2023年04月29日

2時間半の彷徨・・・布田(調布)「寿起」

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28日。連休前の金曜日だ。午後730分すぎ、京王線「つつじヶ丘」駅に停まったまま、全然発車しない電車の中にいる。この駅で急行2本の通過を待っているのだが、何かの故障でその急行が遅れているらしい。その影響で自分の乗った電車も停まったままなのだ。この辺りにはあまり来たこともなく、京王線にもあまり馴染みがない。何故こんなことになってしまったかというと・・・。

 

自分の経験からすると、金曜日、それも連休前ともなると、職場の近くの店に行く人が多い反面、郊外の駅の店は空いていることが多い。地元には遅い時間に帰ってくることになるからだ。だから、今日も寄り道をしようと思ってるのだが、ターミナル駅の近くの店、そして有名店は避けた方がいいと判断。こういう日こそ、いつもは行けない郊外の店に行ってみようと考えたのだ。

 

その店は京王線の「布田」という駅にある。「布田」を「ふだ」と読むことすら知らなかったような馴染みのない駅だ。その布田駅と一つ向こうの調布駅の間にある店が今日の目的の店だった。いそいそと職場を出たのが午後530分。例によってバスで目黒に行き、山手線に乗り換える。渋谷で京王井の頭線に乗り換えてもいいのだが、絶対に渋谷は大混雑に決まってる。新宿から京王線に乗ろう・・・。

 

新宿で京王線の改札を入ってみると・・・なんじゃ、これゃ!ホームに降りる階段にも人が並んでいる。やっとのことでホームに降りると、ちょうど急行が発車するところ。ドアがなかなか閉まらない。乗客は苦悶の表情で押し合いへし合いして、なんとかドアが閉まるように奥に詰めようとしている。その急行に乗れなかった人がホームに溢れ、2つ後の急行を待つ列にも人がずらり。無理!


それで改札を出て、通路を通り京王新線のホームに回ってみる。こちらも混雑しているものの、耐えられるレベル。何本か笹塚行きの電車をやり過ごして、区間急行「橋本」行きに乗る。電車は笹塚で地上に出て、明大前、桜上水と順調に走る。桜上水を過ぎる時、「一平」のママさんのことを思い出す。また行きたい。今日でもいいが・・・いや今日は先まで行こう。次の停車駅は千歳烏山。路線図を見ていると「布田」は停車駅ではない。つつじヶ丘まで行って、各駅停車に乗り換えなんだな。時間かかりそうだなー。腕時計を見ると、もう午後7時を過ぎている。う〜ん。

 

なんとなく前途遼遠な気がしてきて、妥協策を思いつく。千歳烏山の次の駅「仙川」で降りて、「きくや」に行こう。ここも行ってみたかった店だ。時間も遅くなってきたし、鷺ノ宮まで帰ることを考えれば、ここが最適解。よし!というわけで、仙川で下車。この駅に降りるのは20年ぶりくらいか。仕事で白百合女子大学に行って以来だ。懐かしさも何も感じない。覚えていないからだ。改札を出て左を見ると、「きくや」の看板。大きな店だなあ。これなら多分大丈夫。しかし、店の前に来ると、入り口横の木のベンチに20代前半と思われる、おしゃれで美人の女性が1人座っている。「すみません。入店待ちですか?」「ええ、今満席だそうですよ。」ううっ、もう疲れたよー。「隣、失礼します。」と2人がけのベンチに座る。はあ〜。

 

ドア越しに店の中を伺うと、なるほど満席。でも、誰も出てくる気配がないなあ。「なかなか空きそうもないですね。」と女性に話しかける。「ええ、金曜日なので、これから飲み始めるという感じですかね。」えー、マジ!。「この辺りに他にいい店、知ってますか?」「いつもこの店ばかりなので。ちょっと待ってください。」といってスマホで検索してくれる。「この通りの先に一軒あるみたいです。」と言って料理の画像を見せてくれる。ここまで来て、チェーン店では・・・。「これじゃあ、新宿のきくやに行った方が早いかも。」と呟いてしまう。「ええっ?新宿にきくやがあるんですか?」と女性。「思い出横丁にあります。ここはその本店の暖簾分けだそうです。」「そうなんですね!」「新宿に来たら行ってみてください」・・・このまま話は弾みそうだが、こんなことをしている場合ではない。

 

「では、自分は諦めます。いろいろありがとう。」と言って立ち上がる。「また、どこかでお会いしたらよろしくお願いします。」・・・駅に向かう。ここで新宿に帰るわけにはいかない。前進あるのみ。仙川で通過電車を延々と待ち、やっと電車に乗り込む。そして次の駅、つつじヶ丘・・・というわけなのだ。

 

IMG_20230428_205445やっと電車が発車し、柴崎、国領という駅を通過、「布田」に到着。外に出ると、なんとなく物寂しさを感じる。駅前には商店街らしきものもなく、街はひっそりと暗い。空を見上げると星が一つだけ輝いている。自転車に乗った人がよろよろと自分を避けて走っていく。ああ、自分は何をしているのだろうか。とにかく目的の店に。店名は「寿起」と書いて「すぎ」と読む。駅前ロータリーから細い道に入り、住宅街を通り抜ける。すると広い道に出る。左を向くと、あった!「すぎ」・・・いやあれは「スギ薬局」だ・・・などと自分にボケたりするのは疲れゆえか。

 

IMG_20230428_200109スギ薬局の看板を通り過ぎ、一つ居酒屋があって、そこを右に曲がると、縄のれんが下がった風情ある建物。来ましたよー、これこそ本物の「すぎ」・・・寿起だ。手前の居酒屋は満席で賑わっていたが、こちらはどうだろう・・・。引き戸を開ける。正面のカウンターの奥にマスターが下を向いて作業している。入り口すぐと左にテーブルが3つ。奥にカウンター3席。先客は・・・なし!

