、外の音も気にならない。そういう意味でも静かだ。いいなあ、この雰囲気。「この店は、何年目ですか？」と女将さんに聞いてみる。「13年目になるんですよ。」「そうかあ、ずっと近くに住んでたのに、早く来ればよかった。」「そうですね。13年も来なかったんですね。」と女将さんがにっこり笑う。・・・ぐっとくるなあ。


燗酒を2合飲み終えたところで、今日はこの辺で。席を立つ。「美味しかったです。ごちそうさまでした。」「ありがとうございました。」マスターのいい声が聞こえてくる。女将さんが一緒に階段を上がって、外まで来てくれる。「ありがとうございました。」と改めて丁寧に頭を下げて送ってくれる。嬉しい！

自転車を押しながら、Ｔさんにメールを出す。「ありがとうございました。とても美味しくていい店でした。」・・・風が冷たい。でも、なんだかいい気分だ。坂道を下ると鷺ノ宮はもうすぐ。早春の静かな日曜日の夜だ。

東京都中野区鷺宮3-6-6 ベア・ヴァレイ都立家政　B1F
03-3337-7479
17:30 - 23:00
水休