土曜日(4日)。午後4時過ぎ、職場を出る。いつものようにバスに乗り、目黒駅に到着。やけに暑いなあ。季節柄スーツ姿だが、上着が邪魔に感じるほどだ。11月になっても、日中の高い気温は続いている。半袖のクールビズでもいいくらいだ。山手線外回り電車は、空席はないが、平日と違ってゆったりとしている。
新宿駅に到着。改札を出て、そのまま地下を通って、サブナードに向かう。サブナードの地下商店街を抜けて一番奥のダイソーの手前の階段を上り外へ出る。外に出ると新宿区役所。第一分庁舎角の横断歩道を渡り、ミスタードーナツの右横から遊歩道に入る。新宿らしからぬ木立の下の道を歩いていくと、新宿ゴールデン街が見えてくる。すごい行列ができている。おそらく「煮干しラーメン凪」に続く列だと思われる。外国人も多い。
一旦、花園神社裏に出て、吉本興業本社方面に少し歩いて、ゴールデン街の3つ目のブロックを目指す。花園神社といえば「酉の市」。11月11日が一の酉だ。いつもなら寒い印象があるが、今日はこの時間でも汗ばむ陽気。もう上着を脱いで手に持っている。さて、目指す店はすぐに見つかる。午後5時を回っているが、ゴールデン街でこの時間に開店している店は少ない。だから、すぐに灯りがついている看板が目立ったのだ。
先週のことだ。新宿思い出横丁の「藤の家」に行くと、常連のFさんがカウンターでうつらうつらしている。隣の席に座って、ビールを飲んでいると、Fさんがこちらを見て「ああ、こんにちは。」と言う。「何時から飲んでいるんですか?」「朝から。」「朝?!」・・・すると、ママさんが、「正確には、昨日の夕方からでしょ。」と言う。「どういうことですか?」「昨日の夕方5時からゴールデン街で飲み始めて、一晩中飲んで、それでウチに朝から来て、それからずーと飲んでるの。」・・・すげー。
で、どこで飲んでいたのかと尋ねると、Fさんがゴールデン街の店の名を答える。「青森出身のママさんがやっててね。狭い店だけど、雰囲気はいいよ。行ってみる?」「いやいや、今日はもう帰ったほうがいいんじゃないですか。」「そうだなー。でも、その店紹介制なんで、一見客は入れないんだよ。」「じゃあ、またの機会ということで。」「そうだ、電話しておこうか。一人で行っても入れてもらえるように、名前を知らせておいてあげる。」「いつ行けるかもわからないので、そこまでしていただかなくても・・・」・・・もう電話してる。「もしもし、ママさん?Fですけど、今度、寄り道さん(もちろん自分の本名を告げてくれたのだが)という人が店に行ったら入れてあげて。そう、近いうちに一人で行かれるみたいだから。よろしくね。うん、うん。じゃあ、また。」・・・「電話しちゃいましたね。」「うん、これでいつ行っても大丈夫。」・・・うぐ。
わけで、今店の前に立っている。木のドアはピッタリ閉められている。ゴールデン街の店らしく古びているが、その分歴史を感じさせる重みがある。1984年に開店したという重み。入りにくいなあー。紹介制というのもプレッシャーだ。常連さんに睨まれたら嫌だなあ、などという思いがチラついたが、ここまで来たら、もう入るだけ。ドアノブを捻って、ドアを開ける。
ドアを開けると、カウンター7席ほどの店。カウンターは奥の方で右に直角に折れている。一見してとてもいい店であると感じる。入り口すぐのカウンター席にママさんと思われる女性が座っている。「こんにちは。」と声をかけると、誰?という表情。「あの、Fさんから電話で紹介してもらった者なんですけど。」・・・え?そんなことあったっけ。とにかく一見のお客さんはウチでは入れないの・・・なんて言われたら嫌だなあ・・・「寄り道さん?」「そうです!」「あなたが寄り道さんね。で、何?」「は?とりあえず、飲みに来たんで・・・」「飲むのね。じゃあ、どうぞ。こちらの席へ。」照明がちょっと暗めになって、営業モードになる。ママさんはカウンターの中に入る。入り口から3番目の席に座る。ふい〜。
「何を飲む?」「じゃあ、ビール(500円)をいただきます。」ママさんがグラスを用意する。「悪いけど、後ろの冷蔵庫から自分でとってくれる?ビールだけはそっちに入っているの。」振り向くと後ろに小型の冷蔵庫がある。ドアを開けるとサッポロ黒生の中瓶が20本くらい入っている。「そうそう、そこからとって。」「はい。」ビール瓶を渡すと、ママさんが栓を抜いてくれる。グラスに注いで、一口・・・ああ、うま〜い・・・喉を通っていく冷たいビール心地よい。お疲れ様、よくここまで来たな、自分!
