2023年11月03日

不思議な空間・・・目黒「蔵」

IMG_20231101_195919午後640分、職場を出て、目黒行きのバスに乗る。今日から11月。流石にこの時間はすっかり暗くなって、季節の移り変わりを実感するのだが、気温はあまり下がらず、気持ちの良い夜だ。20分ほどで目黒駅に到着。午後7時の駅前は、多くの人が行き交い、活気に満ちている。

 

普段なら、すんなり改札に向かうところなのだが、今日は電車に乗る前に寄り道したい気分。というのは、この所、ストレスの多い仕事が続いていたのだが、今日でそれが一段落着いた解放感に満たされているからだ。目黒駅西口前の横断歩道を渡り、目黒通りを権之助坂方面に少しだけ歩くと、サンフェリスタ目黒という9階建てのビルがある。飲食店が多く入っているビルなのだが、1階と地下は飲食店街になっている。

 

このビルがオープンしたのは1994年というからもう30年になる。その前は小さな居酒屋やスナックが立ち並ぶちょっと怪しげな場所だった。そこを再開発してビルを建て、そこにあった小さな店が1階と地下に入ったという経緯だったと思う。もちろん30年もたてば店も入れ替わってしまっているが、当初からあった店も残っている。だから、ビルの中ではあるが、なんだか新宿の思い出横丁やゴールデン街の雰囲気もある。ただ、シャッターが閉まっている店舗もあって、少々寂しい感じもするが・・・。ビルに入る。1階の通路を少し歩くと赤提灯が見える。ドア越しに覗くと、なんとか空席はあるようだ。40人以上は入れると思うが、8割くらいの入り。


中に入って、店員さんを探す。ちょうど奥から出てきたアジア系外国人のお姉さんと目が合う。「いらっしゃいませー。」と大きな声で叫ぶお姉さんに「一人。入れる?」と声をかける。「カウンター、どうぞ。」と大きな声が返ってくる。「すみません。一人なんですけど、席空いてますか?」などと丁寧な言い方をするより、外国人の店員さんには短くはっきり言う方が伝わりやすいという経験から出た言い方。

 

IMG_20231101_190826店中央のコの字型カウンターの、上の横棒の左から2つ目に座る。カウンターは、2人ずつ座れるベンチのような席が5つで計10席。だからなんとなく相席っぽくなる。自分の右隣は30代くらいの自由業っぽい男性。ホッピーを飲みながら枝豆を食べている。座るとき挨拶をしたが、それ以後会話はなし。カウンターの中の外国人店員のお兄さんが、おしぼりを渡してくれる。「生ビール(450円)ね。」「ん?な・・・」「生・ビール!」「生?」「生!」で通じたらしく、奥に向かって「生、一丁!」と叫んでいる。

 

IMG_20231101_185829生ビールはすぐに届く。では、早速一口・・・うーん、うまぁーい。お疲れ様、自分。それにしても意外にこの生ビール、量がしっかりあるなあ。これで450円は安いよな。メニューを確認すると瓶ビールは大瓶で480円。今時この値段は奇跡に近い。今年行った店の中で最安値だ。ちなみに最高値は960円。

 

では、料理を。卓上のメニュー表を眺める。ふむふむ、焼き鳥の種類も多いなー。1100円からとはこれも安い。あとは揚げ物とか刺身をはじめとした一品料理。ホワイトボードにおすすめもある。揚げ物を一つ・・・鳥唐揚げもいいけど、今日は時間的にもサクッと行きたいから・・・ゲソ唐揚げ・・・これがいいかな。あとはお刺身を・・・タコ刺しがある。とりあえず、注文しよう。

 

IMG_20231101_200038お兄さんに「ゲソ揚げ(320円)と・・・」「げ?」「げ・そ・・・んーとね、これ。」メニューを指差す。「んー。」そこにお姉さん登場。外国語で会話している。「ゲソ揚げね。」とお姉さんに言うと、「ゲソ揚げね。」と答えてくれる。「それとタコ刺し(450円)」「はい、タコ刺し。」うんうん。というわけで注文が通る。お兄さんは、日本語は全然ダメみたい。メニューの文字も読めないらしい。でも、その分働き者で、テーブルを拭いたり、食器を片付けたり、フロア係のお姉さんたちから飲み物の注文を聞いて作ったりしている。

 

カウンターのお客さんは様々で、サラリーマン風の人もいれば、年配の人もいる。常連さんも5、6人いて、大きな声で話している。常連さん同士は知り合いで、年齢はまちまちだが、親しげに話をしている。サラリーマン風のお客さんが「おかわりね。」とお兄さんにジョッキをあげて注文する。「ん?」「おかわり。」「中?」「違うよ。ウーロンハイ。」さっきのお姉さんがフロアから外国語で声をかける。お兄さんは納得して、ウーロンハイを作り始める。なんだか、ほっとする。

 

IMG_20231101_190532ゲソ揚げが届く。レモンを絞って、一口・・・揚げたてで熱―い。でも美味しい!イカって油で揚げると本当に美味しくなるなー。自分はイカ刺しとかイカの握り寿司とかはどちらかというと苦手なのだが、イカリングとかイカ天とかは大好物。特にゲソはコリコリとした歯応えがいい。美味しいなー。ビール、ビール、合うなー。

