朝6時30分。目覚めた時、ここが自宅であることを確認しホッとする。どうやって帰ったんだ?・・・随分久しぶりに記憶が飛んだ。まさか、こんなことになるとは思いもしなかった。どこまで覚えているかというと・・・記憶を辿る。世田谷線の世田谷駅前の店を出たのが午後10時ぐらいだったはず。それももう記憶がない。どこをどう回って乗ったのかはわからないが、電車で眠りこけていた。で、ふと気づくと西武新宿線の「上石神井」駅だった。慌てて降りたら、もう12時を過ぎていて、帰りの電車はもうないという感じだったよな。で、そこからどうした?
ことの発端は、昨日(2日)の帰り道、明日は文化の日でお休みだから、ちょっと遠くに寄り道しようと考えた。そこで思い出したのが、9月に行ってみたら定休日だった店、世田谷にある「酒の高橋」だ。土日が休みだから今日(水曜日)はやっているはず。祝日前の平日なんて絶好のタイミングじゃないか。ということで、渋谷駅に着いたのが午後6時50分。田園都市線に乗るつもりだったが、乗客の多いこの時間に、三軒茶屋で世田谷線に乗り換えるのが少々面倒くさい気がする。
そんなことを思っている時、マークシティ前に「成城学園前行き」のバスが停まっているのに気づく。席も十分空いている様子。よし!これで行こう。ウキウキする気持ちを抱えてバスに乗り込む。「お願いします。」と運転手さんに元気よく挨拶して、怪訝な顔をされる。バスは程なく出発する。ハチ公前のスクランブル交差点を左折して道玄坂を上っていく。ものすごい人出だ。バスは順調に走り続ける。
「成城学園前」という響きには思い出がある。高速バスで伊豆に行ったことがあるのだが、そのバスの運転手さんがとても面白い人だった。マイクで面白いことを呟くのだ。たとえば、「今日はいい天気でよかったですね。何よりです。何より、はべり、いまそかり・・・」ぷっ、古文じゃん。つい笑っちゃったよ・・・って感じ。そのバスが高速を降りて一般道に入り信号で止まった。信号の横に大きな「くすりのセイジョー」がある。その時運転手さんがぽつりと「成城学園前」と呟いたのだ。意表をつかれた自分は声を出して笑ってしまった。周りはシーン。恥ずかしー。
そんななどうでもいいことを思い出して、勝手に顔を赤らめていると、バスは松陰神社前を通過。もうすぐ到着するぞ。世田谷区役所前を過ぎて、いよいよ「世田谷駅前」。ボタンを押す。バスを降りて少し歩くと、あった、あった、ありましたよ。暖簾が出ている。灯りも付いている。バスの中でこのブログを検索すると、前回は2005年4月に来ている。ここも、すっかりご無沙汰。外見の印象は変わっていないが、さて、店内はどうだ?少々緊張しながらドアを開ける。
店内は、右手にカウンターが奥まで伸びて、左手に小上がり座敷。ここは記憶のまま。カウンターはアクリル板で5つに区切られていて、客は2人。小上がり座敷のテーブルは4つ全て埋まっているが、そのうち3つは1人客。足を投げ出したり、足を立てたりしてリラックスモード。これもこういう感じだったなあ、という感じ。
ドアを開けた時、その全員がこちらを見る。予想通り、「誰?」という雰囲気が漂う。その気持ちはよくわかる。地元の常連同士、ゆっくり世間話をしながら楽しく飲んでいると、スーツにネクタイ姿の見知らぬ男が入ってきて、その空気を乱しているのだから。カウンター奥の席を片付けていたお店の女性と目があう。その女性も不思議そうに自分を見る。そこまで歩いて行って、「カウンター、ここいいですか?」と言う。「ママちゃん、いい?」とその女性がカウンターの中のママさんに問う。「いいよ。どうぞ。」とママさんが答える。うわーママさんがいた!懐かしー。奥から2番目の席に座る。店内の止まった時間が動き出したように、皆さん自分達の世界に戻っていく。
お店の女性がおしぼりを持ってきてくれる。「何にしますか?」と問われる。カウンター上のメニューを見上げる。前回来た時に飲んだ、当時の名物「豆乳割り」はもうやっていない。「サッポロ黒ラベル(大700円)をお願いします。」と告げる。「ママちゃん、サッポロです。」とその女性。「あっりがとうございまーす。」と、どでかい声をママさんが発する。驚いて椅子から転げ落ちそうになる。こんな人だっけ?
