土曜日(7日)。午後4時すぎに職場を出る。いつものようにバスで目黒駅に着いて、さて、今日は新宿駅近くの初めて行く酒場に向かおう、とそんな気になっている。電車は3分後にくると表示されている。ふと見ると、逆の内回り電車は4分後に到着との表示。そこで、考えが変わる。先日行けなかった店に行ってみようかな。それでスッキリしたいよな。うん、今日はまた亀戸に行こう。
電車が到着。土曜日とはいえ、意外に車内は混み合っている。吊り革につかまって、ぼんやりする。するといつの間にか品川駅に到着している。多くの乗客が降りて、席が空く。席に座ってスマホで読書する。・・・気づくと神田駅を発車している。東京駅にも気がつかなかったのか・・・。あっという間に秋葉原に到着。降りて総武線各駅停車の6番ホームを目指す。ホームで待つこともなく「西船橋」行き電車が入線してくる。
この前亀戸に行ったのは9月27日。まだ暑さが残っていて、半袖姿だった。それが10日ほど経っているだけなのに、上着なしでは寒いくらいだ。電車が隅田川を渡る。そこで視界が開けてスカイツリーが見えてくる、というのは先日体験した通り。ただ、なぜか今日はライトが点いていなくて、銀色の冷たい金属の塊のように見える。時間はこの前来た時とほぼ同じなのだが・・・。圧倒的な力強さでスカイツリーは聳え立っている。
亀戸駅に到着。駅前ロータリーには早くも夕闇が薄く広がっている。時刻は午後5時15分。一度来ているので、最短距離で店に向かう。駅前から北に伸びる通りを歩き、亀戸天神通りに近づいたところで左の道に入る。低いビル街を抜けると公園があって集合住宅がある。1階に店舗が並んでいて、その一つが、目的地である「高の」という店だ。今日はシャッターは降りていない。明かりも点いている。店に近づくと「商い中」の大きな木札が出ている。よし!店内へ。あれっ?入り口が葦簀を丸めたもので斜めに塞がれている。でも横を潜れば入れる。戸は空いていて、カウンターが見える。客はいないが、食器やおしぼりが置いてある。そこに店主らしき人が出てきてこちらを見る。「やってますか?」「いえ、営業は終了してます。」「・・・」「すみません。」「ああ、わかりました。」
うーん。この店を紹介してくれたのは、新宿思い出横丁「藤の家」のお客さん。以前亀戸に住んでいて、「この店はおすすめですよ。朝10時くらいから、夜も10時半くらいまでやってますしね。朝も昼も夜も飲めるって感じです。」・・・スマホで確認する。午後4時30分が閉店時間になっている・・・。情報が古かったか・・・。確認するのを怠るとは、元地元民の話なので油断してしまった。ということはこの前「臨時休業」じゃなくても入れなかったというわけだ。
すぐに気を取り直して、次の店に向かう。これもこの前と同じ展開になってしまってはいるが、もう場所もわかっているのでこちらも最短距離で・・・大通りに戻って、北上し亀戸天神通りを突っ切ってしばらく歩く。程なく「めしと酒」と書かれた看板が見えてくる。明かりが灯っている。よかったー。店の前に到着。店の名は「と㐂」。早速戸を開ける。左がL字型カウンター、右がテーブル席。店主ご夫婦は忙しそう。奥様と思われる方が自分に気づいてくれる。しかし「いらっしゃいませ」という言葉は出ず、?という表情。「1人ですが、入れますか?」「お一人様ですか。あいにく満席で。すみません。」「・・・そうですか。」外に出る。背中からご主人の「申し訳ありません。」という声が聞こえてくる。
はるばる亀戸まで来て、2回連続でこうなるとは・・・。どうする?駅に戻るか、それとも・・・。少し駅とは反対に歩いて、左に曲がる。飲食店が並んでいる通りに入る。この前もここを通った。歩いていると「九六三」という店がある。先日もこの前を通ったのだが、格子どのガラス越しに見える店内には客がおらず、店主らしき人がいるのみ。初めての店でこういうのも気まずいと思いスルーしたのだった。今日はL字カウンターの縦棒奥に2人客が座っている。もう歩き回るのはやめて、ここに決めよう。
戸を開ける。入り口右に4人用のテーブルが1つだけあり、あとは6、7席くらいのL字カウンター。やはり先客は2人。奥に50代くらいの女性、その隣に60代くらいに見える男性。カップルのようだ。入り口左の壁にテレビがあって、それを見ながら話をしているようだ。カウンターの中にマスターがいて、テレビを見ていた視線をこちらに向ける。・・・個性的。2ブロック髪の上の方を丁髷のように結んでいる。「1人ですけど、いいですか?」「どうぞ、カウンターへ。」ちょっと戸惑ったようではあるが、優しい声で迎えてくれる。Lの横棒の右端に座る。
卓上のメニュー表を見る。ホッピー、電気ブラン、焼酎、酎ハイ、サワー類、ハイボール・・・ビールの文字が見当たらない。ビールが飲みたかったのだが・・・「すみません。ホッピー(セット640円)ください。」・・・マスターがジョッキに氷を入れて、焼酎を注ぐ。そして、カウンター越しに渡してくれる。「ホッピーは、冷蔵庫から自分で出してください。」・・・テレビの下の壁沿いに中身が見える冷蔵庫がある。そこにはビールが冷えている。マジックで大びん780円と書いてある。ビール、あるじゃん。まあ、仕方ない。冷蔵庫を開けてホッピーの瓶を取り出す。席に戻って、カウンター上に置いてある栓抜きで栓を開け、ジョッキに注ぐ。
では一口・・・ふーむ。焼酎濃いめながら、ホッピー特有の優しい味。疲れが取れるよなあ。では何かおつまみを。メニュー表には「串焼き」が18種類。焼き鳥やもつ、豚バラが160円。はんぺんチーズなど2種類が170円、ささみ梅しそなど2種類が190円。その他、ポテトサラダや焼き餃子などが並んでいる・・・ん?メニューの端に『九六三からのお願い』とあって、「※おひとり様 最低1500円ほど食べていってください」と書いてある。こういうルールは初めて見たなー。厳密に運用されているのだろうか?