 



IMG_20231101_190939続いて、タコ刺しも届く。意外と量は少ないが、まあ値段を考えれば妥当。さて、一口・・・うん!美味しい。甘味もあり、サクサクとした噛みごたえもいい。美味しいなー。ビールを飲み終えたので、次の飲み物を・・・ハイサワーとかバイスとか目黒っぽいメニューがあるなあ。焼酎や日本酒もいいけど・・・ここは・・・。目の前のお兄さんではなく、お姉さんを探す。目が合ったので、手を挙げる。近づいてきたお姉さんに「ホッピー(400円)ね。」「白?」「白!」

 

IMG_20231101_191007ホッピーセットが届く。ジョッキには氷と焼酎。あれ?焼酎が底から3cmくらいしか入っていない。しょぼいなあ。ホッピーをジョッキの半分だけ入れて、アルコール濃度を調整する。一口・・・まあ、こういう味だよな。でも、ホッピー独特の爽やかさもあって、美味しい。

 

左隣のお客さんは2人組の50代男性。声がだんだん大きくなってきている。「碑文谷にダイエーがあっただろ。その近くの駐車場に焼き鳥屋があったんだよね。」「ああ、小さな屋台みたいな小屋で持ち帰り用の焼き鳥を売ってた店な。」「そうそう。そこの親父な、あの辺りの地主で、趣味でやってたらしいんだ。だから、お客さんに対して、態度がデカかったんだってわけ。」・・・ああ、あったなー、ダイエー近くの焼き鳥屋さん。いつも、いい匂いが漂っていて、一度買ってみたかったが、いつの間にかなくたってた。ダイエーも今じゃイオンスタイルに変わっちゃったんだよなー。思わぬ記憶を呼び戻してもらった。

 

右隣のお客さんが席を立つ。二人席なので、ちょっとゆったりと余裕ができた、と思ったら、若い女性が入れ替わりに座る。非常におしゃれでモデルさんかタレントさんのようにも見える。「このゴーヤチャンプルって、量は多い?」とお店のお姉さんに尋ねている。「まあ、多めだけど、食べられる量よ。」「じゃあ、それ、お願い。」みたいな会話。注文したレモンサワーが届くと長い髪の毛を結んで、臨戦態勢に入る。キリッとして、カッコいい。

 

中(焼酎260円)を注文しようかと思うが、お姉さんは向こうのテーブル席にいて忙しそう。そこで、目の前のお兄さんに、ジョッキを指さして、「中!ね。」と注文してみる。「ああ、中。」すんなり伝わる。伝票に「中」と漢字で書き込んでいる。お兄さんは、まず、中という業界用語から覚えたと思われる。さっきのウーロンハイの注文も「中?」とまず尋ねてたしな。お兄さんがジョッキに氷を継ぎ足して、焼酎を入れて届けてくれる。今度は、ジョッキの6割くらいまで焼酎が入っている。安心して、ホッピーをジョッキの上まで満たす。

 

IMG_20231101_193715の店は、入り口左に大きなテーブル席。一人客でも、複数の客でも対応できる席。入り口右の壁沿いに長いサブカウンター席。真ん中に、今自分が座っているコの字カウンター。その奥にテーブル席が奥の壁前に並んでいる。空いていたテーブル席に4人組の女性客が入ってきて、ほぼ満席になる。賑やかな雰囲気の中での1人飲みだが、1人客も多いので、孤独感はない。むしろ、リラックスできている。

 

中をおかわりして、ホッピーの瓶が空になる。では、もう一品、ということで、近くに来たお姉さんに「コロッケ(150円)ね。」と注文。「1個?2個?」「1個!」「OK。」2個でも300円だからなー。安っ!・・・右隣のカッコいい女性は、いい飲みっぷり。飲み物の注文が早い。自分はゆっくり3杯目のホッピーを飲んでいる。コロッケが届く。ソースをお兄さんが持ってきてくれる。目が合う。お兄さんがにっこり笑う。「ありがとう。」という言葉が自然に出る。

 

IMG_20231101_194013では、コロッケにソースをかけて、一口・・・熱っ!揚げたてなのを忘れてたよー。でも中の芋がきめ細かく擦り潰されているのか、クリーミーな感じがして美味しい。ハフハフしながら、食べる。美味いよ、これ。2個にしとけばよかったかな、と後悔するほど。そこに、ホッピー・・・んめー。いいねー。

 

ホッピーを飲み終えて、今日はここまで。席を立つ。カウンターの中のお兄さんに「ごちそうさま。」と声をかける。笑顔でこちらを向いて、そして「ありがとうございます。」と少々ぎこちないが元気な声で送ってくれる。レジで会計を済ませながら、お姉さんにも声を掛ける。「気を遣ってくれてありがとう。」「いえ、いえ。ありがとうございます。またどうぞ」「じゃあ、また。」

 

店を出て、通路を通って、ビルの外に出る。目黒駅周辺も再開発で高いビルが立ち並んでいる。寒くない11月の夜。不思議な空間の中にいるような気がする。

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東京都品川区上大崎2丁目27 サンフェリスタ目黒1F

03-3491-1098


Posted by hisashi721 at 09:46│Comments(0)