蒸し暑い6月の一日。今日(14日)の仕事を終えて職場を出たのが午後6時15分ごろ。7時過ぎに中野駅に着いた。中野でちょっとした用を済ませて、せっかく中野にいるのだからと、丸井横のレンガ坂を上ってみる。小さくておしゃれな店がたくさんできている。その中に昔からのバーも健在で嬉しい。ざっと散歩を楽しんで時計を見るともうすぐ8時。駅に向かう。
総武線各駅停車で阿佐ヶ谷へ。南口に出て、パールセンター商店街の前の横断歩道を渡り、マクドナルドを左に見ながら、一番街へ。そこから約200m歩く。飲食店が両脇に並ぶ通りを歩きながら、18年前の6月を思い出す。店はずいぶん入れ替わったようだが、自分は何も変わっていないような気がする。やがて、「Asagaya Cafe」というイタリア料理屋が見えてくる。その角を右に曲がると、今日18年ぶりに目指す店、「バルト」がある。
このブログを始めたのは2004年10月。それから2010年の5月まで不定期な更新を続けたのだが、そこで、もういいかなという気になり、以後更新はしなかった。それが、2022年の7月、初めてブログを読んだ若い同僚が、「面白いです。ぜひまた書いてください。」と泣かせる一言をくれたのをきっかけに12年ぶりに更新してみた。そうしたら、当時のことを思い出して、楽しくなり、週1から2のペースで続けている。再開した後、以前行った店で、是非また行ってみたい店ベスト3を自分なりに考えてみた。それは、世田谷「酒の高橋」、北千住「酒屋の酒場」、そして阿佐ヶ谷「バルト」。「酒の高橋」はママさんが強くなって頑張っていた。「酒屋の酒場」は新しい店になっていて雰囲気も変わっていたが、いい店であることは継承されていた。そして・・・。
「バルト」はすぐに確認できた。記憶の中の建物と少し印象が違う。バルトという看板がない。それにジャズバーみたいにおしゃれな感じになっている。ん?入り口横の黒板にはライブのお知らせが書いてある。ドアは開け放されている。できれば18年前の話をマスターとしたい。でも、人気店だ。お客さんは多いだろう。マスターも忙しいはず。せめて、懐かしい雰囲気に浸れれば満足だ。
店に入る。奇跡!先客はなし。店は明らかに改装されている。照明も明るく、厨房を囲んだL字カウンターは10席ほど。その他に大きなテーブルが店の中央にある。決して広くはないが、ゆとりある空間にデザインされている。一歩入っただけで、いい店であることが感じられる。マスターは料理の準備中のようだ。「こんばんは。」と挨拶する。「いらっしゃいませ。」とマスターが顔を上げる。えっ?全然老けてない。昔のままに見える。カウンター奥の席を指して「ここに座ってもいいですか?」と問う。マスターが「そこは水場の前だから、中央の席にどうぞ。」と勧めてくれる。
「メニューをどうぞ。」とマスター。メニューをめくっていくと、何ページもドリンクが続く。ビールもワインも日本酒も焼酎もウイスキーもカクテルもある。でも、飲み物はもう決めている。「ヒューガルデン白樽生(800円)、お願いします。」と注文する。「うちは2度注ぎなので少し時間がかかります。」とマスター。あのクリーミーな泡とその下に滑り込んだビールの味わい・・・待ちますとも。
泡が落ち着くのを待ちながら、マスターが手早く「お通し」を用意してくれる。鶏肉と茄子、しめじを煮たものにカイワレが添えてある。うまそー。そこに、ビールが届く。泡の盛り上がりが見事だ。では、一口・・・本当にクリームみたいな泡、それがまず口の中にゆっくり入ってくる・・・そして・・・おお、この柑橘系を思わせる爽やかな香りと味わい・・・そして、すっきりとした甘みが口の中に広がる・・・うめー。特別な日の特別なビール。そんな気がしてきた。
「お通し」もいただこう。鶏肉から一口・・・いい味に仕立ててあるなー。肉は柔らかくほっこりとして、そして肉の味を引き立てるかのような、控えめだがしっかりとした味付け。美味しい!この店は、コース料理もあって本格的なメニューも多い。料理の美味しさもこの店の魅力の一つだ。
このタイミングでマスターに話しかける。「実はこの店に伺うのは久しぶりなんです。」「どれくらい前ですか?」「2005年の6月以来です。」「それは本当にお久しぶりですね。ちょうどバルト10周年の頃ですね。」バルト創業は1995年4月だったと思う。なるほど。「その時、ポテトサラダにオリーブオイルをかけると美味しいということをマスターから教えてもらって、それ以来自宅でもそうして食べているんですよ。」「ああ、じゃあ、ブログに書いてくれた方ですね。」・・・えー、覚えていてくれていたとは!感動のあまり、「ぐへー」と妙な反応をしてしまう。
「あの年の9月に豪雨がありましてね。この店にも水が入ってきたんですよ。駅近くの地下の店は天井まで水が入ってきたということです。」「あの年でしたか。」・・・いわゆる「杉並豪雨」。阿佐ヶ谷駅前が水に浸かった光景をニュースで見た記憶がある。あれから18年、いろいろなことがあったんだな。そしてコロナ。「アルコールの提供が7時までという期間がありましたよね。それで5時に開店してみたのですが、お客さんは来なかったですね。でも、自分は元気にやっているという姿を見せたくて、ずっと休まずに頑張っていたんです。」・・・マスター、素晴らしいです!
