12月27日(水)。今日で今年の仕事は終わり。昼過ぎに職場を後にして、新宿まで戻ってきた。時計を見ると、午後1時すぎ。今年1年の労をねぎらって、どこかでビールでも飲んで帰ろうと思う。西口の「思い出横丁」に向かおうとして、ふと頭をよぎったのは、今年、行こうとして行けてない店があったなあということだった。9月と10月に店の前まで行って、1回目は臨時休業、2回目は営業時間が終了していたのだ。2回目にマスターと一度言葉を交わしてはいるが・・・。ラストオーダーは午後4時30分だっただろうか。
新宿駅に戻り、13番線ホームを目指す。ちょうど、総武線各駅停車「千葉」行き電車が入ってくる。電車は空いていて、すぐに座ることができる。目指すは「亀戸」。記憶を辿ると、ああ、最初はおでん屋さんに行ったんだよな。次はもつ焼きだったな。
いろいろあったなあ・・・、
電車は秋葉原駅に到着。時間は午後1時32分。いい感じだ。秋葉原駅から乗客は一気に増える。電車は隅田川を渡って「両国」に向かう。例によってスカイツリーが現れる。錦糸町・・・そして亀戸駅に到着。改札を出るともう見慣れた風景。今日はロータリー右手から小路に入り、飲食店街を通っていく。ん!「亀戸ぎょうざ」に行列ができていない。うー、入りたい。でも、今日の目的はここではない。自分に言い聞かせてさらに歩く、亀戸中央商店街に出たところで左に曲がり、大通りへ。斜め道向かいに「すき家」を見ながら横断歩道を渡り、後は真っ直ぐ西に向かって歩く。
公園が見えたら、その左手の集合住宅の建物に向かう。一階部分が店舗になっている。その中に簾を立てかけた店が見える。おお、ここだ。「商い中」の板が目に入ってくる。少々、入りづらい雰囲気を醸し出してはいるが、どうやら営業中なのは間違いなさそうだ。やっと入れるぞ。紫の暖簾には「養生料理 高の」と白く染め抜かれている。
戸を開けて、店内に入る。左手に4人掛けテーブルが二つ。それぞれカップルが座っている。カウンターは5席ほど。入り口近くに女性が1人。作業中のマスターに「こんにちは。」と声をかける。顔を上げたマスターが、「どうぞ、カウンターに。」と迎えてくれる。カウンターの一番奥に向かい、鞄を置き、コートを脱いで座る。
しばらくすると、奥からママさんが現れる。テーブルのお客さんに料理を届けために出てきたところだ。すぐに自分に気がつき、「少々、お待ちくださいね。」と声をかけてくれる。戻ってきたママさんが「お食事ですか?」と問う。「いえ、まずビールを。」と答えると、「お酒を召し上がりになりますか。では、お通しをすぐに用意します。」と丁寧に応対してくれる。上品さが自分を心地良くさせてくれる。
「
ビールは、生でしたらオリオンビール、瓶でしたらサッポロ赤星になりますが、どういたしましょう。」「瓶(中瓶750円)の方でお願いします。」と注文する。店は静かで、民芸調の落ち着いた作りがいい。すっかり心が落ち着いて、のんびり過ごしていると、ビールが届く。木のコースターがまたいい感じ。グラスに注いで、一口・・・ああ、美味い。今年もよく頑張った・・・のかどうかは分からないが、無事終えることができた。この店での時間は、自分へのご褒美だな。

「お通しです。」これは・・・「左から、揚げ出し豆腐、ヤリイカ煮、ソバティーヤのミニ、つぶ貝です。」・・・どれも美味しそうだなー。では、揚げ出し豆腐から・・・うわー、この出汁、素晴らしい!豆腐も美味しくて、薄い衣がまた弾力があって美味しい。ビール、ビール!お通しだけで、しっかり楽しめそうだ。
カウンターの女性は20代くらいだと思うが、日本酒を召し上がりながら、料理を楽しんでいらっしゃる。渋いなー。背筋が真っ直ぐ伸びて、姿勢そのものが美しい。背後のテーブル席からも、料理を絶賛する声が聞こえてくる。いいなー。では、自分も注文を。メニューを見ると、ここは手打ちそばと豆腐料理、それからジビエ料理が中心のようだ。だし巻き玉子など「そば前」の料理もしっかり揃えてある。ジビエがつまり養生料理というわけなのだろうか。鯨の尾の身の刺身(6000円)というのもある。せっかくだから、ジビエ料理的な「いのししの煮込み(1200円)をいただいてみることにする。
4種のお通しを楽しみながらビールを飲み終える。次はどうしよう。日本酒が充実しているようなので、おすすめの日本酒メニューを眺める。田酒や豊盃という青森の名酒がまず目にとまる。それから目を移していくと・・・佐賀の酒がある。佐賀の日本酒は美味しいからなー。銘柄は「栄光菊(無濾過生原酒)」・・・これにしよう。ママさんに「栄光菊(970円)をお願いします。」と注文する。冷蔵庫から一升瓶が取り出される。片口に移され、盃と共に届けられる。「どうぞ。」・・・ふえー。いい感じ。
