またまた新宿駅の東南口にいる。時間も午後5時過ぎ。今日は昼食を食べていないので、この辺りで食事をして帰ろうと思ったのだ。先日、「千草」に行ったときに、駅前の「長野屋」が目に入り、「ここで食堂飲みというのもいいな」とチラッと頭をよぎった。というわけで、食事をするなら長野屋で、と思ったわけだ。駅から近いしね。
改札を出て、エスカレーターで駅前広場に降りる。道を渡れば、そこに長野屋はある。戸は開け放されている。店の中に入ると、先客はおじさん一人。しかも、定食を食べ終わって、会計に立つところ。「こんにちは。」と、店のおばさん・・・じゃなかった、お姉さんに挨拶して、ちょっと迷ったが奥の壁際のテーブルを選んで座る。テレビが見える席にしようかなと思ったが、そのテーブルはまだ片付けられていなくて、空いた皿とビール瓶が置かれている。片付けてくださいというのもどうかと思い、奥の席にしたのだ。
「いらっしゃい。」とお姉さんがお茶をもってきてくれる。「カツカレーをお願いします。それと・・・」「カレーは仕込み中。ほら。」促されてテーブルの上のメニューを見ると。「カレー仕込中」と手書きのメモが貼られている。えー、長野屋っていえばカツカレーじゃん。・・・すっかりカツカレーが頭の中を占めていたので、途方に暮れるといえば大袈裟だが、何を注文していいか分からなくなる。
「カレーはねえ。いつごろできるかねえ。夜中の2時くらいかねえ。」などとお姉さんがつぶやく。冗談か本当か分からない言い方だが、とにかくカレーはできないということ。「じゃあねー、うーん」メニューを見回す。・・・「肉豆腐定食(830円)とビールの大瓶(760円)をお願いします。」と注文する。「ビールは大瓶でいいの?」「大瓶で。」
お姉さんがビール瓶とグラスを持って来てくれる。「本当に大瓶でいいの?焼肉定食が来る頃にはお腹がガバガバになってるんじゃない?」「それは、大丈夫。喉乾いてるし、小瓶じゃとても足りないから。それに、焼肉定食じゃなくて、肉豆腐定食なんだけど、そっちは大丈夫?」「お腹いっぱいになっちゃうね。絶対。」と言いながらレジの方に行ってしまう。肉豆腐、大丈夫?・・・まあ、とりあえず、ビールを一口・・・んめー。
ビールを飲んでいると、お姉さんがまたやって来て「寒くない?」と問う。見ると裏のドアも開け放しになっている。今日はこの時間になってもあまり気温が下がらなかったので、気になっていなかった。「寒くはないかな。」「そう。よかった。ねえ、もんじゃ焼きっておいしいのかなあ。」「は?」「いや、さっき外を歩いてた女の子が、もんじゃ焼き食べたいって言ってたから。」「ああ、まあ、見た目はもう一つだけど、食べてみると美味しいよね。」「そうかなあ。私、もんじゃ焼きとかお好み焼きとか食べたことないから。」「お好み焼きも食べたことないの?」「ないよ。」「美味しいよー。」「よく食べるの?」「まあ、時々。」「出身は?」「広島。」「それじゃあ、好きでしょ。」「広島の人じゃなくても好きだと思うけど・・・。」
こういう会話を書くと、なんだか顔なじみの様な印象を与えてしまうかもしれないが、このお姉さんと話すのは初めてだ。多分手持無沙汰で話しかけてくれたと思うが、この人は初対面の人でも、親しい人と話すみたいに接することができるようだ。それは、素晴らしい。・・・外国人らしい女性が二人入って来る。さらに新規のおじさんが一人、さらに若いカップルが続いて入って来る。店は忙しくなり、お姉さんはその客の方に行ってしまう。
この店の厨房は2階。料理は小さな専用の昇降機で降りてくる。空いた皿や食器は逆にその昇降機で上にあげるというシステム。その昇降機が降りてくる音がして、ランプが点滅する。自分の定食が降りてきたんだなと期待する。が、なかなかお姉さんは取りに来ない。洗い物の食器を集めているらしい。それらを持って来て、昇降機を開けて棚に置く。そして、ようやく定食のトレーを持ち上げて自分のテーブルにやって来る。
「はい。お待たせしました。」・・・ちゃんと肉豆腐定食が届く。味噌汁とお新香の小皿が添えられている。ご飯の量は想定より多い。肉豆腐は煮汁が染み込んでいて濃い色をしている。それがまた食欲をそそる。では、まず、豆腐から、一口・・・これはもうご飯が欲しくなる味。すき焼きのようにほの甘く、また濃い味付けがいい。ご飯、ご飯・・・ご飯美味しい。さすが創業100年を超える食堂。ご飯の炊き加減が素晴らしい。ご飯、味噌汁、お新香、豆腐、肉、ご飯、ご飯・・・こういう定食を食べるのって久しぶりだけど、ご飯が止まらないなあ。美味しい!
夢中で食べ終わって、さて今日はここまで。「ごちそうさま。」レジに向かう。会計を済ませながら、お姉さんに話しかける。「これから、寒くなるね。」「当分、朝は寒いけど、昼間はそうでもないみたいだよ。まあ、風邪ひかないように。また来てね。」「じゃあ、また。」
外に出る。駅前広場に向かって歩き始める。日は暮れて行き、ビルの灯が都会の夜を彩り始めている。振り返ると、小さな食堂がまるで時代に抗うようにそこにある。
東京都新宿区新宿3-35-7
03-3352-3927
Posted by hisashi721 at 12:51│
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