2022年10月20日

変わりゆく街で・・・渋谷「三漁洞」

IMG_20221019_205331午後8時、渋谷駅西口。まだまだ工事中という感じで仮設の街並みだ。中央街に向かう横断歩道にも警備員の方々がいて、歓楽街に向かう人々と工事現場を見守っている。東急プラザのエスカレーターで2階まで上がり、新しくできた高層ビルを眺めながら歩道橋を歩き、桜ヶ丘方面に繋がる階段を降りると、すぐに白い暖簾が見えてくる。そこには「エータローの店 酒と魚 しぶや三漁洞」と染め抜かれている。

 



IMG_20221019_205129ここも渋谷駅周辺の再開発によって移転を余儀なくされた店の一つ。前の店は歩道から地下に降りる階段の先にあった。これが店名の「洞」の由来だという。新しい店は1階。ドアが開け放してあるので、中の様子が見える。前を歩いていた中年男性が店に入っていく。奥で女将さんと何やら話している。そして、出てくる。女将さんが入り口近くまで送っている。・・・あれっ、満席かなあ。確かにこちらから見える席は全て埋まっているなあ・・・。

 

入口から中に入る。女将さんは奥のレジのところにいて忙しそうだったのだが、奥に向かって歩き始めると、すぐにその気配で気づいてくれる。女将さんは例によって、着物に割烹着姿。癒される笑顔で「いらっしゃいませ。」と迎えてくれる。「すみません。今日は予約してないと入れませんか?」「お一人様ですか?」「はい。」「カウンターでもよろしいですか?」「もちろんです!」「では、こちらにどうぞ。」と奥に案内してくれる。


カウンターは5席。周りのカウンター席は全て埋まっている。カウンター奥にはサラリーマン2人組。手前のカウンター席の女性2人が丁度会計に立ち上がったところ。真ん中の席に案内される。女将さんが、改めて「いらっしゃいませ。ようこそ。」と言ってくれる。「生ビール(プレミアムモルツ500円)をお願いします。」と注文。「1人客は自分だけ」ということは寄り道飲みの宿命みたいなものだが、こんな時、お店の人の心遣いこそが最大の癒しだ。

 

IMG_20221019_204053この店は、福田蘭堂という作曲家が昭和42年に開いたと聞いている。福田蘭堂の父は洋画家青木繁。二代目は蘭堂の子息である石橋エータロー氏。文化的な雰囲気漂うかつての店とは違い、今の店は明るくモダンな雰囲気も感じる。それでも、そこここにかつての店の名残を見つけることができて楽しい。かつての渋谷に戻って来たような気がする。

 

 

IMG_20221019_200154生ビールが届く。箸置きは陶器の魚。女将さんが「お通し(900円)をお出ししてよろしいですか?」と問う。「お願いします。」と答えると、小鉢を二つ出してくれる。「湯葉とウニの和え物です。どうぞ、召し上がってください。」「美味しそうですね。」「はい。それから今日は、いくらご飯をご用意できますので、〆にぜひ召し上がってくださいね。」「そうなんですね。楽しみです。」

 

さて、ビールを一口。・・・やっぱり、プレミアムモルツうまいよな〜、ホッとするよ〜・・・お疲れ様、今日も渋谷で飲もうと思った自分! 頃合いを見て女将さんがメニューを持って来てくれる。まずは刺身だな。盛り合わせ(2500円)にしようかな・・・でも、ちょっと多いんだよな。それから、絶品、渋谷の宝「ぶり大根」は外せない。「刺身盛り合わせの小(1500円)とぶり大根ハーフ(400円)をお願いします。」「はい、お待ちくださいね。」・・・ぶり大根は、大根2つとぶり2枚なのだが、何しろ大根が大きいので1つずつのハーフが適量。でも美味しすぎて、やっぱり2つのやつにすればよかったといつも思うのだが。

 

隣のサラリーマンは会社の先輩と後輩らしい。この店の刺身とぶり大根を食べさせたくて後輩を連れて来たという感じ。そのぶり大根を食べながら、「いやー、これは参った。本当に美味い。この染み込んだ味が全身に染み渡るようですね。美味い、本当に美味い。最高です。いやー・・・・」悶絶という感じで身体をくねらせながら絶賛している。こちらまで嬉しくなる。

 

