2024年01月14日

雪が舞う街で・・・有楽町「平戸こんね」

IMG_20240114_131933有楽町駅京橋口、午後4時。やけに人が多いなあと思ったら、雨が降っている。かなり大粒の雨が駅前を濡らしている。急な雨で、どうしようと迷っている人たちが雨宿りという形になっているのだ。傘を用意している人は足早に駅を出ていく。さて、自分は?・・・目的地である東京交通会館は目の前。走れば、1分もかからずに入り口に辿り着けるだろう。思い切って、走り出す、雨粒が顔に当たる。思ったより強めの雨だなあ。とにかく、交通会館に到着。地下1階に降りる。

 

IMG_20240113_160314土曜日の交通会館はさすがに混雑している。各地のアンテナショップも賑わっているし、飲食店にも行列ができている。話題の徳田酒店も満席。入店待ちの人たちがメニューを眺めている。ちょっと奥まった場所に、平戸こんね」という店名を染め抜いた紺の暖簾を下げている店がある。ちょっと覗くと、コの字型カウンターは一瞬満席に見える。が、落ち着いてみると、奥の席は空いているようだ。カウンターの中には2人。手前のお兄さんに声をかける。「1人、入れますか?」仕事に熱中していたらしく、聞き取れなかったようで、「何名様ですか?」と問われる。「1人です。」「ああ、少しお待ちください。お席を用意します。」

 

入り口側から奥に向かって、ずらりとお客さんが座っている。カウンターの後ろは狭くて通ることができない。通路をぐるっと回った反対側にも入り口があるので、そちらに向かう。「こちらにどうぞ。」お兄さんが、箸置きの上に割り箸を置いてくれて、そしておしぼりを出してくれる。「どうも。」濡れたコートを脱いで後ろのハンガーに掛け、椅子の下の籠に鞄を入れて座る。なんとなくBARのような感じの高いスツールだ。目の前にはもう1人の店員さん。料理担当の板前さんだ。「いらっしゃいませ。」と静かな声で迎えてくれる。



IMG_20240113_161232メニューは細かい字でぎっしりと飲み物が並んでいる。「生ビール(590円)をお願いします。」と注文する。目の前の板前さんが「今日のお決まり(お通し660円)です。こちらがひらまさの皮の湯引きで、こちらが有機かぶの浅漬けです。」と小皿を二つ出してくれる。いきなり、珍しいものが出てきたぞ。生ビールが届く。では、一口・・・ああ、美味しい。1週間の終わりのビールはまた格別だなあ。

今日の仕事は夕方までかかると思っていたのだが、人数が足りているということで、自分は免除された。それで午後3時ごろに上がらせてもらい、職場を出てきた。その頃から空は重いテントのような灰色で、気温もグッと下がっていた。関東も北の方では雪が降っているらしい。目黒駅から山手線の内回り電車に乗り、有楽町にやってきた。時間も早いので、気になっていた店に行ってみたかったのだ。それで降り出した雨に出会うことになったというわけだ。

 

IMG_20240113_161748生ビールを飲んでいると、「お客さん、お客さん。」と呼ぶ声がする。カウンター席は12席くらいだろうか。客は自分の右隣にずらっと5人ぐらい並んでいる。そして逆側のカウンターの一番奥に若くて大人しいカップルが座っている。「お客さん。」顔を上げると、入り口側にいる店員のお兄さんがこちらをみている。ああ、自分を呼んでいたのかと分かる。「何?」「お客さん、平戸って知ってますか?」「もちろん。」「この店は長崎県の平戸市の飲食店型のアンテナショップという位置付けでして、平戸の名物をたくさん召し上がっていただけます。平戸の福田酒造の美味しい焼酎も置いていますので、ぜひお料理と一緒にお召し上がりください。どうぞ、リトル平戸をお楽しみください。」「なるほど。」

 

交通会館にはアンテナショップがたくさんあり、この店もその一つというわけだな。板前さんに聞いたところ、以前から店自体はあったのだが、今の2人が引き継いで、昨年の6月にリニューアルオープンしたとのこと。その時に自分もこの店の存在を知り、一度行ってみたいなと思っていた。それが今日になったのだ。

 

