2022年11月13日

月日の流れに・・・大久保「大しま」

IMG_20221113_151435今日(12日)、職場を出たのが午後5時過ぎ。気温は例年に比べて暖かいということで、コートはまだいらない。土曜日は下町に行こうと思いながら過ごしてきた1週間だったが、今日はなんだか疲れたなあと思う。早く帰ったほうがいいかな。こんな時は何か体に染みとおるようなものが食べたいなとも思う。何がいいかなあ。

 

 

そこで思い出したのが、「鱈豆腐」。記憶を辿る・・・どこだっけ・・・あれは・・・そうだ。大久保の「瀧元」という店だった。カウンターに座って・・・そう、血行が良くなるとか、胃腸が整うとか書いてあった。何より利尻昆布にこだわった汁が最高だった。あれ、美味しかったなあ。でも、そういう料理を欲するということは、やっぱり疲れているということかなあ。

 

大久保なら新宿の隣。山手線を新宿で降りて、総武線各駅停車に乗り替える。すぐに大久保駅到着。新宿側の改札を出て右に。通りに出たらさらに右に。二つ目の道を左に歩く。このブログを検索したら2010130日の記事だった。ここも12年ぶり以上になる。でも、道順は覚えてるもんだなあ。なんとなく見覚えのある看板や、会社がある。少し歩くと、「くろがね」という井伏鱒二が通っていたという店があった場所。懐かしいぞ。

 

IMG_20221112_181432その「くろがね」のあった場所の斜め向かいが「瀧元」なのだが・・・あれ、閉まってる。確か日祝休じゃなかったかなあ・・・ああ、土曜日は昼営業だけか。ランチの定食をやってるんだな。ここ魚料理最高だから、美味しいだろうなあ・・・。残念だが仕方ないな。小滝橋通りはすぐ。ここから新宿まで歩くか、大久保駅に戻るか・・・。春山病院の前の道を大久保駅に向かって歩き始める。


途中、いろいろな店があって楽しい。かけ蕎麦260円の激安蕎麦屋の「長寿庵」。今日は定休日。生姜焼き食べ放題の「笑姜や」・・・その隣が、常に行列の出来ている牛すじカレーの「小さなカレー家」。お昼だけの営業だから、もう閉まってる。そして、立ち飲みバー「ぽかぽこ」。懐かしいが、ここも閉まってる。そして、駅が近づいてくると、「味の大しま」という看板が光っている。・・・ここ、入ったことあるよなあ。ブログを検索すると2005717日の記事があった。そうか、寡黙なマスターがいた店だ。どうしようかな。今日入らないと一生この店とは縁がないような気がする。入ってみようという気になる。よし、ドア、えいよっと!

 

ドアを開けて中に入る。右手にテーブルが奥に向かって4つ。左手がカウンター。奥に向かって8席くらい。先客はドアすぐのテーブルに二人客のみ。大きなキャリーケースを横に置いて話に夢中という感じ。場所柄、外国人の観光客かとも思ったが、「あの時落合が、天才バッターと認めていたのは・・・」という日本語が聞こえてくる。それにしても、マスターは?いらっしゃいませとも何とも、何もない。あれっ? いないのかなー。カウンターに沿って奥に入っていくと、カウンターの中で作業中のマスターがいた。奥から3つ目の席がマスターの目の前。そこに立って、「こんばんは」と声をかける。ん?「こんばんは」・・・何か気配を察したようにマスターが顔を上げて自分を見る。「ここ、いいですか?」・・・「ああ、どうぞ。」

 

カウンターを回って、マスターがおしぼりを持って来てくれる。「何か?」「サッポロラガービール(大550円)をください。」と注文する。「えっ?」「サッポロラガー。」「何?生?」ラガーに生はないだろ。「いや、サッポロラガー。あれ」と冷蔵庫の中の赤星ラベルを指差す。「ビンね。」・・・ふい〜。椅子は四角くて回る壁に貼られたメニューを見ようと体を捻ると椅子の角が出っ張る。それに気づかないでいると、テーブルの客に料理を届けようと後ろを通るマスターに注意される「椅子、まっすぐに座ってくんない。」・・・超ぶっきらぼうな言い方!「すみません。」と椅子をまっすぐにする。この椅子を置いているのは店の責任だろ・・・傷つく。

 