お通しをいただこうかな。まずは湯葉から・・・ふ〜む、上品な味・・・ねっとり感も適度でいい、それから、うにの和え物は・・・はー、キノコと海老をうにで和えてあるのか・・・美味しいなあ・・・ビール、ビール。ぷはぁ〜。これだけで、何杯もいけそうだ。・・・目の前はオープンな厨房になっている。3人の板前さんたちが丁寧な仕事をしている。それを見ながら飲むのもまたいいものだ。いくらご飯が4つ出来上がる。どうやらテーブルのお客さんが〆に入ったらしい。ご飯の上にこれでもかと乗せられたいくらが宝石のように光っている。これは絶対美味いやつ。
 

IMG_20221019_201445刺身盛り合わせが届く。ほー、流石に美しい配置。これはお酒にしなければ。「すみません。賀茂鶴をお願いします。」すると、やはり着物に割烹着姿のすらりとしたお姉さんが来てくれて、「温かいのか冷たいのか、それとも常温にしますか。」と問うてくれる。一瞬迷う。温かいのもいいが・・・じっくり味わいたいので・・・「常温で2合お願いします。」「すぐにお持ちしますね。」

 

 

白い2合徳利と黒い盃が届く。おしゃれ。お姉さんが「おつぎしますね。」と徳利を傾ける。ひや〜、お酌してくれる、いや、くださるのか・・・こういうの久しぶりだなあ。「どうぞ」「どうも」・・・一口・・・「美味しいです。」「はい。」にこりと笑っておねえさんが去る。ぼんやりして盃を落としそうになる・・・。

 

では、刺身を一口・・・まずは鯛からかな・・・おっ、甘い・・・歯応えもあるし新鮮そのもの。美味い!酒、酒、酒。刺身がどれも美味しくて、酒が進みすぎる。ぶり大根を待たねば。隣のサラリーマン後輩はずっと「すごい。本当にすごい。」と食べ終わったのにぶり大根を絶賛し続けている。その彼に角煮が届く。おいおい、これは大変なことになるぞ。後輩氏が一口食べてしまう。「うわー、こ、これは凄すぎる!美味い、美味い。美味い〜!」・・・ほらね。

 

IMG_20221019_202305ついに、ぶり大根が届く。大根は自分の握り拳より大きい。ぶりはもちろんアラではなくちゃんとした切り身。来たよ、来たよ、来ましたよー。では、箸でざっくり割って・・・すごいよ。中までしっかり汁が染み込んでいる。一口・・・「うんめ〜!」声が出てしまう。お姉さんがこちらを見てにっこりする。ちょっと恥ずかしい。「美味しいな〜。」と声に出して言い直す。それにしても美味い。酒が足りないなあ。「すみません。賀茂鶴、もう1合追加で。」

 

IMG_20221019_203609ぶりも大根に負けず美味しい。2合はあっという間だったな。そこにお姉さんが白い1合徳利を持って来てくれる。そして、空の2合徳利を耳に近づけて優雅に振る。「空になってるかどうか確かめたんですよ。ちゃんと空になってました。」とにっこり。ぼーっとしてしまう。「おつぎします。」「は、はい。ありがとうござします。」・・・う、嬉しい。なぜ、こんなに嬉しいだろう。

 

日本酒うまいなあ。しかし、明日は5時起きだし、3合でやめとかないと。心残りだが・・・ここで席を立つ。「ご馳走さまでした。」・・・お姉さんがにっこり笑って送ってくれる。女将さんが入口まで来てくれて、「ありがとうございました。窮屈なお席で申し訳ございません。」「全然窮屈なんかじゃありませんでしたよ。のびのびとゆっくり飲ませていただきました。でも、本当はいくらごはんが食べたかったんですけどね。」「ビールの後、3合召し上がりましたからね。またお待ちしております。今日は50分くらいしがいらっしゃらなかったから。」・・・忙しいのに気にかけてくれてたんだな。ありがたい。それにしても、1時間もいなかったのか・・・。

 

外に出る。歩道橋を上がって渋谷駅前を見下ろす。街は変わっていくが、多くの人が行き交う光景は同じだなあ。あの頃の自分もこうして歩いていたのだろうか。楽しそうに、何かを求めて・・・

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Posted by hisashi721 at 17:12│Comments(0)