昨年の7月末に閉店した、高田馬場の名物蕎麦屋「吉田屋」のことはこのブログでも紹介した。朝から昼の1時30分くらいまでが蕎麦屋、そして、夕方5時からは寿司屋という二毛作の店として有名だった。しかし、駅前再開発の波には抗えず、無念の閉店となったわけだが・・・。1年以上たっているけど、寿司屋は営業している。もちろん、建物はそのまま。
確かに、高田馬場の駅前は徐々に再開発が進んでいるようだ。その波はいつこの店に襲い掛かるのだろうか。
夕方6時。高田馬場駅早稲田口改札を出る。ロータリーに出て、そのまま左へ。早稲田通りの横断歩道を渡るとすぐに、幸寿司の前に着く。この時間、帰宅を急ぐ人々の群れがこの店の前にも続いている。その人たちの間を縫って、引き戸に手を掛ける。マスターは昔通りの笑顔で迎えてくれるかな。
戸を開ける。「こんばんは。」と声をかけると、「いらっしゃい。どうぞ、空いている席へ。」とマスター。70歳を超えたくらいかと思うが、元気な声が響く。この店はマスターのご両親が昭和22年に創業したという。2代目のマスターはBIGBOXができた頃店を継いだとか。ということは50年くらいここで頑張っているということだ。先客は若い女性一人。カウンターは厨房に沿って、マスターの前に5席ほど、マスターの左手側に3席。女性客は正面の奥、壁際に座っている。
自分は左側のカウンターの真ん中に座る。すぐに「飲み物はお茶でいいですか?」とマスターが問う。そんなわけないよー。「ビール(アサヒスーパードライ中瓶600円)をお願いします。」と注文する。さて、お寿司はどうする?つまみを切ってもらって、名物のまぐろの脳天を握ってもらって・・・、などとも考えないではないが、ここでしみじみと酒を飲むのも、無粋な気もしてくる。握りのメニューはかつては上、特上、特選と3段階あったが、上と特上はガムテープが上から貼ってあるので、今はもうやってないようだ。特選(2000円)のみ。
ビールが届く。グラスにビールを注いで、一口・・・いやー、今日も美味いねー。「マスター、特選お願いします。」と注文する。今日は一人前握ってもらって、さっと帰るつもりになっている。やっぱりこの店は長居するところじゃないと思う。久しぶりに入った店の中を、少し古びたなあなどと眺めながら、ビールを飲み、寿司を待つ。これが今日の幸せ。
寿司は丁寧に握られて、一つ一つ皿に盛られていく。最後に巻物が加わって完成だ。「はい、おまちどおさま。」カウンター越しに、マスターが皿を渡してくれる。受け取って、しばし鑑賞する。大きなネタ、シャリも大き目。昔ながらの、という言葉があっているかどうかは分からないが、どこか懐かしい寿司の佇まいだ。美味しそうだなー。
戸が開いて、若い男性客が入って来る。奥の女性が嬉しそうに、本当に嬉しそうに手をあげる。「ああ、お待たせ。」と男性客がちょっと戸惑って表情で女性の隣に座る。思っていた寿司屋の雰囲気とは違っていたらしい。キョロキョロと周りを見回している。「飲み物はお茶でよろしいですか。」と例によってマスターが問う。「えーと、ビールで。あと、一人前で。」と注文している。それを女性が笑顔で見つめる。ものすごく幸せそうだ。いい感じ。
さて、お寿司を頂きますか。では、まぐろのトロから・・・わー、口の中で溶けて、そして良質な脂の風味が口の中に広がる・・・それが更にすし飯が追いかけて・・・んめー。やっぱりいいね、幸寿司。ビール、ビール。奥で静かに語り合うカップルの邪魔をしないように、控えめな声でマスターに話しかける。「6月だから、ちょっと前になるんだけど、大井町の彩彩に行って来ましたよ。夜だったから、お兄さんはいなかったし、お姉さんにも会えなかったけど、一回行きたかったから、行けてよかったです。」「そうですか。」・・・蕎麦屋の吉田屋のママさんはマスターのお姉さん。そのご主人が大井町でママさんの名前を一字取って「彩彩」という蕎麦屋をやっている。その店も二毛作で、夜は居酒屋さんだ。
男性客のお寿司を握りながら、マスターが笑顔で答えてくれる。でも、おしゃべりはここまで、寿司を味わうことにする。男性の一人客が入って来る。30代くらいだと思われる。「燗酒と特選ね。」と注文も慣れた様子。さらに男性が一人はいってくる。スマホで情報をチェックしながら、「えーと、特選をお願いします。」と注文。大学生だと思われる。イメージ的に年配の常連さんばかりのような気がするが、今日は若いお客さんばかり。ネットの力かな。安いし、駅前で場所が分かりやすいし。
マスターはお寿司を握り続けている。ビールも残り少なくなったので、燗酒でも注文しようかな、などと考える。でもな・・・、やっぱり今日はサッとつまんでサッと帰ろう。「マスター、お茶をいただけますか。」「はい、お茶ね。お待ちください。」大きな湯飲みにマスターがお茶を注いでくれる。お茶が届く。寿司屋特有の濃いお茶だ。これは握り寿司ととても合う。
最後に巻物を頂いて、今日はここまで。「ごちそうさまでした。」「ありがとうございます。」会計を済まして、「じゃあ、また。」と頭を下げて外に出る。駅前ロータリーには大勢の人が行き交い、その向こうはBIGBOX。いつもの風景だ。振り向けば、小さな店が時の流れの中にポツンと灯りをともしている。
東京都新宿区高田馬場2丁目19−6
03-3209-5955
Posted by hisashi721 at 16:12│
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