2023年03月08日

異世界居酒屋・・・恵比寿「田吾作」

IMG_20230307_191408午後710分、山手線「目黒」駅にいる。今日は、たとえ時間が遅くなっても、終えておきたい仕事があったのだが、パソコンが突然動かなくなり、断念。午後630分に職場を出た。仕事は持ち帰ったのだが、このまま帰宅するのも味気ない。近いところで寄り道をしようかな。となると・・・。目黒の隣の駅、恵比寿にGO

 

この時間の山手線はぎゅうぎゅう詰めの満員電車。でも、数分の我慢なら何ていうことはない。後ろのお姉さんのスマホを操作する手が 自分の背中に蠢いてくすぐったい。耐えること2分。恵比寿駅到着。ふぅ〜。アトレを通って、エスカレーターを下ると、西口ロータリー。煌びやかで落ち着いた街並みが現れる。この辺りも変わっちゃったなあ、としみじみ思う。

 

駅前交番の前を通り、二つ目の横断歩道を渡る。すぐに明らかに周囲とは違う雰囲気の赤提灯と暖簾と「ホイス」と染め抜かれた幟が見えてくる。まるで帝国の古都・アイテーリアで営業している居酒屋「のぶ」のようだ。何といっても、この街の雰囲気の中に「田吾作」という名前の店があるだけでも意外性がある。前に来たのは2005年3月。変わってないなー。さて、店の中はどうだろう。


IMG_20230307_193336暖簾をかき分け木の戸を開ける。入口の右手にL字型のカウンター。Lの横棒が2席。角に1席、縦棒は6席、カウンターからの出口を挟んでさらに奥に3席。左手は4人掛けテーブル席が2つ。さらに、その奥に木の枠で囲まれたテーブル席がある。カウンターの中は厨房。カウンター角の中に焼き台。Lの縦棒に沿って厨房も伸びている。お客さんは、手前のテーブル席にそれぞれ2人組。カウンターは奥に女性2人組、2席ずつアクリル板に区切られたスペースに、女性1人、その手前におじさん1人。3席空いてLの横棒におじさんサラリーマン2人組。入口すぐの3席は角の1人席、縦棒手前の2人席に区切られている。

 

「いらっしゃいませ。」と焼き台の前のマスターがとても柔らかい声で迎えてくれる。同時にカウンターの中の男性店員さんが「いらっしゃいませ。」と声を合わせてくれる。「1人です。」と告げると、マスターともう1人の男性店員さんが、同時に2人用に区切られた席を

さして、「こちらにどうぞ」と勧めてくれる。迷わず1人席ではなく、2人席を勧めてくれるところが嬉しい。マスターはふっくらとした優しそうな方。黒い眼鏡が印象的。席を勧めてくれた男性店員さんは外国人。西アジア系と思われる。もう1人はずっと奥にいて、どういう人かよくわからない。

 

IMG_20230307_191621外国人の店員さんが自分の前に立つ。「生ビール(650円)お願いします。」と注文すると、「はい、わかりました!」と明るい笑顔で答えてくれる。いい笑顔だなあー。マスターも「生ビール、すぐにねー。」などとフォローしてくれる。生ビールとお通し(300円)、割り箸、おしぼりが同時に届く。「どうぞ。」と店員さん。「お待たせしました。」とマスター。癒されるなあ。では、生ビールを一口・・・んー、うんまい!いろいろあったが今日もお疲れ様、自分!お通しは白菜のお新香。一口・・・美味い!シャキシャキしていて、昆布の味がものすごく出ていて・・・これは、美味しいお新香だなあ・・・。ビール、ビール。

 

自分の右斜め前に焼き台があるので、マスターの仕事ぶりを眺めながら、ということになる。焼き代にはものすごい数の串が載っている。小さなメモ用紙にお客さんごとの注文が書いてあって、それを見ながら間違えないように焼いている。忙しそうだなあ。すると、自分の方をマスターが見て、「何か焼きましょうか?」と本当に優しい声で、しかもゆったりと聞いてくれる。仕事に集中して取り付く島もないというのでもなく、慌ただしく「お客さん、ご注文は?」とこちらも見ないで聞いてくる人もいるが、この店のマスターは、素晴らしい!