お通し(2品1000円)が出てくる。昆布の佃煮とぜんまいのおひたしだ。では、昆布から、一口・・・ああ、この味、濃いんだけど、なんという美味しさだ。いい味だなあー。ぜんまいはどうかな、一口・・・これもシャキシャキ、少しの粘り気・・・いいねー。ビール、ビール。うんめー。「ママさんは青森出身を聞いてますけど。」「そう。青森。だから、ここで出すのも青森のものなの。」「なるほど。美味しいですね。」「ありがとう。」
自然と話題はFさんのこと。自分がFさんのルーツを探しに「真夏の大冒険」をした話をする。「へえー、そんなことがあったの?面白いねえ。」みたいな会話。「Fさん、お酒強いんだよね。だから、あんな飲み方になるんだけど、却って心配よね。あなたはどんな飲み方をする?」「自分はそんなに長時間飲むのは無理です。飲んでると眠くなっちゃうんですよ。だから、いつも短時間でお店を出てしまいます。」「それがいいのよ。いいお酒ね。」・・・褒められた。
こんな調子で、会話が進む。初めて会ったとは思えないほど、いろいろな話題が出てくる。さすがゴールデン街の飲み屋のママだ。初めて来て、そして2人きりなのに全く気まずくない。それどころか、楽しくてたまらない。「ビールを飲んじゃったので、ウイスキー(500円)にしますね。オンザロックでお願いします。」「ウイスキーを飲むのね。」ママさんが氷を用意してくれて、ロックグラスに入れ、ウイスキーを注いでくれる。そしてチェイサーの水も出してくれる。「水を飲みながらね。」・・・心遣い、嬉しー。
では、ウイスキーロックを一口・・・スコッチ?ブレンディッドのいいやつ。ボトルを確認してなかったけど、これは美味しい!こんな雰囲気のある、新宿ゴールデン街の老舗の飲み屋でウイスキーのオンザロックを飲んでいるなんて・・・いいものだな。本当に癒される。「あなたの趣味は何?」「うーん、何かなー。まあ、こうやって飲むことが趣味の一つであることは間違い無いですね。」「そうね。私たちはそうかもね。」・・・私たち!
男性客が一人入って来る。40代かな。「どうも。」と言いながら奥に入って、カウンター席に座る。ママさんが棚からサントリーの角瓶を取り出す。常連さんかな?さて、どう挨拶したものか・・・「こちらOさん。写真集を出してるのよ。で、こちらが寄り道さん。西武線の鷺ノ宮の人。Fさんというお客さんの紹介で来てくれたの。」とママさんが仲を取り持ってくれる。「よろしくお願いします。」「私も西武線で。」「えっ、どちらですか?」「花小金井なんですよ。」・・・もう友達。
Oさんの娘さんの話とか、写真の話とかで盛り上がる。ウイスキーのオンザロックもおかわり。ママさんはほとんど聞き役で、よく笑う。だから、気持ちよく喋れる。Oさんは一人飲みが苦手だったのだが、知り合いがこの店に連れてきてくれて、その後この店なら一人で飲めるようになったのだとか。「自分はむしろ一人飲みの方が多いんですよ。」なんて言ってみる。楽しい!
年配の2人客が入ってくる。そろそろ常連さんが来る時間になってきたのかな。今日はここまで。「ママさん、ごちそうさま。楽しかったです。」「私もいい話を聞かせてもらったわ。」「また来たいです。」「どうぞ、おいでください。お待ちしてます。」
外に出る。新宿の夜はこれから。ゴールデン街の店もポツポツ開店し始めている。西武新宿駅に向かって歩き始める。さすが土曜日の夜。ものすごい人出だ。その中の一人であることの幸せを思う。
東京都新宿区歌舞伎町1-1-8
03-3200-9108
Posted by hisashi721 at 16:22│
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