では、一口・・・なんと!フルーティー!甘みを感じると同時に、それが爽やかなのだ。よく冷やされているのも味を引き出しているんだな。んめー・・・マスターがカウンターの中の厨房から出てきて、「今日はご来店ありがとうございます。お礼の気持ちです。風呂吹き大根をお出ししますので、召し上がってください。」・・・えー。「風呂吹き大根、大好きです。いただきます。」・・・一口・・・透き通って優しい出汁に、ほっくりと煮えた大根がまた味が沁みて・・・美味しいなー。気持ちも嬉しい。
鍋のセットが用意さされる。ママさんが「煮込みといっても、鍋でしっかり煮ながら食べていただきます。肉はさっと火を通してあるだけですので、よく煮えてからお召し上がりくださいね。食べる時は、とろろを絡めてください。風味が増しますよ。では、火をつけます。」うあー、すごいのが来たよー。
ぐつぐつ煮える鍋を前に、よく冷えた日本酒を飲む。いいねー。いいご褒美になってる。木の蓋を開けて中を見てみる。肉がたくさん入っているんだな。それにたくさんの種類の具材。楽しみだなー。「もう少し、ですね。」とママさんが、にっこりと笑う。待ちきれない気持ちを見透かされて、ちょっと照れる。
「もう、いいんじゃないですか?」とママさん。・・・よし!では蓋をとって、ぐつぐつしている猪肉をまず一口・・・色は意外と薄くて豚肉のようだ・・・うわー、熱々。ハフハフ・・・しっかりとした味、肉の臭みなどはもちろんなく、旨みのみが口の中に広がる・・・んめー。これは最上級に美味い!では、おすすめのとろろを絡めて、一口・・・なるほど!肉の脂の部分と合わさって濃厚な味わいに・・・うんまい!日本酒、日本酒!
鍋には、キノコ類や豆類、根菜、葉野菜、油揚げなどいろいろな具が入っていて、飽きない。とにかく汁がいい味になっている。素晴らしい。ボリュームもあって、温まる。養生しているって感じだ。日本酒、もう一つ飲もうかな。気になっている酒を。「旭鳳の純米」広島市安佐北区の酒。実家に近いところの銘柄だ。「旭鳳(970円)をお願いします。」
新たに違う趣の片口に入れられた日本酒が届く。「広島の旭鳳です。」・・・では、一口・・・ほー、広島の酒って感じだなあ。なんというか、柔らかくて、変な主張がなくて・・・うめー。そうだ!もう一品。「すみません。糠〆魚なめろう(750円)をお願いします。」「はい、今日のお魚は、いしもちです。」
鍋を食べながら待っていると、ママさんが、大きな皿を届けてくれる。なめろう?握り寿司、刺身もついている。美味しそうだ。なめろうを一口・・・んめー、味が濃い。こんな美味しいなめろうは初めてかな。刺身も一口・・・もちもちした食感。これまたいい味。じゃあ、握り寿司を・・・素晴らしい!美味しいなあー。
「3人入れますか?」と男性が戸を開けて問う。「ごめんなさい。今日はもう一件予約が入ってて。」「わかりました。」・・・この店は、一人客優先だそう。だから、複数客はテーブルというわけだろうか。テーブルのもう一件の予約は午後3時に入っているようだ。じっくり1人で飲みたい客にはありがたい店と言えるなあ。
カウンターの女性客が席を立つ。「本当に美味しかったです。」と一言笑顔で言い残して出ていく。テーブルのカップルも一組席を立つ。「ごちそうさま。いい時間を過ごさせてもらいました。また来ますね。」と言って店を去る。入れ替わりに、2人連れのお客さんが入ってくる。「予約した〇〇です。」「お待ちしてました。どうぞ。」・・・いい感じ。
自分もしっかり食べ終えて、席を立つ。「ごちそうさまです。」「ありがとうございました。」「美味しかったです。今年のうちに来れてよかったです。」「これお守りなんですが、よかったらどうぞ。」「うわー、ありがとうございます。」「またお待ちしております。」
店を出る。夕暮れが近づいている。ゆっくり歩きながら、今年も終わりだなと思う。大通りに出ると、行き交う人々の表情も穏やかに見えた。

東京都江東区亀戸2丁目6−1
03-6676-9055
Posted by hisashi721 at 11:46│
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