「レバー、ぼんじり、豚バラ、ももを塩で全部2本ずつお願いします。」と注文する。壁には大きな黒板があって、いろいろな料理が書いてある。お好み焼きや焼きそば、焼きカレーなどの食事物も多い。先客カップルが注文した「ニラ玉鍋」というのが美味しそうだ。鉄の小さな鍋にニラ玉が入っているのが珍しい。オムレツ風になるのが普通だと思うが、鍋料理になっているとは・・・。
ホッピーを飲みながら待っていると、マスターが「まずレバーからです。」と串揚げを置くバットのような容器の上に置いてくれる。取り皿も出てきたのでそちらに乗せて手元に。では、一口・・・ほー、ここのレバーもレアなんだな。中身には軽く火が通ってはいるものの、柔らかくねっとり感がある。これは美味しいなあー。ホッピー、ホッピー。続いて豚バラが置かれる。ぼんじりとももも置かれる。それを手元の皿に取って、豚バラから一口・・・んめー、豚の脂が甘く、それでいてクセもない。ジュシーな焼き加減で、噛めば噛むほど味わい深い。
40代くらいの男性客が入ってくる。Tシャツ姿。「いいですか。」「はい、いらっしゃいませ。」この人絶対に酔ってるという雰囲気。目が半分閉じているようだし、動きもなんとなくふらついている。しかし、怪しいという感じではなく、色白で、元広島カープの天才バッター前田智徳戦手に顔が似ている。そこは好印象。それに続いて30代後半くらいの女性が入ってくる。清楚。上品、買い物の帰りのようでレジ袋を下げている。「お二人様ですか?」とマスター。「はい。」とその女性が答える。えー、カップルなのー。男性が先客の右隣に座り、女性は自分の一つ左隣に座る。カウンターの角の席に直角に並んで座ったということ。女性が「この荷物ここに置いてもいいですか?」と品の良い声で自分に問う。「もちろん。どうぞ、どうぞ。」・・・バッと置いちゃってください!
「熱燗(390円)にするね。」「いいわよ、」「あとはんぺんチーズ(170円)食べたいな。豚バラしそ(170円)も」いいな。「そうね。そうしましょ。美味しそう。」・・・優しい女性だなあ。買い物帰りに昼飲みで出来上がった旦那さんにばったり会って、飲みに行こうと誘われて来たという感じかな。勝手に想像してしまう。いい雰囲気なのだ。熱燗の杯で乾杯したりして、仲良く召し上がっていらっしゃる。幸せそう。
ところで、自分は串を2本ずつ注文したはず。1本ずつ4種類出てきたので、あれ?1本ずつと思われたかなあと思っていたら、4種類食べ終わったところで、またレバーが出てきた。そうか。飽きさせないように、また、熱いうちに食べられるように分けて焼いてくれたんだな。「なか(焼酎250円)入れましょうか?」「お願いします。」焼酎はジョッキの8割くらい入ってくる。氷が入っているとはいえ、濃いはずだ。残りのホッピーを入れる。入れ終わってもまだホッピーは3分の1ほど残る。まだ1杯分あるな。
この店の串焼きは、宮崎名物の地鶏焼きのような感じ。ちょっと表面が黒くて、香ばしさもある。それがまた美味しさにつながっている。ホッピーが進む。早くも「なか」おかわり。・・・熱燗を飲み終えた隣の女性が「もう帰りましょ。」と言う。男性が「うん。そうしようかな。」と答える。いいなー。「もう十分酔っ払ったでしょ。いつまで飲んでいるつもり。私まで巻き添えにして。いい加減にして。」などと言う言葉は絶対にこの女性からは出てこないだろうなー。
「ごちそうさまでした。会計をお願いします。」と女性がマスターに声をかける。えっ、いいんですか?」とマスターが驚いたように答える。ん?「じゃあ、すみません。ちょうど300円になります。」・・・え?熱燗と串2本で3000円?・・・女性は千円札を5枚くらい手元に用意していて「3000円でよろしいんですか?ではこれで。」とその中から3枚の札を渡す。マスターが「お一人1500円以上お願いしておりまして、それ以下でも1500円になります。お二人なので3000円ということになります。それで、よろしいんですか、と言ったんです」と説明する。女性の方はピンと来ないようで「そうなんですか。すみません。」と逆にすまなさそうに謝っている。そして、「とても、美味しかったです。ご馳走様でした。」とにっこり笑って席を立つ。自分にも「失礼しました。」と挨拶してくれる。こういう店にはあまり来たことないんだろうなー。
さて、自分もこの辺で。「マスター、ご馳走様。」「ありがとうございます。2420円です。」・・・1500円ルール、クリア!「串焼き、美味しかったです。特にレバーはめちゃくちゃ美味しかったです。」とマスターに声をかける。マスターは「ありがとうございます。」と笑顔で答えてくれる。
外に出る。風が肌寒い。季節は一気に移り変わったようだ。あの男性、半袖Tシャツ一枚だったから、寒かったんだろうな。それで、熱燗飲みに寄ったのか。少し笑ってしまう。でも、幸せそうな人を見ると、こちらも嬉しくなる。亀戸まで来て良かった。歩きながら心が暖かくなっているのを感じる。

東京都江東区亀戸3丁目61 ミオ亀戸
Posted by hisashi721 at 16:45│
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