2023年01月26日

チャンピオンの笑い・・・目黒「友」

IMG_20230125_205531目黒通り、午後720分。寒い、寒すぎる。風が顔に当たると痛いほど。寒波襲来ということで覚悟はしていたものの、やはり耐え難い寒さだ。いつ来るかもわからないバスを待つのは辛いよなあ。そんな自分の気持ちを見透かすかのように、ゆっくりとタクシーが一台近づいてくる。運転手さんと目があう。頷くと、ドアが開く。「ご乗車ありがとうございます。」「目黒駅西口までお願いします。」・・・ふぅ〜。

 

車窓を流れる目黒通りの風景を眺めながら思う。・・・今日は疲れたし、早く帰ってゆっくり温かいものでも食べよう。寄り道はやめとくかな。・・・。本当にそう思ったのだが、そういえば、と思い出してしまう。タクシーで目黒といえば、似たような夜があったよな。そうだ、目黒駅周辺で彷徨うことになったあの夜。最初のあの店。満席で入れなかったあの光景が蘇る。今日は極寒。お客さんも少ないのでは。行くなら今夜じゃないか。元気が出てくる。しかし、もう一人の自分は「もう帰ろうよー」と言っている。

 

IMG_20230125_205433目黒駅到着。「お忘れ物にお気をつけください。」という運転手さんに、「大丈夫です。ありがとうごさいます。」と答えて、そそくさとタクシーを降りる。横断歩道を渡るとすぐにクリーニング屋の2階にある居酒屋「友」の看板が見える。あの時一度ドアを開けるところまで行っているので、後はスムーズ。ビルの右側に回り込んで、階段を登る。寒いので急ぐ。階段の途中で、店の方向から複数の笑い声が聞こえる。なんだかお客さんがたくさんいる感じじゃないか。嫌な予感が頭をよぎる。でも、もう勢いがついている。目の前にあのスナックのようなドアが近づく。取っ手を握ってドアを開ける。

いきなりドアの近くにスーツ姿の人が立っていたのでびっくりする。ドアの左手にある冷蔵庫の中の日本酒の銘柄を確認している。その人が「あっ、ごめんなさい。いらっしゃいませ。」と言う。でも、マスターとママさんはカウンターの中。誰?カウンターの奥の席に座っている女性客が「迷惑だから、早く。」と促すと、「すみません。」と言ってカウンター席に帰って行く。お客さんだったか。店はカウンター席が7席くらい。奥にちょと広めの小上がり座敷があって、そこはテーブルがいくつか並んでいる。客は、カウンター奥にさっきのカップル。2席開けて、男性1人客。小上がり座敷にはお客さんはいない。「一人です」と告げると、「空いている席にどうぞ。」とママさんが答えてくれる。

 

カップルの隣を避けて、入り口側一番手前の席を選ぶ。コートを脱ぎ、荷物置き場になっているらしい後ろの壁際の台に置こうかなと思ったが、次のお客さんが来るまでと、隣の空席に鞄と一緒に置く。その動作の間壁のドリンクメニューをチェックする。日本酒の銘柄がずらりと並んでいる。生ビールの文字が見当たらないが、サーバーがあるので、ママさんに「生ビール(800円?)をお願いします。」と注文する。座るとすぐにマスターが割り箸とおしぼりを出してくれる。おしぼりは暖かい。これはいい店だと思う。

 

IMG_20230125_193926生ビールが届く。そのタイミングでマスターが「お通し(500円?)が出ます。」と小皿を二つ、カウンタ越しに渡してくれる。受け取ってカウンターの上に置くと、すぐに「4品出ます。」と残りの小皿二つを渡してくれる。これはこれは。4つの小皿を前に、これだけでおつまみは十分じゃないかと思う。とりあえず、生ビールだ。へー、細かいふわっとした泡だなあ・・・一口・・・おお、これは・・・味が違う。どこの銘柄のビールだろう。よく、地ビール飲み比べみたいな時に出てくるビールの味。うんめー。

 

では、お通しを。これは・・・「炙りしめ鯖」かな、それでこれが「ブロッコリーのおひたし」・・・で、「玉蒟蒻と牛蒡の煮付け」、4つ目は「焼き肉と野菜の和物」みたいな美味しそうなやつ。では、炙りしめ鯖から・・・山葵を少しつけて一口・・・ほー、味わい深い・・・炙ってあるので香ばしさも加わっている。美味しい!ビール、ビール。

 

