山手線「目黒駅」、午後6時50分。外回り電車を待っている。頭上の電光案内板には到着まで約1分と表示されている。ここ数日神経を使う仕事が続いていたので、今夜は束の間でも頭を空っぽにしてホッとしたい。それにしても冷えるなあ〜。何か温かいものでも・・・ならば、あそこのあれだな。
というわけで電車に乗り、新宿まで。向かい側のホームに来た総武線「三鷹」行き各駅停車に乗り替える。一駅で「大久保」到着。新宿寄りの改札を出て右へ。通りに出たら、さらに右へ。しばらく歩いて左へ折れて、後は小滝橋通りに向かってまっすぐ歩くだけ。今日目指しているのは、小滝橋通りに出る手前の店「瀧元」だ。
幟が風にはためいている。紅白の提灯が7つ並んだ下に「ヤヱガキ酒蔵」と染め抜かれた暖簾。そして「大衆酒場瀧元」という大きな看板が輝いている。秋にこの店を目指したのだが、土曜日の夜は営業していないということで残念な思いをした。今日(3日)は金曜日。大丈夫だ。さて、カウンターの空席はどうだ?ドアを開ける。
入口から奥に向かってカウンター席が7席。さらに奥は座敷。座敷にはグループ客が何組かいるようだが、カウンター席は誰もいない。だが、一番手前の席には女性のものと思われるバッグが置いてある。ビールとつまみの小鉢も、ここに人がいますよと主張している。カウンターの中に男性2人、外に1人の、いずれも男性店員さんが同時に「いらっしゃいませ。」と自分を迎えてくれる。「1人です。」と告げて奥に向かう。一番奥の席に鞄を置いて、2番目の席に座ることにする。
カウンター外のホール係の男性(50代後半と思われる)がおしぼりを届けてくれる。「お飲み物はどうなさいますか?」「瓶ビール(670円)をお願いします。」と注文する。カウンターの中は70代と思われるマスターと、60代と思われる男性店員さんが調理をしている。瓶ビールが届く。ちょっと背が高くてスマートな「サッポロ黒ラベル」専用グラス。これは飲みやすそうだなと感じる。「お通しが出ますので、少々お待ちください。」・・・そうだ。美味しいお通しがまず出て来るんだった。前回の記憶が蘇ってくる。
カウンターの中から「お通し(700円)です。」という声がかかる。皿を受け取る。ほー、これは鮟肝だな。味噌のタレがかかっている。それから手羽先と大根の煮物。真ん中にイカの塩辛。全部美味しそう。では、ビールをグラスに注いで一口・・・んぐんぐ・・・とは〜・・・うめー。一気に身体が緩む。塩辛を一切れ・・・わー、これは旨味が濃くて美味しい。塩辛だけでビール1本飲めてしまいそうだ。
とはいえ、やはりここは鮟肝だな。一口・・・これまた濃厚・・・甘めの味噌ダレが意外とよく合う・・・酒のつまみとしては最高だ。というわけで、つまみはこれで十分だという感じだが、この店に来たからには注文しなくては帰れないメニューを。「すみません。たら豆腐(1200円)をお願いします。」「ありがとうございます。たら豆腐一つです。」とホール係の店員さんがカウンターの中に声をかける。
メニューの説明には、鱈と出汁に使う利尻昆布は最高級品だとある。そして鱈の身は低脂肪・高蛋白で胃腸を整え、血行を良くするとも。この季節、そして今の自分にピッタリ。前回来た時もちょうどこの季節だったな、と思い出す。ドアが開いて若い女性が入ってくる。入口すぐの席に座り、また飲み始める。お帰りなさい、などと言えるわけもないが、なんだかホッとする。
たら豆腐が届く。これこれ。豆腐と鱈の身にたっぷりのネギと鰹節がのって、それに薄琥珀色の出汁が張られている。素晴らしい!さて、早速、出汁をレンゲで掬って一口・・・即、美味さ爆発。んめ〜、最高級利尻昆布の威力だ。鱈、鱈・・・淡白ながら、脂感もしっかりあって、出汁としっかり合っている。美味いなー。これは、日本酒行こう。「すみません。燗酒(480円)お願いします。」「燗をつけますので、少々お待ちください。」・・・待てないよー。
