2023年02月09日

雨の中を急いだ・・・越中島「川越屋」

IMG_20230208_195444曜日(8日)、午後725分。雨の中を歩いている。門前仲町の駅前のドラッグストアーで買ったばかりのビニール傘をさしながら。今歩いている方向が合っているかどうかもわからない。でも急いでいる。何といっても、向かっている店は、午後8時閉店なのだ。恐れているのは、「ああ、もうラストオーダー終わっちゃったんですよ。」などという言葉。いやいや、そう言われても、「すみません。ビール一杯でも結構ですから、お願いします」と言おう。架空の問答が頭の中で繰り広げられる。

 

そもそも、今日は門前仲町の「大坂屋」に行くつもりで職場を出た。牛煮込みの串が頭をよぎったら、もう行くしかないという気持ちになっていた。本当に久しぶりなので、覚えていてはくれないと思うが、ママさんにも挨拶したい。そんな気持ちで、渋谷から銀座線に乗り、「日本橋」で東西線に乗り換えた。駅に降りてくる人々の多くが傘を持っていたので、どうやら雨が降っているらしいと推測する。駅を出てみると案の定、雨。さほどの降りではないが、傘をさしたほうがいいかな。と言うわけで、ちょうど4番出口のすぐ横にあったドラッグストアに駆け込んだというわけだった。

 

大坂屋はそこから直ぐ。商店街を通り、右の横道に入る。あれ?店の辺りが暗い。灯りがついていない。店の前で確認すると、「本日はお休みです。」の木札。がびょ〜ん。大ショック。「10日(金)はお休みします。」の貼り紙もある。それはいいけど、今日ですよ、今日!定休日は日曜と月曜と確認して来たが・・・雨の中佇むこと約5分。仕方がない。ふと目を上げると、人気店「だるま」の赤い提灯。満席かなあ。とりあえず店の前まで行ってみる。ドアのガラス越しに店の中を見ると満席に見える。だが、詰めてもらうとか、隠れた席があるとか・・・一縷の望みをかけてドアを開ける。

 

店は大変な賑わい。入り口近くのカウンターの中のスラリとしたメガネのお姉さんが、こちらを見て、にっこり。・・・いけるのか?「ごめんなさい。今はいっぱいで!ごめんなさいね。」・・・ぐぐぐ。予想通りとはいえ、畳み掛けてくるこの展開。「わかりました。じゃあ、また。」と言ってドアを閉め、肩を落として駅に向かう。地下鉄の駅に降りようとした時、「←越中島駅」の道路標識が目に入る。「越中島?」・・・そういえば、気になる店があったよな。慌ててスマホで確認する。所要時間9分。ここだ!

 

・・・しかし、「もうすぐ閉店です」とあるのに気づく。時計を見ると午後7時20分。スマホのナビを見ながらそろそろと向かう時間はない。経路を5秒見つめて記憶する。意外と複雑な経路が表示されている。よし、何とかなる。あとは自分の勘で向かうだけ。急ごう!・・・というわけで雨の中を向かっているのは「川越屋」という店なのだ。


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この辺で左折、この川を越えてしばらくして右折・・・という感じで記憶を辿りながら進む。小さな事務所とか民家などが続く。店はほとんどないが、時折、ふっと灯りが見えると小さな和食屋さんが暖簾を下ろしていたりする。よく晴れた暖かい日に歩くと風情があるのかもしれない。しかし、今は暗い空から降ってくる冷たい風混じりの雨の中。傘をさす手が冷たくなっているのが分かる。もし、道を間違えていたら目も当てられない。少し大きな通りに出る。目印のファミリーマートが見える。間違ってなかったー。あとは時間。午後730分・・・。

 


IMG_20230209_072155店の前に着く。入り口左横に焼き鳥の焼き台に年配のマスターらしき人の姿。どこか遠くを見つめているようだったので、挨拶は諦めて、ドアを開ける。ん?駅前食堂・・・と思わせるような作り。古びた食堂にあるような薄緑のテーブルと緑のビニール張りの椅子。テーブル席のみ。4人がけが5つ。奥に2つ、真ん中にくっつけて8人がけにした2卓、入り口右の壁沿いに1つ。真ん中の8人がけに60代と思われる女性が2人。後のテーブルは空いている。「1人ですけど、まだ時間大丈夫ですか?」女性2人客と話していたママさんが「どうぞ、そちらの席へ。」よかったー。勧められた入り口右のテーブルに座る。