「運が良かったよ。ちょっと前まで満員で入れなかったよ。」とママさんが話しかけてくれる。「そうかもしれないと、一応は覚悟してたけど、良かった。」と答える。このやりとりで自分も店に受け入れられた感じ。ビールが届く。そこにママさん自らお通し(200円)を持ってきてくれる。お通しはしじみのお味噌汁。美味そう。まず、ビールをグラスに注いで、一口・・・久しぶりの黒ラベル・・・やっぱり美味しい・・・冷えたビールが喉を通っていく。たまらねー。
しじみの味噌汁を飲む。いやー、これは美味しいなあ。沁みる美味さ。さすがママさん。さて、やっぱりこの店では・・・「刺身三品盛り(800円)をお願いします。」と注文する。「刺し盛りね。」・・・前回、金目の刺身とまぐろの刺身が大盛りでとても美味しかたのを覚えている。今回はカウンターのメニューを見ると、貝柱(500円)、白イカ(500円)、まぐろ(750円)とあるので、この三品なのだろう。楽しみだ。
味噌汁を飲み干した頃、刺身三品盛りが届く。白イカがとても美味しそうだ。太く大きく切ってある。その白イカを一口・・・歯応えバッチリ!・・・甘味が口の中に広がる。さすがに美味しいなあ。ホタテの貝柱も柔らかくて甘くていい。ビールを飲み干す。次は・・・「タンサン割り(420円)お願いします。」「はい!炭酸一発!」・・・絶対こんな人ではなかった。優しくてよく気のつくママさんだった・・・と思うのだが。・・・氷と焼酎が入ったグラスと瓶の炭酸が届く。炭酸を入れる余裕があまりないほど焼酎たっぷり。これは嬉しいぞ。
タンサン割りすなわち酎ハイを一口・・・濃い・・・疲れが取れていく・・・うめ〜。カウンターの二人が会計に立つ。「もう帰るの?」と小上がりのお客さんから声がかかる。「今日はもうフラフラ。川に入った日は、疲れが違うよ。」「釣り?」「うん、この時期は魚は持って帰れないんだけどね。」「お疲れ、また明日。」「明日?祝日で休みじゃない?」それを受けてママさんが「明日も元気出してやるよー!」と吠える。さらに「23日もやるよ。勤労感謝されてないからね。はははっ。」「ママちゃん、明日も来るからね。」「23日も来るんだよ。」「わかった。」・・・そもそもママちゃんって呼ばれてたっけ?