大きな徳利に1合の酒を入れて、燗付け器に入れる。そして、温度を掌の感覚で慎重にはかりながら待つ。さすがプロ。予約のお客さんが続々と入って来る。奥の座敷は満席になったようだ。予約なしの2人組はカウンターに通される。店は一気に活気に満ちる。注文が次々に入り、厨房は大忙し。刺身や煮魚、唐揚げなど魚料理を中心にメニューも豊富。運ばれて行く料理は全て美味しいそうだ。それにボリュームもある。人気店である理由がわかる。
「お待たせしました。」自分の前に受け皿付きの大きな杯が置かれる。大徳利から燗酒が注がれる。皿までこぼれたところで、「どうぞ。」・・・では、一口・・・おお、やや熱めだがそれがまたいい・・・香りが口の中に広がり、鼻に抜けていく・・・美味しいなー。燗酒ってこんなに美味しかったっけ、という味。大きな杯で飲むから豪快に飲める。いいぞー。
奥から、家族連れのお客さんが出てくる。「お世話になりました。今日もおいしかったです。」と年配のご夫婦。「一度、みんなを連れて来たくて。」「ありがとうございます。」というやりとり。その方のお子さんと思われる中年夫婦が「感激しました。来てよかったです。」と店の人に話している。お孫さんと思われる20代の2人が「今度は自分たちだけでも来ますね。」と続く。いい感じ。
たら豆腐を満喫しながら、燗酒を飲んでいると、もう仕事のことなど一欠片も頭の中には残っていない。ゆったりと酔いらしきものが体を温めていく。もう一杯飲もうかなあ。このまま終わるのは勿体無い。「すみません。燗酒もう一杯お願いします。心持ち熱めにしてください。それから、お新香(350円)をお願いします。」と注文する。あとはのんびり飲むだけ。
「お新香」が届く。胡瓜と茄子と大根。申し分なし。胡瓜をまずポリポリ。塩味控えめで美味しい。しばらく待っていると燗酒が届く。一口・・・心持ち熱くという注文に完璧に応えてくれている。これを求めていたんだよと言葉にする代わりに、店員さんに向かって笑顔で頷く。店員さんもニッコリしてくれる。
ちょっとペースを落として、ゆっくりと飲み続ける。前回来たのが2010年の1月30日。ずいぶん時間が経ってしまったが、その時と店は全く変わっていない印象だ。古びたり、余計なものが置かれていたりということはない。お店の3人の男性はさすがにいくらか年をとった感があるが、若々しく、相変わらず楽しそうにお仕事をしていらっしゃる。そういえば、女性店員さんだけの店にも何軒か伺ったが、やっぱり雰囲気が違う。女性だけの店は優しく温かい感じが漂う。一方男性だけの店はさっぱりとしているというか、きびきびしているというか。でも両方いい感じ。ほんとに。
燗酒2杯飲み終えて、今日はここまで。「ご馳走様でした。」「ありがとうございます。3880円です。」・・・ここで、ちょっと手の空いた店員さん達と話したくなる。「前回来た時、ずっと以前なんですけど、隣のお客さんがハムカツが食べたいって言ったら、本当にすごいハムができてびっくりしたことを覚えてます。」3人が笑顔で自分の話を聞いてくれている。そして「そうでしたか。また色々お作りしますから、ぜひまたいらしてください。」「また来ますね。」
ドアを開ける。3人の声が同時に「ありがとうございました。」と送ってくれる。外に出る。夜風が冷たい。でも、本当に気持ちのいい酔いだ。駅に向かって歩き始める。電車の走る音が聞こえる。そういえば、今日は節分だったな・・・いい「福」に恵まれたようだ。
東京都新宿区百人町1丁目23−7
03-3371-3789
Posted by hisashi721 at 17:17│
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