 

IMG_20230208_192845コートを脱いで空いてる席に鞄と一緒に置く。落ち着くのを待っていたママさんに「ビール(大瓶790円)をお願いします。」と注文する。我ながらとても元気の良い声が出る。嬉しかったんだな、自分。時間がないので、つまみも・・・すぐ横の壁には焼き鳥のメニュー。「やきとり、かわ、つくね、レバー、なんこつ」とあり、全て130円。少し間をあけて「手羽先180円」とあり、その下に「山形名物玉こんにゃく130円」とある。「焼き鳥、1本ずつでもいいですか?」「いいですよ。「じゃあ、やきとりからなんこつまで5種類を1本ずつお願いします。」と注文する。ママさんは焼き鳥の注文を焼き台のマスターに告げて、奥に去る。

 

IMG_20230208_192730しばらくして、ビールとグラスを届けてくれる。おお、ビールだ。早速ひと・・・「お通し(200円)です。」・・・イカ大根だ。よく汁が滲みて飴色。美味しそうだな。では、改めて、ビールをひと・・・「焼き鳥5本です。」・・・えっ、早っ!まだビールを一口も飲んでいないのに・・・つまり、持ち帰り用に予め焼いてあった焼き鳥にタレをつけてさっと焼いてくれたのだろうと推測する。とにかく、ビールを一口・・・くぅ〜、うめー。雨の中、歩いてきた甲斐があったよ。素朴な感じの店だし、初めての客である自分を自然に迎えてくれたし、いい店でよかったー。

 

IMG_20230208_192808イカ大根を一口・・・甘い・・醤油味なのだが、甘味が強く、ご飯があればどんどん食べちゃうという感じの味。疲れた体には嬉しい。じゃあ、焼き鳥を。七味唐辛子をかけて・・・つくねから・・・おお、タレがいい。こっちは甘味を抑えてある。さっぱりとした味のタレが大ぶりのつくねに合うなー。いいじゃん。ビール、ビール。

 

真ん中のテーブルの女性客2人は焼酎のお湯割りをぐいぐい飲みながら、ママさんを交えて大きな声で楽しそうに会話している。話題は子供時代の話らしい。「お肉なんて食べられなかったよね。」「そうそう、魚屋にお使いに行った記憶はあるけど、肉屋さんにはないよね。」「どこかの家で今夜はすき焼きだって聞くと、いいわねーとみんなが言ってた。」「鍋はせいぜい湯豆腐ね。父親が飲兵衛だったから、鍋の真ん中にお猪口を置いてタレを入れて・・・今考えると醤油におかかを入れただけのものだったんだろうけどね。」・・・思わず、聞き入ってしまう。すみません。

 

自分の左横は入り口の通路を隔てて、焼き台の前にマスターが座っている。70代と思われる。自分が入ってからずっと、どこかを見つめていて動かない。何思う?ふとこちらを見て、「雨になりましたね。」と話しかけてくれる。「ええ、傘を買ってきました。」「これが明日雪になるって言ってましたね。」「そうなんですか?」・・・すると奥から、ママさんがピシャリと「雪は明後日、明日じゃないよ。」と言う。えへへ、と照れくさそうに笑うマスターの顔が、本当に面白くて、こちらも笑ってしまう。いい感じ。

 

次は酎ハイにしようと思っていたが、この雰囲気を楽しむために燗酒にしようと考えを改める。「すみません。燗酒(430円)をください。」とママさんに注文する。「1合でいいですか?2合にしますか?」「じゃあ、2合で。それからコロッケ(200円)もお願いします。」テーブル席の女性客に次々と運ばれてくる揚げ物が、あまりに美味しそうだったので注文してしまった。ママさんが奥の厨房に「コロッケです。」と注文を通す。すると、厨房から料理担当の息子さんと思われる男性が出てきて、「コロッケは普通のにしますか?それともポテサラのコロッケにしますか?」「ああ、そうなんですね。ちょうどポテサラとコロッケで迷っていたんで、ポテサラのコロッケなら最高ですね。お願いします。」「わかりました。お待ちください。」・・・いい感じ。

 

