土曜日(28日)、午後4時40分。職場を出て、自由になる。目黒通りでバスに乗り、目黒駅まで行く。これからどこかに寄り道するつもりだが、明確にどこに行くとは決まっていない。山手線には乗らず、地下鉄のホームへ向かう。ちょうど都営三田線「西高島平」行き各駅停車が入線してきたところ。あまり使ったことがない電車だが、ここは迷わず乗り込む。
車内は程よく空いていて、座席に座ることができた。向かいの席に買い物帰りらしい女性が座っていて、大きなレジ袋から長ネギがのぞいている。それがとても絵になっている。いい感じだ。さて、どこに行こうかな。車内のディスプレイが三田線の路線を表示している。それを眺めているうちに、そうだ日比谷まで行って、有楽町線に乗り換えよう、という気になる。
日比谷駅到着。改札を出ると通路を挟んで、すぐに有楽町線の「有楽町」駅の改札がある。こちらの改札を入り、ホームへ。左のホームに「石神井公園」行きの電車が停車している。西武鉄道の車両だ。西武線沿線に住む身としては、異郷でたまたま同郷の人に出会ったようで嬉しくなる。その電車が出発するのと入れ違いに、反対側のホームに「新木場」行き各駅停車が入線してくる。これも西武鉄道の電車だ。いい気持ちで乗り込む。
「銀座1丁目」「新富町」と駅を通過し、電車は今日の目的地である「月島」に到着。何年振りだ?駅の記憶は全くない。表示に従って、エスカレーターや階段をたくさん登り、通路に出て7番出口に向かう。最後の長い階段を上っている時、前と後ろの人たちが全てカップルであることに気づく。前に5組、後ろに3組。そういう街なんだなと思う。地上で出れば目の前はまっすぐで広い大通り。左右にずっと先まで「もんじゃ焼き屋」が続いている。大勢の人が歩いている。その人たちの多くがカップル。どこからかソースの匂いが漂ってくる。
もちろん、自分はもんじゃ焼きを食べにきたのではない。何より、この雰囲気の中、1人でもんじゃ焼き屋に入りたくはない。ソースの香りの混じる夜の空気の中をひたすら前に進む。途中、甘い香りが漂ってきて、なんだろうと思うと、メロンパンの店だった。行列ができている。少し興味をそそられるが、さらに進む。駅から7分くらい歩いたと思う頃、紺色の立派な暖簾が見えてくる。「岸田屋」だ。久しぶりに来たよー。変わらぬ佇まいに感動する。
入店待ちの行列がなかったので暖簾をかき分けて、ガラス越しに店内を見る。実はこの店に向かうと決めてから、ずっと満席なのではないかと危惧していたのだ。前回のブログ(2005年)にも書いていたが、岸田屋は「京都」より遠い、という言葉が自分の意識に刻み込まれているらしい。店内はコの字型のカウンターと壁沿いのサブカウンター。全ての席が埋まっている・・・と思いきや、コの字の縦棒、それがすなわち入り口の前の席なのだが、空いている。すぐに引き戸を開ける。引き戸は想像よりも軽い。
左の5席、右の6席、サブカウンターの5席に人が肩を擦り合わせるように座っている。コの字の縦棒は3席とも空席。あまりにも狭いので真ん中の席に座らないと左右のカウンター席の人とくっついてしまう。すると奥から女性店員さんが出て来る。左右の手に体温計と消毒用のスプレーを持っている。額を差し出すと体温を測ってくれて、大丈夫だということになり、スプレーを手に吹きかけてくれる。「お飲み物は?」「生ビール(700円)をお願いします。」
引き戸が背中にあるのでちょっと寒い。そこでコートを膝掛けにして、鞄を足元に置く。生ビールが届く。「ご注文は?」「煮込み(600円)をとりあえず。ネギはつけなくていいです。」壁のメニューをチェックする時間がなかったので、店の看板の「牛煮込み」をまず注文する。では、生ビールを一口・・・ああ、美味い!今日は少しいいことがあったので、尚更だ。お疲れ様、自分。
店の形態は少し違うが、秋に行った東向島の「岩金」に雰囲気が似ているような気もする。店員さんがすべて女性だという共通点がそう感じさせるのだろうか。そういえば、以前と店の雰囲気が少し違うような気がする。お客さんに地元の常連さんらしき人が見当たらない。みなさん、店の中の写真を撮っていたり、関西弁が聞こえてきたり、煮込みを頻りに称賛する会話が聞こえて来たり・・・。観光地化しているのかなあ。まあ、曜日や時間の関係もあるのだろうが。
「お兄さん、ネギなしの煮込みです。どうぞ。」さっきとは違うお姉さんが、皿を自分の前に置いてくれる。では、七味を多めにかけて、一口・・・これこれ、この味だった。ものすごく美味い。見た目は煮込んだシチューのようでもあり、明らかに他の店の煮込みとは違う料理。こってりとして、甘いわけでもなく、だからと言ってさっぱりとは勿論してなくて、本当に奥深い味。ビール、ビール。たまらん!
