2023年02月26日

もう一度・・・門前仲町「だるま」

IMG_20230225_163413先日、目指した門前仲町の「大坂屋」がお休みで、近くの「だるま」に行ったら満席で入れず、越中島の「川越屋」に雨の中閉店時間を気にして急いだという記事を書いた。その時はなんとも思わなかったのだが、新宿の思い出横丁で飲んでいた時、ふとあることを思い出した。それは78年前になるだろうか、「ひさご」という店でのことだ。なにせ、行きつけの「藤の家」の営業は不安定で、店の前まで行って「今日も開いてないじゃん」ということが多くあった、そんな時は、この店に行っていたので、自然と頻繁に通うことになっていた。

 

IMG_20230226_133437「ひさご」は名物女将であったお母さんが亡くなり、息子さん兄弟が跡を継いでいた。その弟さんというのが大の話好きで、自分が店に入るやいなや、待ってましたとばかり話しはじめるような人だった。客が自分一人の時は、お金を払って話を聞いてあげているという感じでもあった。まあ、それはそれで面白くもあったのだが。それで、何人かの常連客とも顔見知りになり、言葉を交わすようになった。その頃、その常連の一人が最近全然顔を出さなくなったので、みんなどうしたんだろうと心配しているということがあった。そのうち、どうも門前仲町にお気に入りの店ができて、そこに通っているらしい、ということがわかった。その店が「だるま」だったのだ。

 

なんでも「だるま」には看板娘の美人姉妹がいて、その人はそのうちの一人にぞっこんらしいというのだ。まあ、話ばかりしているおじさんよりはいいんじゃない、と誰もが口には出さないが、心の中では納得していた。・・・そして、ある日、「若月」(いまはもうない)という店の常連さんが深刻な顔で、その方が病院で亡くなったことを知らせに来た。その人が言うには、「だるま」の看板娘さんも駆けつけくれて、その女性に手を握られながら旅立って行ったというのだ。「本望だね。」とお客さんたちは頷き合っていた。


ちょっと解説を加えると、思い出横丁にはかつてスナックがあった。そのスナックが店を閉めて無くなってから、その店の常連たちは、行き場を失い、他の何軒かの店に顔を出すようになったという。それが例えば「ひさご」であり「若月」であったのだ。ただその人たちには共通点があった。それは1杯の酒で延々と粘るということだ。それには理由があって、そのスナックでは一日中彼らは飲んでいたので、自然と一杯にかける時間が長くなったということ。だから、他の店ではあまり歓迎されない客であった。慣れない店では話も合わず、トラブルもあったという。

 

IMG_20221229_114002自分の行きつけの店が消滅すると、心安らかに過ごす場所が無くなる。彼らは自分の居場所となる店を求めて彷徨っていたのではないか。「居酒屋放浪記」という人気番組の「酒を求め、肴を求めてさまよう」というオープニングの台詞どころではない。自分の居場所を求め、仲間を求めて彷徨っていたのだ。そこに酒場に集う人間の凄まじさを感じるのは自分だけだろうか。病院でのエピソードがどこまで真実かは分からないが、その人が最後に安らげる店にたどり着いていたとすれば、それこそ「本望」であったかもしれない。

 

それで不思議なのだが、自分も何回か「だるま」には行っている。しかし、美人姉妹を見た覚えがないのだ。先日、すらりとした眼鏡のおねえさんという表現をしたが、満席ショックのせいで、はっきり認識ししたわけではない。その人がそうだったかもわからない。いろいろ紹介されている記事を見ると、どれも美人姉妹に言及している。どういうこと?

 

というわけで(長くてすみません)、土曜日(25日)、目黒駅から山手線内回り電車に乗る。浜松町で降りて、改札を出る。うわー、外国人が多いなあ。人混みを縫って歩き、地下鉄の駅に向かう。都営大江戸線「大門」駅はすぐそこ。時計を確認すると、午後415分。目指す「だるま」の営業は午後430分から。いい感じかな。

 

IMG_20230215_16375315分後、門前仲町の6番出口から地上に出る。珈琲館の角を曲がると「大坂屋」が見える。定休日なので、「準備中」の札が掛かっている。「だるま」そこから「だるま」は徒歩数十秒。迷わず入口の戸を開ける。入口から奥に向かってL字型のカウンターの縦棒が伸びる。左側は厨房。L字の横棒の後ろがテーブル席。開店直後だが、テーブル席にはもう6、7組の客が入って賑わっている。しかし、カウンターは縦棒の一番奥に1人だけ。さて・・・。

 

