2023年11月26日

人生を支えるもの・・・南砂「山城屋酒場」

IMG_20231125_1807471125日土曜日。午後2時30分。早めに職場を出ることにする。いつものようにバスでJR目黒駅へ。時計を見ながら、山手線内回り電車に乗る。少し時間が早いので、430分閉店という「亀戸」の店に行くつもり。なんといっても、店の前に2度も行ったのに入れなかった店だ。1度目は臨時休業2度目は閉店時間を過ぎていた・・・。でも、今日も微妙な時間だなあ。

 

秋葉原駅で総武線各駅停車「津田沼」行きに乗り換え。電車が隅田川を渡り、「両国」駅に近づくとスカイツリーが間近に見えてくるのにも、もう慣れてきた。しかし、時間がますます微妙に・・・「亀戸」駅到着は午後340分。これから10分弱歩いたとして、4時近くなる。そうなると、ちょっと厳しいなあ。外は師走並みの寒さ。ギリ大丈夫と見てコートは着ていなくて、普通のスーツ姿。寒い中歩いて、行ってすぐ帰るのもなあ。どうする?

 

IMG_20231125_155511迷いながら階段を降りていると、三鷹行きの電車が入線するというアナウンス。戻ろう!「両国」に、久しく行けてない店がある。そこは午後7時までやっていたはず。いい機会かも。というわけで階段を上り、三鷹行き電車に乗る。駅を2つ戻って「両国」駅に到着。改札を出れば、国技館。江戸東京博物館は休館中とか。国技館を回り込むようにして、その店に向かう。しかし・・・やっと、ついた店の入り口には、思ってもみなかった「本日休業」の札がかかっている。寒っ!

 

IMG_20231125_155326なんとなく、こういうことにも慣れたような気がする。まあ、この街でどこかいい店を探そう。駅を抜けて反対側に出て、東口の方に向かう。「横綱通り」という飲食店街に入る。ちゃんこ屋さんばかりだなあ。午後4時くらいだから、空いている店も少ない。んー、良さそうな店だと思ったが、立ち飲み屋さんかー。悪くはないけど、もっと落ち着けるところはないかなあ。チェーン店でもいいかな。いやいや、せっかく遠くまで来たんだから、それらいしい店を探し当てたい。・・・が、ない。少なくとも、この時間にこのあたりで空いている店はない。

 

歩き回って、たどり着いたところは国道14号線。通称京葉道路。バス停がある。「両国4丁目」がバス停の名前。どこに行くんだろう?路線図を見る。ふむふむ。西大島駅を通って北砂2丁目を経由して「葛西橋」まで行くのか・・・といっても土地勘なし。それにしても寒い。手が冷たくなっている。そこにバスが近づいてくる。都バス「葛西橋」行き。寒いし、乗っちゃえ!


バスは知らない通りを走る。北砂・・・そうだ、「山城屋酒場」というどの駅からも遠いという名酒場があるが、その店の前のバス停が、確か「北砂1丁目」。そこは通らないけど、2丁目とか3丁目というバス停はあるのだから、そこから近いんじゃないかな。よし、覚悟を決める。土曜日の「山城屋酒場」は多分満席。運が良ければ・・・。

 

IMG_20231125_180729車窓から見る街は、どんどん日暮れて暗くなり、郷愁どころか不安を煽ってくる。「北砂2丁目」バス停には、20分以上分かかって到着。とりあえず降りる。時間は午後515分前。さらに寒くなっている。頼りはスマホのナビだが、「山城屋酒場」はものすごく遠いということが分かる。とにかく、ナビにしたがって進む。なかなか趣のある街並みで、途中、」神社があり、寒い中着物姿の女性が写真を撮っている。なんか細い道を通って、歩いていくと大通りに出る。「清洲橋通り」と表示されている。やっと来たー。横断歩道を渡り、しばらく歩くと、「山城屋酒場」だ。時間は午後5時。

 

寒くて、体が冷え切っているので、躊躇わず暖簾をくぐり、戸を開ける。案の定というべきか。入り口から奥に向かう8席のカウンターは満席。左のテーブル席も全て埋まり、奥の座敷は空いているがテーブルには宴会用と思われるセットが準備されている。万事休す。この寒い中、西大島駅からも錦糸町からも、東陽町からも離れているこの場所から歩いて帰るのか・・・。タクシー止められるかな、ぐすん。

 
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カウンター奥の女性店員さん、通称「ハルさん」がこちらを見る。「一人ですが、ダメですよね。」と表情とジャスチャーで伝える。すると・・・えー、ちょっと考える仕草。何、何?はるさんがこちらに近づいてくる。「530分から予約が入っちゃったから・・・」「そうなんですね。」「ちょっと難しいかな。」「そうですね。」「ゆっくりできないわね。」「ん?ゆっくりできなくてもいいですけど。少しでも。」「そう、ちょっと待ってて。」何、何?一番奥のテーブルは予約席のプレート。女性が一人座っていて、人を待っている様子。そこ女性にはるさんが、何か話しかけている。女性が頷く。はるさんがこちらに戻ってくる。「彼の方、530分にご主人を待ち合わせしてるんだけど、それまでだったら大丈夫。」30分!「ありがたいです!」幡ヶ谷目黒のあの店の人たち、これこそプロの仕事なのだよ。

 

テーブルでスマホを見ている女性客に、「すみません。ご主人が来る前にいなくなるんで。」と頭を下げて向かいに座る。テーブルが小さめなので、お互いの顔と顔がすごく近い。気まずさは否めないが、そんなこと言ってられない。ハルさんが「何にする?」と聞いてくれたので、「瓶ビール(キリンラガー大瓶630円)をお願いします。」と注文する。女性客はウーロンハイ。