まぐろ刺しは上等の中トロ。大事に食べて、酎ハイを飲む。「すみません。ナカ(焼酎250円)ください。」身構える。・・・「はい」がくっ。一発じゃないのか。鍋いってみようかな。色々あるが、ここはやはり豆腐を味わうために・・・「あと、湯豆腐(500円)ください。」「コンロ、セットするねー。」・・・小上がりの1人客が会計で席を立つ。この前、ブーランジェリースドウに行ってきたよ。やっぱり朝から並んでた。」「スドウに行ったの?あそこ食パンが予約1ヶ月待ちなんだって?」「うまいよね。」・・・おお、地元の話題が来たー。
コンロがセットされ、鍋が乗せられる。豆腐にたっぷりのキノコと白菜。素晴らしい!お店の女性がコンロに火をつけてくれる。会計で立っていたお客さんがまだ話を続けている。「豪徳寺に美味しい焼き芋屋があるよね。」「どこらへんにあるの?」「チンチン電車で山下まで行って豪徳寺の四叉路のところを上がっていって銭湯の隣あたり。」「ああ、あるね。あそこ美味しいけど高いんじゃない?」「焼き芋って高いもんだよ。昔、キャバレーに行って女の子たちが食べたいって言うから、ちょうど出ていた屋台で買ったらもう高い高い。一個500円どころじゃなかったもん。」「銭湯かー。松陰神社のところにもあったよね。」「あった、あった。軍手はめたジジイがいて、出たらババアに変わってるんだよ。」・・・よくわからないが、みんな楽しそうで、話は尽きない。
鍋が煮えた時点で、ナカおかわり。豆腐を一口・・・熱っ!でも、おいひい、ハフハフ・・・ポン酢ベースのタレがまたいい。ゆずの香りが効いてる。酎ハイ、酎ハイ。気がつくと、客は小上がりの年配ご夫婦と自分だけになっている。閉店時刻の午後9時が近づいてる。慌ててまたナカを注文する。結局、炭酸1本で酎ハイを3杯作ってしまった。鍋もモリモリ食べる。あと少しで終わりという時、ご夫婦が席を立つ。自分一人になる。鍋を空にして、酎ハイを飲み終える。暖簾が仕舞われる。さて、今日はここまで・・・とはならず・・:。
ママさんが激辛のあられを出してくれる。その上、日本酒の一升瓶を持ってきてグラスに注いでくれる。「イケメンのお兄さん。飲んで。」・・・イケメンでも、お兄さんでもないが、こう言われると嬉しいもの。ありがたくいただく。ママさんが隣の席に座り、グラスに日本酒を注いで飲み始める。「イケメンのお兄さん、今日初めて来た?」「いや、17年ぶりくらいです。初めて金目の刺身を食べたのがこの店です。それと豆乳割りもいただきました。」「17年前、何歳にだった?」「〇〇くらいです。」「へー、そうか。私、もう80を超えちゃったよ。」「なんですって。全然見えません。若すぎでしょう。」「ありがとう。もっと飲んで。辛いのもあげるね。」「それにしても、前回と全く印象が違うんですが。」「主人が亡くなってからね。こうなった。強くならなきゃいけないから。」「なるほど。」・・・「さあ、イケメンのお兄さん、もっと飲めるでしょ。」「もちろん。」・・・この辺りから記憶がない。店をどう出たかもわからない。世田谷線に乗った記憶も、バスに乗った記憶もない。その状態で、渋谷駅で乗り換えられるとも思えない。とにかく、次の記憶は上石神井駅で、その次の記憶は自宅で目覚めた時なのだ。
東京都世田谷区世田谷3丁目1−26
03-3420-5051
Posted by hisashi721 at 17:00│
Comments(6)
有休の月曜、藤の家に行ってみよう!と寄り道blogを読んでシミュレーションしつつ訪れたところ、残念ながらシャッターが降りていてお休みの模様。気を取り直してもう一つの宿題店のこちらに伺いました。
扉を開けると諸先輩方が小上がりでカウンターへ向けて足を伸ばして並んでおられ、すわ健康ランド!?とインパクト大。
カウンターに座って焼酎満タンの黒ホッピーと刺身3点盛でスタートして、本当にお若く見えるママちゃんや隣席の先輩と楽しく話をしながら杯を重ね、小1時間楽しい時間を過ごしました。
おおよそ世間の世田谷区イメージとはかけ離れたお店ですが、自分の祖父の時代までは畑しかなかった村々です。きっとその頃はこのお店あたりが中心地だったのかも…
このエントリがきっかけで、ずっと前から行こうとしていたお店に行くことができました。ありがとうございます。
その後に池袋で観たタイタニック、前半の記憶がありません。観たことのある映画で良かった笑