「ぜひ、今日もポテトサラダを召し上がってください。出来上がったばかりですが。」「もちろん、そのつもりです。ポテトサラダ(450円18年前と同じ値段!)、おねがいします。」「ジャガイモは三方ヶ原のものです。ジャガイモの中では一番美味しいと思いますよ。だから、三方ヶ原産のものを店頭で見かけると嬉しくて。」
「三方ヶ原って・・・。」「徳川家康が武田信玄を迎え撃って、敗戦、敗走した三方ヶ原の戦いがあった所ですね。」・・・徳川家康最大の敗戦。それにしても、マスターは歴史にも詳しい。「皮が薄いんですよ。だから、包丁で剥くというより、たわしみたいなものでこすりとる方が旨みが残ります。」「なるほど。」・・・さすが料理の話も面白い。
「ポテトサラダです。食べるにはいい温度になっていると思いますよ。料理は食べる温度も大切な要素です。まずはそのままで、その後でお好みでおリーグオイルを。少量のバターでも美味しいですよ。このジャガイモはとても美味しいので、そのままでも十分ですが。」・・・では、早速一口・・・ジャガイモの味が濃い・・・だが、優しい甘さを感じる・・・全く水っぽいということがなく、ホクホクとした食感。素晴らしい!これがポテトサラダなのか。「美味しいですねー。」「ありがとうございます。よかったです。」
ヒューガルデン白樽生をおかわりする。マスターの話はとても面白い。18年ぶりの客なのに常連客のように接してくれる。店が老朽化したので思い切って改装した話、阿佐ヶ谷のグルメの話、散歩で見つけた記念碑の話から幕末の新撰組の話、それからマスターの郷里である山形の話・・・全て興味深い。最も詳しいはずの音楽の話を抜いても話題は尽きない。
「ライブもやってるんですね。」「ええ、この前、こんな方に来ていただいたんですよ。」とその時のチラシを見せてくれる。リピート山中・・・「えーと、この人は?」「満腹ブラザーズってご存知ですか?」・・・なんか聞いたことがあるけど・・・「食べ放題の歌が有名です。」「ああ、ヨーデルで食べホーダイって歌う、あれですね。」「そう、その作曲をしている方なんです。」「へー。」「他にもいい曲がありますよ。」・・・マスターがipadミニを出して、YouTubeで聴かせてくれる。なるほど、味わい深い。
お客さんとの関係からいろんな出会いがあり、そしてリピート山中さんのような方とも繋がっていくという話を聞く。その中に意外な有名人の話も出てきて、驚いたり、感心したりする。もう少し話したいので、「すみません、黒霧島(450円)をオンザロックでお願いします。」と注文。客はまだ自分だけ。マスターは器用に包丁を使って料理の仕込みをしながら、次々と話を聞かせてくれる。当然、帰りたくなくなる。
とはいえ、いつまでもいるわけにはいかない。今日はここまで。「マスター、楽しかったです。来て良かった。やっぱり最高にいい店ですね。」「また、お寄りください。ありがとうございました。」
外に出る。阿佐ヶ谷駅に向かって歩き始める。楽しかったなあ。しみじみ思う。空を見上げる。梅雨の合間の穏やかな夜だ。
東京都杉並区阿佐谷南2丁目21−9
03-3315-0751
Posted by hisashi721 at 16:35│
Comments(2)
110さん、ご無沙汰しております。今年の夏は暑すぎて、行動範囲が狭くなってしまいました。やっと涼しくなったので、また、江東区にも行きたいと思います。近いうちに亀戸に行こうかなと考えてます。いいお店があればまた教えていただけると嬉しいです。