IMG_20221112_182703サッポロラガービールが届く。気を取り直して、一口・・・んめ〜。明日休みだと思うと、余計美味しい。やっぱりサッポロラガー、最高!ん、メニューを見ると、エビス生(中)400円とある。・・・こっちでもよかったかな・・・「お通し(450円)ね。」とマスターがカウンター越しに皿を渡してくれる。マカロニサラダ、カリフラワー、りんごだな。美味しそうだ。マカロニサラダを一口・・・いい感じ。
 

 

さて、今日は何を食べようかな。お刺身や揚げ物、珍味などメニューは多い。この前は焼き鳥を食べたんだよな。じゃあ、「すみません。鳥ももステーキ(650円)をお願いします。」と注文。マスターがこっちを不思議そうに見る。通じなかったか。「鳥、もも、・・・」「ああ、鳥ももね。」「はい。」・・・それから、もう一品。「あと、たこ頭ブツ(500円)。」「ん。」「たこ頭ブツ!」「・・・」「え〜と、たこ頭!」「ん?」・・・このメニュー存在しないのかな?メニューを確認する。ある!「た・こ・あ・た・ま」マスターが不思議そうな顔でこちらを見る。外国で言葉が通じない時のような途方に暮れた気分になる。「たこ!」「ああ、たこね。」・・・シンプルに言えばよかったのね。それにしても、大声で「たこ頭」を連発してしまった・・・。

 

IMG_20221112_185719焼き上がった「鳥ももステーキ」が届く。大きいな。タレがかかってる。焼き鳥のタレかな。では、一口・・・わー、タレがしつこくなくて美味しいなー。鳥肉もジューシーでいい。んめー。ビール、ビール。奥に大きなテレビがあって、どこかの島の自然特集みたいな番組をやっている。誰も見ていない。もったいない気がする。この前はカブトムシの番組をやってたんだな。しみじみとする。あの時のマスターは寡黙だったけど、親しみが持てたんだけどな。
 

 

「たこです。」とマスターがカウンター越しに届けてくれる。「ありがとうございます。」と受け取る。マスターが下を向いたまま呟くように言う「何回も言わせちゃって、ごめんね。耳が悪いもんで。」・・・ああ、そうだったか。「全然大丈夫です!」とできる限り大きな声で答える。マスターが恥ずかしそうに微笑む。

 

IMG_20221112_183801たこは皮のところのトロッとした感じと、身の部分のサクッとした感じが両方味わえてとても美味しい。これまで食べた「たこ頭」の中で最も美味しいと言える。とはいえ、そんなに「たこ頭」を食べたことはないのだが・・・。では、「マスター!」「ん。」と言う感じでマスターがこちらを向くのを待って、ゆっくりと「酎・ハイ、酎ハイ(400円)ください。」と言う。マスターがにっこり笑って頷く。「ちょっと待っててね。」
 

 

IMG_20221113_150803酎ハイはとても丁寧にカップで測りながら作られる。焼酎だけでなく炭酸もきっちりと測っている。カットされたレモンはとても厚切り。「どうぞ。」「どうも」・・・一口・・・好みの濃い目。レモンの香りがとても効いている。美味しい! テーブルの客が苦労しながら「〆張鶴」を注文している。マスターが一生懸命聞き取ろうとしているのがわかる。3回目で通じてホッとする。マスター、孤軍奮闘だな。まさしく闘っている。この店を守るために・・・。
 

 

IMG_20221112_182718酎ハイをお代わり。空になったグラスを持ち上げると、頷いて、新しい酎ハイを作ってくれる。店を見渡すとやはり月日の流れを感じる。壁に貼られたメニューも古びてきている。いろいろなものが、そのまま年を経て今ここにある。マスター、今日ここに来てよかったです。できることなら、あの時、テレビでカブトムシの番組二人で見ましたよね。納豆の狐揚げ食べたんですよ、まだメニューにありますね。などと話しかけたい。でも、マスターはカウンターに下げられたビニールシートの向こう。そしてそれを聞き取るのは難しいのかもしれない。

 

酎ハイ2杯飲み終えて、今日はここまで。席を立つ。「ご馳走様です。」「ありがとうね。また来てね。」「はい。」大きく頷く。マスターが微笑む。・・・外に出る。駅はすぐそば。本当はゆっくり歩いて、いろいろ考えたいことがあるような気がする。電車が通り過ぎる音がする。温かい気持ちで満たされている。マスター、こちらこそ「ありがとね。」心の中で呟いてみる。

 

東京都新宿区百人町1丁目23

03-3371-3789


Posted by hisashi721 at 15:29│Comments(0)