2023年01月19日

街を歩けば・・・神保町「兵六」

IMG_20230119_110838今日は早めに仕事を切り上げ、午後530分ごろ職場を出た。東急東横線経由で渋谷へ。ここから半蔵門線に乗り換えるのはもう幾度目だろうか。ホームに着くと、ちょうど「押上」行きの各駅停車が発車したところ。電光表示をみると3分後に同じ電車が来るとのこと。自分の後ろにも人がすぐに並び始める。利用客の多さを実感する。

 

さて、今日早めに仕事を切り上げたのにはちょっとした理由がある。それは今朝のこと。自分の朝は早くて、午前6時前にはもう高田馬場駅にいる。しかし、今朝は自分の乗った西武新宿線の電車が高田馬場駅に近付いた時、山手線の内回り電車の運転を取りやめているという車内放送が入った。えー、なんですとー。困ったなあ。

 

JR目黒駅を目指しているのだが、どうしたものか・・・。外回り電車は動いているので、反対側からぐるっと回るか、駒込まで行って地下鉄南北線に乗るか・・・。そこで閃いたのが西武新宿駅まで行って、JR新宿駅まで歩き、湘南新宿ラインに乗って大崎まで行って、外回りで戻ってくるという作戦。我ながら見事。

 

JR新宿駅、1番線ホーム。ものすごい人・・・こんな大混雑では電車にたどり着けないなあ。途方に暮れる。構内放送はしきりに湘南新宿ラインを勧めているので、人がどんどんこちらに移動してくる。このままでは身動きが取れなくなるぞ。脱出しよう。時刻は630分。どうする。そこに、山手線運転再開の放送が入る。よかったー。ホームに急ぐ。ホームは意外にも人が少ない。ん?そこにまた放送。「順次運転を再開する予定ですが、運転間隔が空いているため、当駅には当分電車は参りません。」はー。


しかし、それを知らない人たちが、運転再開を信じて、逆にこちらに移動してくる。じゃあ、ということでまた1番線に戻る。すると案の定人が減っていて、これなら大丈夫と安堵する。しばらく待って648分の湘南新宿ライン「新木場」行き電車が入ってくる。うれしー。ところが意外に新宿で降りる人が少なく、また新宿駅から乗る人が後ろから次から次へと乗り込んで来て、車内はぎゅうぎゅう詰めになる。ぐるじー。自分の前にはインド系と思われる方。その人の背中に自分はくっついている。そこで気づいたのだが、カレーの香りがする。お店をやっている方なのだろうか。大崎までその香りを嗅ぎながら11分。圧迫感に苦しみながら、頭の中に繰り返し出てきた言葉は・・・カレーといえば神保町。カレーといえば神保町。

 

やっと解放されて、目黒駅に到着した時には、もう今日は絶対神保町に寄り道しようと決意を固めていた。別にカレーが食べたいわけではないので、神保町の居酒屋といえば・・・そう「兵六」でしょう。楽しみ、楽しみ。・・・というわけで今、半蔵門線に揺られているわけなのだった。

 

IMG_20230118_192130神保町駅に到着。A7出口から「すずらん通り」はすぐ。少し歩くと「兵六」の大きな提灯が見えてくる。よしよし。店の前に立つ。店の中の人影が見える。満席でありませんように。心の中で祈りながらドアを開ける。正面に立派なコの次カウンター。コの字の下棒に4人の常連客、縦棒に1人客が一つの席を開けて座っている。上棒の一番奥に1人客。2つあるドアの右手のテーブルは両方とも2人客がいる。カウンターの中にいる3代目マスターの柴山さんが「いらっしゃいませ。」とにこやかに、本当ににこやかに迎えてくれる。カウンター上棒の空き空間を掌で示して、「こちらでお願いします。」といい声で案内してくれる。

 

カウンター席には椅子はなくて、2本の丸太が渡してある。奥のお客さんに会釈して、少し間隔をとって座る。入口左の棚に荷物を置くべきだったが、面倒くさいので足元に置きその上にコートを畳んで乗せる。そのタイミングで顔を上げるとマスターと目が合う。「ビール(910円)」をお願いします。」と注文する。「ありがとうございまぁす。」そして振り向いて、注文を奥の厨房に伝える。その声が素晴らしくいい。聴いていて気持ちよくなる音質と声の適度な大きさとリズム。

 

IMG_20230118_181658ビールとお通しが届く。ビールはキリンのラガービールの大瓶。グラスに注いで、一口・・・いやー、至福。この雰囲気の中で飲むキリンビールは格別。店の雰囲気って大切だなあ。お通しはピリ辛のクラゲの和物。そこそこ辛いのでビールが進む。・・・右隣のお客さんはマスターと「魯迅」の話をしている。初代マスター平山さんの知り合いだったそうで、店の壁上に写真の額が飾られている。