IMG_20230208_194633燗酒が届く。杯に注いで、一口・・・ちょっとだけ熱め。これがちょうどいい。ホワッとした飲み口。変な癖もなく、飲み易い酒だなあ。残りのイカ大根と焼き鳥を食べながら、ゆっくり飲む。マスターが暖簾を仕舞い始める。ゆっくりもしてられないか・・・「この店はね、ここが住まいなんで、ゆっくりしてくださいね。本当にゆっくりしていってください。気にしないでね。」・・・こういう、心遣いが嬉しい。この店はいい。本当にいい。

 

マスターが外から煉炭を入れた七輪を店の中に入れる。煮込みの鍋がのっかていたものらしい。「まだ、こんなものも使ってますよ。煉炭ですけどね。こういうものも、荒くなりました。時代ですかね。」・・・渋い。渋すぎる。仕舞い終えたマスターが奥に入る・・・と思いきや女性2人のテーブルの空いている椅子に座る。ママさんがすぐに焼酎のお湯割りとおつまみ数種類をマスターの前に用意する。マスターが渋くお湯割りを一口飲む。すると女性客の1人が、「オヤジ、また食べずに飲んだろ。だめだよ。食べてから飲みなよ。」と叱る。もう1人の女性客も「ホントだよ。身体に気をつけなきゃだめだよ。オヤジ。」・・・オヤジ・・・。

 

IMG_20230208_195224ポテサラコロッケが届く。キャベツの千切りがたっぷり添えられている。では、一口・・・揚げたてだから、熱い熱い・・・ハロハロ・・・うわーポテサラに油が加わって旨みが増してるよー。おいひい・・・ハフハフ・・・熱い・・・美味い。コロモもカリッとして美味しいコロッケをつまみに燗酒を飲む。女性陣に叱られながら飲んでいるオヤジ、いやマスターの無抵抗ぶりが面白い。そして、少し羨ましい。

 

マスターの言葉に甘えて、営業時間を20分ほどオーバーしたところで席を立つ。「ごちそうさまです。」「ありがとうございました。2700円です。」・・・コートを着て、鞄を肩にかけて「ごちそうさまでした。」と改めて挨拶する。マスターがこちらを向いて「雨の中、お気をつけて。またおいでください。」と声をかけてくれる。頭を下げると、女性客の2人も笑顔で会釈してくれる。「どこまで帰るんですか?」「中野です。」「ええっ、それはそれは。遠いね。」みんな驚いている。

 

店の人全員に送られて、外に出る。細かい雨が降り続いている。来た記憶を辿って、門前仲町駅に向かう。・・・「どこに帰るの?」「中野です。」「じゃあ、近いわね。」・・・かつて「大坂屋」のママさんと交わした会話を思い出す。そう、門前仲町駅から中野駅は東西線で一本。遠いねと驚いてくれた人たちも、近いわねと言ってくれたママさんも、どちらも優しい心遣いをしてくれたのだと思う。ゆっくり歩く。もう雨も寒さも気にならなくなっている。
 

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東京都江東区牡丹3丁目22

 03-3641-6595


Posted by hisashi721 at 12:38│Comments(4)
この記事へのコメント
このところ城東のお店の記事が多くて、在住の人間として嬉しく楽しく読んでおります。
チューハイ不発!に続いての川越屋の登場に驚きました。かどや並に辺鄙な場所を、よくご存知で…
寄り道さんの見識の広さにただただ敬服です笑
Posted by 110 at 2023年02月15日 21:32
110さん、こんにちは。

全然見識は広くないんですが、行ってみたい店だけはたくさんあります。
またいいお店を紹介していただけると嬉しいです。

「川越屋」は楽しい店でした。雨の中でも行ってよかったです。

コメント、励みにさせていただいています。
ありがとうございます。
Posted by 寄り道 at 2023年02月16日 13:06
地元で通う店は住吉の山城屋ですが、他に木場の「夢乃屋」と「東屋」をお勧めします。もし機会がありましたらぜひお越しくださいね。
年明け早々流行りの病にガツンとやられてしまい、その間は寄り道blogでエア居酒屋を楽しませていただきました。感謝!
Posted by 110 at 2023年02月16日 22:15
110さん、夢乃屋に行ってきました。いい店ですねー。

それから、昨日のアド街で「やきとりたかはし」紹介されてました
ね。撮影関係の方々が通っていらっしゃるとか。

Posted by 寄り道 at 2023年02月19日 13:14