 



IMG_20230428_200511マスターに「こんばんは。」と声をかける。顔を上げたマスターが「ああ、いらっしゃい。」と答えてくれる。白い髭の老人という印象。カウンターの真ん中の席に座り、「ビール(中600円)を注文する。マスターがカウンターを回り込んでこちらに出てきて、ビールとグラスを届けてくれる。早速、ビールをグラスに注いで一口・・・んめー。ここまで遠かったー。時刻はもう午後8時を過ぎている。職場を出てから2時間半の彷徨、ビールが不味いはずがない!

 

IMG_20230428_200543早速、つまみを・・・「マスター、味付け玉子焼き(550円)をお願いします。」と注文する。「はいよ。」とマスターがカウンター横の厨房で料理を始める。これが食べたくて、遠路はるばるやって来たのだ(途中で諦めかけたけど・・・)。テレビは「チコちゃんに叱られる」。やや音量は大き目。まあ、いいかー。ビールが飲めればそれでよし。

 



IMG_20230428_201245味付け玉子焼きが届く。ほー、見た目からして美味しそうだ。一口・・・これは、じゅわーと染み出す出汁の量がすごいぞ・・・それも普通のだし巻きではなく、なんというか醤油味の濃い味。これは美味しい。ビール、ビール!これまで食べたことない味と食感。素晴らしい。「マスター、美味しいですよ。本当に。」「ありがとうございます。」

 



IMG_20230428_200526この店は本来焼き鳥屋なので、焼き物を・・・「シロ、かしら、つくね(1150円)をお願いします。」と注文する。マスターが「甘い普通のタレと、ニンニクの効いたタレがありますが、どちらにしますか。」「ニンニクじゃない方で。」マスターがちょっと残念そうな表情を見せる。分かります。なんといっても、この店のウリはオリジナルのタレ。特にニンニクの効いた「スタミナダレ」は絶品と聞いている。しかし、ニンニクはちょっとなあ・・・。すみません。

 

IMG_20230428_202743ホッピーやサワーやウイスキーもメニューにはあるが、今日は日本酒を飲んでみるかな。カウンターには3本の一升瓶が置いてある。〆張鶴、越乃寒梅、大洋盛。「マスター、日本酒をお願いします。」「どれにします?」「大洋盛(950円)で。」マスターの目が輝いたような気がする。「これですね。この酒はね、口当たりがいいよ。」・・・ラベルに「越後村上 限定醸造」と書いてあったのを見て注文したのだ。

 

IMG_20230428_202738マスターが小皿の上にグラスを置いて、一升瓶から酒を注いでくれる。小皿に少しこぼれたところで「どうぞ。」マスターは焼き台に戻る。では、一口・・・うわー、飲み口のさらっとした感じはどうだ・・・こんな酒初めてだ・・・まるで水を飲んだ時のように抵抗なく入ってくる・・・そして、口の中に広がる爽やかな香り・・・素晴らしい!これまで飲んだ日本酒の中で一番美味しいかも。「マ、マスター、この酒、すごいですね。」「実は、親戚が村上にいましてね。そこで飲んだ時、びっくりしたんですよ。造っている量がわずかなので、村上市内にしか出回らないのを、特別に送ってもらっているんです。どんどん飲めちゃうでしょ。女性にも飲みやすい酒です。でも飲み過ぎには注意です。他では飲めませんよ。」・・・なるほど。

 

IMG_20230428_202352焼き物が届く。まず、かしらから・・・普通のタレじゃない。決して甘くない。ねっとりと濃いのだがそれが肉に絡んで、絶妙の旨みを引き出している。このタレもすごい。こんなタレ食べたことない。初めての連続・・・この店はすごい。シロはどうだ・・・これシロ?分厚いがクニュクニュもしてなくて、まるで普通の肉を食べているよう。これもタレによく合う。つくねは、タレじゃなくて独特の味付けがしてある。ほー、こんなにさっぱりと食べられるつくねは、これも初めて。美味しいなー。「すみません。大洋盛、おかわIMG_20230428_203224り。」「早いねー。お客さんが自分で注いで。」「じゃあ、小皿にたっぷりこぼしますよ。」「ははは。」

 

美味しかったー。でも帰り道のことを考えて、今日はここまで。「マスター、ごちそうさまです。」「ありがとうございました。3500円です。」「全部、美味しかったです。」「また、寄ってね。」

 

外に出る。隣の居酒屋は今風で、若いお客さんも多い。「寿起」には結局、ずっと自分以外の客は来なかった。「時代に取り残されたような店」という表現がある。「時代に取り残された店」という表現とは大違いだ。マスターの味はどんな時代にも受け入れられると思う。だから頑張ってほしい。「また、寄ってね。」というマスターの言葉が優しかった。

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東京都調布市布田2丁目24

042-485-5553


Posted by hisashi721 at 12:43│Comments(0)