 

向かいの常連客4人のうち3人は70代くらいと思われる。1970年代の頃の話。それを少し若い世代のもう1人がしきりに感心しながら聴いている。1人客はどちらの方も雰囲気を味わいながら飲んでいる。飲んでいるのは大体皆さん「さつま無双」のお湯割り。徳利から盃に焼酎を注ぎ、小さな薬缶に入った白湯を混ぜて飲むスタイル。ここで何かつまみを・・・「すみません。ぬた(630円)をお願いします。と注文する。また注文を厨房に通すいい声が響く。

 

IMG_20230118_182243「ぬた」が届く。わけぎとしめ鯖が和えてある。一口・・・うーん、程よい酸味と甘味の融合・・・わけぎはシャキシャキ感がしっかり残っている・・・それがまたしめ鯖とよく合う。美味しいなあ。老舗の料理はこういうところがいい。「すみません。さつま無双(芋焼酎800円)をお願いします。」「ありがとうございまぁす。」そして厨房に向かって「白湯を一つお願いしまぁす。」いい感じ。
 

IMG_20230118_183624さつま無双が届く。徳利と白湯と大ぶりの盃。早速、盃に焼酎を注ぎ、そこに白湯を少し入れて一口・・・ほわ〜、いい温度。焼酎も温めてあるし、白湯も絶妙な温度で提供される。飲み易い。芋焼酎の甘味が程よく薄められて、本当に美味しい。お客さんたちがみんなこれを飲んでいるのもわかる。

 

右隣のお客さんは、「これまで会った人の中で一番すごい人は?」という話題。マスターが「そうですねぇ、誰かなあ。〇〇さんはどなたなんですか?」と尋ねる。「ジョン・レノン。」「それはずごい。どちらでお会いになったんですか。」「軽井沢の万平ホテルのテラス。偶然だったけどね。」へぇー。

 

では、料理を追加しようかな。「すみません。兵六あげ(520円)をお願いします。」と注文する。焼酎は白湯で割って飲むからでもあるが、なかなか無くならない。少しずつ気持ちのいい酔いがゆっくり身体中に回っていくのがわかる。左斜め前の1人客のおじさんは「さつま汁」を美味しそうに召し上がっておられる。具沢山だし、熱々みたいで暖まりそう。そういえば、店内は暖房が控えめ。これくらいの方がお湯割りを楽しめるというもの。

 

IMG_20230118_185427「兵六あげ」が届く。油揚げが3枚。それぞれ、チーズ、納豆、ネギが入っている。では、一口・・・中身はネギ・・・香ばしい食感と甘味のあるタレがいい。美味しいなー。これは焼酎に合うよなー。じゃあ、焼酎のおかわりするかなあ。焼酎は芋焼酎の他には麦焼酎と球磨焼酎。だいぶん暖まったきたので、ここはきゅっと冷たいやつで。「すみません。球磨焼酎の峰の露(800円)をお願いします。」

 

IMG_20230118_190112球磨焼酎は冷凍後でキンキンに冷やされて供される。もちろん飲み方はストレート。なみなみとコップに注がれ、受け皿からもこぼれるほど。では、一口・・・くぅ〜、よく冷えてとろとろ・・・スッキリしているが、さすがに効くなあ・・・でも、美味しい!球磨焼酎、久しぶりだなあ。思い出もあるし・・・。

 

店内では神保町のレトロ喫茶店が、近頃若い人に人気があるという話題に移っている。右隣のお客さんが「ちょっとコーヒー飲んで行こうと思ってラドリオに行ったら、行列だよ。びっくりした。」こうなると向かいの70代の人たちも反応する。「さぼうるも並んでたよ。」「最近は若い人の間で昭和レトロが流行ってますからねぇ。」・・・ラドリオといえばウインナコーヒー、さぼうるといえばナポリタンかな。

 

球磨焼酎の酔いがガツンと回り始めるのを感じる。もっとこの空間を楽しみたいが今日はこの辺で。最後の一口を飲み干して、席を立つ。「ごちそうさまでした。」「ありがとうございまぁす。」相変わらずいい声で応えてくれる。勘定を済ませて、壁上の魯迅の写真や初代亭主の写真を見ながらコートを着る。

 

外に出る。魯迅といえば、中学の時の教科書に載っていた「故郷」という小説を思い出す。最後の一節を中学生ながら感動して暗記したものだ。・・・「もともと地上には道はない。歩く人が多くなれば、それが道になるのだ。」・・・若い世代に託した魯迅の祈り。そういえば、3代目のマスターを写真の中の魯迅が優しく励ましているようだった。・・・古書店とカレーと喫茶店の街を歩く幸せを噛み締める。

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東京都千代田区神田神保町1丁目32

TELなし


Posted by hisashi721 at 12:57│Comments(0)