厨房の奥の肉どうふ鍋の辺りに立っている女性がこちらを見る。目が合う。スラリとした感じは記憶通りなのだが、メガネはかけてない。自分の記憶の曖昧さというか、その時のショックの大きさというか、それらに苦笑してしまう。「お一人様ですか?」「そうです。」「では、こちらの席へどうぞ。」と立っている前の席を掌で指す。「はい。」と答えて奥まで進む。コートを後ろの壁のハンガーに掛けて、足元に鞄を置き、椅子に座る。目の前にはおでんが美味しそうに煮えている。「まず、お飲み物から伺います。」「酎ハイ(550円)、お願いします。」「はい。ありがとうございます。」・・・「酎ハイ、一発!」という言葉はない。このお姉さんが自分で酎ハイを作るので、注文を通す必要がないからだと納得する。

 

IMG_20230225_163724「酎ハイです。」とお姉さんが届けてくれる。一口・・・ふむふむ、やはり何か物足りない。カウンターの上に用意されているライムのシロップを入れる。改めて一口。酸味が効いて、いい感じになる。店には3人の女性がいる。厨房の一番奥で料理を作っている女性、飲み物と鍋物担当のさっきのお姉さん、それからホール係の女性だ。料理の女性とさっきのお姉さんが姉妹なのかななどと推察する。やはり、記憶にはないなあ。まあ、かなり久しぶりだからなあ・・・。

 

次々にテーブル席のお客さんから注文が入るので、厨房の中は忙しそうだ。少し待って、「注文いいですか。」と声をかける。ホール係の女性が「どうぞ。」とメモの用意をする。「肉どうふ(600円)と串かつ(900円)をお願いします。」と注文する。「えーと、かつの・・・串ですね。」「はい、串かつ。」「かつを串にさしたものでいいですよね。」「はい・・・。」・・・何か間違ったか?正式名である「ヒレ肉串かつ」と言うべきだったのだろうか。

 

IMG_20230225_163838「肉どうふ」到着。肉、玉ねぎ、シラタキ、豆腐、春菊・・・すき焼き風。豆腐から一口・・・ほんのり甘い・・・すき焼きというより肉じゃがに近い味・・・汁が程よく沁みて・・・美味しいてなあ。さすが看板メニューだけのことはある。酎ハイ、酎ハイ。元気が出てくる。奥から料理担当のお姉さんが自分に近づいてくる。えっ?自分の前に置いてある注文を書いたメニューを確認する。「串かつ」の文字を確認して、ニコッとこちらを見て微笑む。・・・串かつ、何か間違えたのだろうか・・・。

 

2人客が入って来て、カウンターに座ろうとすると、お姉さんが「すみません。お2人様でしたらテーブルでお願いします。」と奥のテーブル席に案内する。なるほど。1人客が入ってくる。「お帰りなさい!」とお姉さん。客は「ああ、今日は疲れたよ。」などと言いながら、入口近くのカウンター席に座る。続いて1人客。「お帰りなさい!」・・・常連客は入口近くに座ることが多いんだな。だから、先日、お姉さんは入口に近いところに立って、常連さんたちと話していたというわけか。それにしても「お帰りなさい。」の声が優しくて強い。この声に癒される人は多いのだろう。思い出横丁のあのお客さんの顔が頭をよぎる。

 

IMG_20230225_173742酎ハイをおかわり。今度はレモンシロップにする。そこに「串かつ」が届く。大ぶりな串かつが2本。それにボテトサラダとレタスが添えられている。見るからに美味そうだ。では、卓上のソースをかけて、添えられた芥子を少しだけつけて・・・一口・・・熱い、熱い・・・ハフハフ・・・コロモがサクッとして・・・肉が柔らかい・・・ジューシー・・・美味しい!酎ハイ、酎ハイ。合うなー。

 

3杯目の酎ハイを注文。串カツはボリュームがあるので、つまみは十分。今日は夕方から急激に気温が下がったが、店の中は活気に満ちて、雰囲気も暖かい。もう1人のお姉さんが出勤してきて、女性4人で切り回す。常連客と話をして笑ったり、「酎ハイ、2発!」と元気な声を出したり・・・この雰囲気の中で、もう少しゆっくり飲んでいよう。

 

この酎ハイなら5杯は大丈夫とは思ったが、それは思いとどまる。3杯目の酎ハイを飲み干して、今日はここまで。「ご馳走様です。」「ありがとうございます!」コートを着ながら会計を待つ。「3150円です。ありがとうございました。」

 

外に出る。底冷え。寒いなあ・・・。でも駅はすぐそこ。少しだけ馴染みになった街を歩きながら、この街に毎日のように通った人を偲ぶ。それにしても時間って不思議だなと思う。

IMG_20230225_163413 

 

東京都江東区門前仲町2丁目7

03-3643-4489


Posted by hisashi721 at 13:18│Comments(2)
この記事へのコメント
門前仲町駅
Posted by 門前仲町駅 at 2023年07月26日 22:16
高須教夫
Posted by 石井教雄 at 2023年07月26日 22:16