 

壁のメニュー短冊を確認しながら、「かしら、はつ、しろ、れば、せせり(各170円)を塩で1本ずつお願いします。」と注文する。マスターは注文を復唱しながら、小さなメモ用紙に書いていく。「カ ハ シ レ セ」と書いて頷く。頭文字だけをメモするんだな。なるほど。次々に焼き上がった串が皿に乗せられる。「丸太2番のお客様のだよー。」とマスターが店員さんにも優しく指示する。「はい。」と店員さん。働く方もリラックスして楽しそう。

 

瓶ビールを飲んでいた左隣のおじさんは、ホイスを注文。やっぱりこの店はホイスだなあ。テーブル席の人たちもホイスを飲んでいる。生ビールを飲み干すと、外国人店員さんと目が合う。ニコリと笑って近づいてくる。「ホイス(460円)をお願いします。」「はい、ホイスですね。」分かっているなー。いい感じ。マスターが「ありがとうございます。」とこちらを見て頭を下げてくれる。嬉しいなあ。

 

IMG_20230307_192410ホイスが届くと同時に、マスターが「お待たせしました。」と串をのせた皿を自分の前に置いてくれる。いいタイミング。どれも美味しそうだが・・・まず、「しろ」から。カリッと焼けている。クニュクニュは論外だが、カリカリも好みではない。このカリッというのがいいのだ。美味しいなー。ここで、ホイス!一口・・・そうそうこの味・・・爽やか・・・微かな甘さと薬草っぽさがいい。いくらでも飲めると思わせる味だ。美味しいなー。串焼きも美味しいし、店の人も優しいし、最高だね。

 

お客さんが次々と入ってくる。そして奥のテーブルに案内される。手前のテーブルが「丸太」、奥のテーブルが「囲炉裏」と呼ばれているらしい。そういえばそうだったなと記憶がうっすらと蘇る。囲炉裏に皿を届けた外国人店員さんが、マスターの傍に来て、照れくさそうに「ご飯、売り切れ。」と言う。「誰が食べたのー?」「あなたでしょう。」「そう、私、ごめんなさいって、おい!自分だろ。」「へへへ、そうだったかなあ」「頼むよー」という漫才のような会話をしている。いい関係だなあ。

 

完全にリラックスして、ホイスを飲みながら串を食べる。ふと見ると、外国人店員さんはスマホに夢中。リラックスしているのは自分だけじゃなかったか・・・。カウンターのお客さんは入れ替わって、また注文がたくさん入る。「囲炉裏」のお客さんの注文も大量。マスターは相変わらず間違えないようにメモを見ながら焼いている。大忙し。

 

串を追加しようかな。壁のメニューを再び確認、カウンターの方に向き直ると、目の前に外国人店員さんが、こちらを見て笑顔で立っている。おお、こういうところ、いいなー。「なんこつ、たんもとを塩で1本ずつ、それから、つくねをタレでお願いします。」と注文する。店員さんがカタカナでメモをして、マスターに渡す。へー、日本語も上手だし、優秀だなあ。

 

ホイスのおかわりをしようかな。カウンターの中を見ると、外国人店員さんは・・・文庫本読んでる!仕事中に読書とは。しかも、店は満席に近いのに・・・。注文をためらっていると、さっと読んでいたページに栞がわりのグラスを置いて、こちらにやって来る。察したのだろうか。超能力。「ホイス、おかわりで。」「わかりました!」

 

IMG_20230307_195644追加の串が焼き上がる。「どうぞ。」と相変わらず物柔らかなマスター。じゃあ、「つくね」から、一口・・・タレが美味しい。甘いと思いきや、甘さはぐんと抑えられていて、だからといって塩辛いということもなく、肉の味を邪魔せず引き出すという感じ。つくねそのものが美味いと感じさせる。いいねー。ホイス、ホイス。ああ、もうちょっと、のんびり飲んでいよう。

 

外国人店員さんは皿を運んだり、テーブルを片付けたり、忙しく動いている。でも、そのちょっとした間隙を縫って文庫本を読んでいる。ちらっと見えたのだが、ちゃんとした日本語の縦書きの本。こういう本に夢中になれるとは、本当に日本語が堪能なんだな。学生さんかもしれない。マスターと冗談を言い合ったり、その後自分に笑いかけたり・・・興味深い人ではある。

 

2杯目のホイスを飲み終えて、今日はここまで。「ごちそうさまです。」とマスターに声をかける。「お帰りですか。ありがとうございます。」と笑顔でゆっくり答えてくれる。会計は外国人店員さん。「ありがとうございました。」とお釣りを掌に握らせてくれる。ひえー。そこまでしなくても・・・。やけに温かい手の感触が残る。

 

「ごちそうさま。」とマスターと外国人店員さんに頭を下げて、戸を開ける。「ありがとうございましたー。」という2人の声で送られる。外に出る。暖かい夜だ。駅はすぐそこ。相変わらずキラキラしている。振り向くと、先ほどまで心からもてなしてくれた店がある。「異世界居酒屋」であったことは間違いない。

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東京都渋谷区恵比寿西1丁目1

03-3461-2922


Posted by hisashi721 at 13:45│Comments(0)