背後の戸が開く。冷たい空気が流れ込んでくる。さ、寒い・・・「2人、入れますか。」と若い男性が店員さんに声をかける。「お2人さん、ちょっとお待ちください。」店員さんに言われる前に、左にずれて右に2席開ける。3人はきついでしょう、とは思うが、みなさんそうなのだから当たり前。店員さんからも2人客からも「すみません。」と声をかけられる。2人が自分の右隣にはまり込む。「ご注文は?」「ハイボール2つ。あと牛煮込みと肉どうふください。」「煮込みはネギつけますか?」「はい。」・・・注文、予め決めてきたな。
その二人組は「この店、やばいよ。」「来てみてよかったよ。」などと頻りに感動している。左にはカウンターが直角に曲がっているとはいえ、くっつきそうなくらい近くに男性客がいる。連れの女性客が「三大煮込みといっても、『大はし』より美味しいかも。」「これは肉どうふ。大はしは煮込み豆腐で、種類が違ったろ。」「こっちの方が好きかも。」「まあ、酒飲みのつまみだな。」などという話。いろいろな店を回っているんだな。北千住の「大はし」・・・また行きたいな。などと思う。
右隣のお客さんに料理を届けに来たお姉さんに、「酎ハイ(500円)をお願いします。」と注文する。「お兄さん、酎ハイですね。」とにっこりしてくれる。ああ、さっきのお姉さんか。ここは、ついでに・・・「それから、ぬた(600円)もお願いします。」と注文する。「ぬたもね。お兄さん、ちょっと待っててね。」・・・いい気分になる。お兄さん攻撃、効果抜群!
「はい、お兄さん、酎ハイ。」「ありがとう。」・・・透明、レモン一切れ。では、一口・・・甘い。レモンサワーみたいな酎ハイだ。久しぶりに飲む味・・・美味しいなあ。最後の煮込みを一口・・・コリコリとした食感の部位だった。これも好み。それにしても、居心地がいい。お客さんはぎっしりだが、落ち着いた雰囲気が漂う。・・・スーツにネクタイはこの店でも自分1人。1人客は店全体で自分を含めて3人。カップル率はここでも高い。
「はい、お兄さん、ぬたよ。」「美味しそう。」・・・まぐろのブツと鳥貝、たこ、貝ひも、わけぎにわかめ・・・マグロを一口・・・んめ〜、この酢味噌。酸味も甘味もくどくなくて絶妙。色々な種類が入っているのもいい。左隣のカップルも「ぬた、いいね。」「ねえ、注文しましょ。」と話している。でしょ、でしょ。
奥の厨房にいる、さっきからずっと「お兄さん」と呼んでくれているお姉さんと目が合ったので、「酎ハイ、おかわり。」とからのグラスを持ち上げて注文すると、「はーい。」と答えてくれる。程なく酎ハイが届く。それを飲みながら、あとはのんびり飲むだけ。お客さんが何組か入れ替わる。一組出て行くと、すぐにテーブルが片付けられる。するとすぐに次のお客さんが入ってくる。さすが人気店だなー。
さて、今日はここまで。目の前の店員さんに「ごちそうさまでした。」と告げる。すぐに勘定を計算してくれる。「ありがとうございました。2900円です。」「じゃあ、3000円からで。」お釣りを受け取ってコートを着る。立ち上がって、「ごちそうさま。」と改めて奥の厨房に声をかける。「ありがとうございましたー。」と複数の声が送ってくれる。
外に出る。ふ〜、寒っ。人通りは相変わらずだ。あれ、5、6組の行列ができている。それで、すぐに入れ替わるようにお客さんが入って来てたのか、と納得する。駅に向かって歩き始める。1月も気づいてみれば、後少しだ。空には三日月・・・。
東京都中央区月島3丁目15−12
03-3531-19
Posted by hisashi721 at 13:50│
Comments(0)