 

IMG_20231125_165252瓶ビールが届く。グラスに注いで、一口・・・んめー。考えてみれば230分に職場を出たのに、こんなに寒い中何やってるんだろう、と我ながらおかしくなる。まあ、でも、変なルートだったけど、滅多に来れない「山城屋酒場」に来れたんだから、これはもう大満足。もっとも、カウンター席が空いてれば最高だったが、贅沢は言えない。ハルさんの心遣いに感謝だ。しかし、なんだろう、本当にビールが美味しく感じる。精神的な問題なのだろうか。女性客と目が合う。慌てて、横を向く。

 

座敷の宴会組がポツポツと集まり始めて、店は一層忙しくなる。こんな状況で注文できるかなあ、と思った時、ハルさんが「注文、何かする?」と声をかけてくれる。わー、ありがたいなあ。「にら玉(450円)を。」「はい。」他の人たちにも気を配って、注文したそうな人たちに声をかけている。素晴らしい。

 

IMG_20231125_170148「にら玉」が届く。では、一口・・・ああ、いい味だなあ。にらはシャキシャキしていて、噛めば噛むほど味わい深い。玉子がそれをまろやかにしている・・・美味しいなあ。ビール、ビール。カウンターの年配の常連男性がトイレに行く途中、自分の向かいの女性に声をかける。知り合いらしい。なんでも、お子さんを保育園に迎えに行っているご主人を待っているらしい。で、そのお子さんを連れてこの方は帰るらしい。ご主人はここで友達と飲むとのこと。この店は、子供は入れない。

 

ああ、あと10分を切ったなあ。もう一杯何か飲みたかったけど。ちょっと無理だなあ・・・と思っていたら、ハルさんが自分の肩を叩く。ん?「カウンター空いたから、移って。ゆっくり飲めるね。」やったー。あじがとうごじゃいますぅ。忙しいのにちゃんと気にしてくれたんだな。嬉しい。いそいそとカウンター席に移る。入り口から2番目。右隣のお客さんに「失礼します。」と声をかけて座る。「いらっしゃい!」とその常連さんが答える。さっき女性客に声をかけていた人だ。

 

戸が開いて男性客が入ってくる。奥のテーブルに向かう。間一髪だったなあ。もう少しカウンターが空くのが遅かったら、今頃、寒空の下を歩いていたことだろう。「すみません。ホッピーの白(470円)をお願いします。」と注文する。ハルさんがすぐにホッピーセットを届けてくれる。本当に動きに無駄がない。愛想がいいというわけでもないのに、対応が暖かいのだ。どんなに混み合っていても、この店に来ないではいられない常連さんたちの気持ちが分かる。

 

IMG_20231125_171108ホッピーが届く。じゃあ、もう一品。「煮込み(430円)をお願いします。」この店は、ハルさんの弟さんとその奥様とハルさんの3人で切り盛りしているんだったと思う。「煮込み食べたさにくる人も多いんだよ。」と右隣の常連さんが話しかけてくる。それを機に会話をする。なんでも、その方はデザイン関係の仕事をしていて、会社は銀座にあったという。50歳でリタイアして、海外旅行などを楽しんでいるという。1年前にこのあたりにマンションを買って移ってきて、毎日、この店に通っている・・・みたいな話を聞く。

 

「毎日ですか?」「そう。私は病気を持っていて、つまみがほとんど食べられないんだが、最初に来た時に、注文しなくてはならないと思って、ちくわの磯辺揚げを注文したんだ。それで、隣のお客さんによかったらどうぞと勧めたんだよね。」「ふむふむ。」「それを、見ていたハルさんが、つまみは無理に注文しなくてもいいわよ、って言ってくれたんだ。自分のペースで楽しんでくれたらいいからって。すごいなあ、と思った。接客の達人だよね。それから、毎日来ている。」「なるほど。」

 

IMG_20231125_172933煮込みが届く。もつとコンニャク。上にたっぷりのネギ。素晴らしい!一口・・・美味い!シンプルに見えるが、もつの旨みが凝縮されて、口の中に広がる。飽きがこない味とも言える。ホッピーにはもちろん抜群に合う。絶品!申し訳ないが、「東京○大煮込み」というのがあるが、自分にはこちらの方が好みだ。ホッピー、ホッピー。んまい、んまい。「すみません。中(焼酎270円)お願いします!」いいねー。

 

隣の常連さんと話をしながら飲んでいたら、もう午後620分を過ぎている。わー、楽しかったなあ。今日はここまでにしよう。「すみません。会計をお願いします。」ハルさんが金額を書いた小さな紙を渡してくれる。「2250円」。安っ!千円札を3枚渡したつもりが、「1枚多いわよ。」と返してくれる。酔っているわけではないが・・・こんなこともなんだか楽しい。

 

「無理を言ってすみませんでした。本当にありがたかったです。」とハルさんに話しかける。「いえいえ。こちらこそ、ゆっくりしてもらえなくて。申し訳なかったですよ。」優しい! 話し相手になってくれた常連さんにも「また、この店でお会いしましょう。」と挨拶する。

 

外に出る。冷え込んでいる。それにしても暖かい気持ちにさせてくれる店だなあ。疲れたり悩んだりすることは誰にでもある。そういう時でも、心からのもてなしをしてくれる人たちがこの世にはいる。そんな少数の人たちに人生は支えられているのかもしれないと思う。


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東京都江東区南砂1丁目6

03-3644-8612

 


Posted by hisashi721 at 15:13│Comments(0)