右隣の1人客はマスターとずっと話をしている。声も大きめだし、よく笑う。さっきの笑い声はこの方だったかと思い当たる。さらに奥のカップルはママさんとずっと喋っている。そしてこちらもよく笑う。複数の笑い声が聞こえたのはこのためか。とにかく自分の他のお客さんは3人だけだが、満席のように賑やか。そして楽しそう。この店の常連になったら、毎日通いたくなるだろうなと思う。

 

というわけで、自分だけ手持ち無沙汰なので、店内を観察してみる。ホワイトボードや壁の短冊や、高いところに垂らされた大きめの紙に書かれたメニューを見るとありとあらゆる種類がある。鳥料理がメインと思いきや、刺身も充実。さらに焼き魚や焼き肉、ソーセージ料理も何種類かあり、洋風つまみ、焼きナスや卵焼きなどのちょっとしたものも種類が多い。店内は明るく、それに清潔感も保たれている。地元の憩いの場というところか。良い店である。

 

IMG_20230125_202720日本酒の銘柄も50種類くらいある。じゃあ、日本酒行くかな。パッと見た感じで「〆張鶴」にしようかと思ったが・・・ん、おお「鍋島」があるじゃないか。これこれ。「すみません。日本酒の注文いいですか?」「どうぞ。」「鍋島(800円)をお願いします。」・・・マスターがカウンターから出てきて、自分の背後にある冷蔵庫を開け、一升瓶を取り出す。受け皿の上のグラスになみなみと注いで、「どうぞ」と自分の前に置き、カウンターの中に去る。受け皿からも溢れそうなほど。では、一口・・・コクが凄い。さすがの味わい。スッキリとした甘みが口いっぱいに広がり、香りも素晴らしい。純米吟醸生酒と思われる。唯一無二の酒と称されるだけのことはある。美味しい!

 

BGMで流れているのは、宮本浩次が女性ボーカルの曲をカバーしたアルバム。非常に心地よい。「赤いスイトピー」とか口ずさんでしまいそうだ。「異邦人」が流れ始めると、奥のカップルの女性が「未亡人?どういう歌?」「違うよ異邦人!」「いほうじんって何?」・・・で大笑い。いい感じ。鍋島が残り少なくなった頃、マスターが「サービスの一の蔵です。」とグラスを渡してくれる。やったー。「ありがとうございます。」本当にいい感じ。

 

では、せっかくだから日本酒をもう一銘柄。「すみません。七田(800円)お願いします。」と注文する。壁のメニューには見当たらなかったのだが、「鍋島」を注文した時、隣のお客さんが間髪を入れず「七田を。」と注文した。同じ佐賀の酒を被せてくるとは・・・。日本酒に詳しいお客さんだなと思う。この店に通っていれば、そうなれるかも。とにかく七田が置いてあることが確認できた。

 

IMG_20230125_203226七田は奥さんが注いでくれる。さて、一口・・・わー、これも凄いや。よく「キレイな酒ですね。」という人がいるが、まさにこれ!香りもいいし、いい酒だなあ。純米酒七割五分磨き山田錦と思われる。こってりした料理に合うとは思うが、なんとなくさっぱりしたものを食べたくなって「しらすおろし(400円)」を注文する。「しらすおろし」とつまみに「七田」をゆっくり飲む。まさに至福の時間。時間よ止まれ!

 

マスターと隣のお客さんが熱中して話しているのは、どうやらキックボクシングの話題らしい。「カツジがね・・・。」という言葉が聞こえたから分かった。名門目黒藤本ジム所属の世界チャンピオン、勝次選手の話だ。藤本ジムは閉鎖されてしまったが、この店から遠くない。目黒雅叙園の近くにあったと思う。地元の誇りだ。チケットをとって、2人で応援に行くらしい。

 

さて、今日はこの辺で。「ごちそうさまです。」「ありがとうごさいます。3300円です。」会計を済ませて、マスターに話しかける。「キックボクシングお好きなんですか?」「ええ、この店にもチャンピオンが来ますよ。ぜひまたどうぞ。」「へー。会ってみたいですね。」・・・ドアを開けて、階段を降り、外に出る。寒さが襲ってくる。

 

駅はすぐそこ。横断歩道の信号が青に変わる。強い風がいきなり吹き付ける。目黒の街が育てた世界チャンピオンか・・・本当に会ってみたい。チャンピオンもあの店で大きな声で笑うのだろうか。

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東京都品川区上大崎2丁目1814

03-3779-1500


Posted by hisashi721 at 13:31│Comments(0)