IMG_20240113_161815「じゃあ、お料理で一番最初に注文すべきものは何でしょう?」とお兄さんに問う。「まずは、平戸直送の美味しいお魚ですね。刺身を召し上がってみてください。」「ふむふむ。じゃあ、刺身盛り合わせ(1320円)をお願いします。」・・・「お決まり」をいただこう。まずは、「ひらまさの皮の湯引き」から。一口・・・おお、魚の味をギュッと凝縮した感じ・・・珍味とはこのこと。んまい!ビール、ビール。次に「かぶの浅漬け」。一口・・・かぶってこういう味だっけ・・・薄い塩味で、かぶ本来の味を引き出している。本物のかぶって美味しいんだなあ・・・。

 

さて、次のお酒はどうしよう。お兄さんに「福田酒造の焼酎を飲みたいんだけど、何がいいかなあ。」「芋か麦、どちらがいいでしょう。」「んー、芋かなあ。」「それでは、ジャガイモの焼酎はいかがでしょう。」「ジャガイモ?ほー、じゃあ、それにします。」「ジャガイモの焼酎って珍しいでしょう。実は平戸は長崎の出島よりも早くから貿易をしていまして、オランダ人が平戸にジャカルタからジャガイモを持ち込んだというわけです。平戸の土がジャガイモ栽培に適してまして、名物になっています。美味しいですよ。」

 

IMG_20240113_162651「飲み方はどういたしますか?」「オンザロックでお願いします。」へー、楽しみだなあ。焼酎ロックが届く。一口・・・飲みやすい。甘みも程よく、さつま芋の焼酎のようなクセが全くない。すんなり喉を通ってく、爽やかな味だ。これは美味しい!「美味しいですね。」「ありがとうございます。」「なんていう銘柄ですか?」「このボトルです。じゃがたらお春(グラス420円)、という銘柄です。」すると、自分とお兄さんのやりとりを聞いていた右隣の若いご夫婦が「じゃがたらお春ってどういう意味ですか?」と興味津々で尋ねている。「ええ、少し悲しい話なのですが・・・。」お兄さんがその由来となった話を説明する。「あっ、すみません。お客さんが美味しく飲んでいらっしゃるのに。」「いや、味わい深いです。」


それをきっかけに、隣のご夫婦と話が弾む。お店のお兄さんを巻き込んで、だんだん打ち解けた話になる。お兄さんが平戸出身ではなくて、平戸の風景に惚れ込んで、この店をやりたいと思った経緯などを聞く。「じゃあ、どこの出身なの?」と奥様。「神奈川です。」「えー、じゃあ、普段どこで飲んでるの?」「野毛・・・とか。」「ははは、なんだ、私たちと同じじゃない。野毛にはいい店がありますもんね。」・・・平戸から野毛に話題は移る。

 

IMG_20240113_162645「お待たせしました。刺身盛り合わせです。こちらから平戸名物のひらまさ、真鯛、クロマグロの幼魚のヨコワ、手前がきじはたです。お醤油は、地元の甘いもの2種類と関東のものを揃えています。お好みで召し上がってください。」・・・ほー。美味そうだな。醤油は平戸の岩野上醤油で・・・まずひらまさを一口・・・わー、醤油の甘さが邪魔にならず、刺身とマッチしている。美味しいぞ!焼酎ロック、焼酎ロック。

 

IMG_20240113_16265660代くらいのご夫婦が入ってきて、若いカップルの右隣に座る。自分からすると左側。思い切って入ってきたという感じ。勧められて、日本酒の「純米活性うすにごり」と刺身盛り合わせと注文。日本酒の美味しさに感動している様子。「お刺身はどの醤油にしようかしら。」と奥様が上品におっしゃる。すかさず「自分は、この地元の醤油で食べたのですが、とてもよく合いましたよ。」と口を出してしまう。「じゃあ、私もそうしてみましょう。」・・・「美味しい!よく合うわー。教えていただいてありがとう。」・・・恐縮する。

 

IMG_20240113_164303ではもう一品。「蒲鉾2種盛り合わせ(540円)をお願いします。」と注文する。「蒲鉾も平戸の名物なんですよ。」とお兄さん。期待が高まる。それにしても、焼酎がうますぎて止まらない。どんどんおかわりしていくことになりそうだ。このままだと5、6杯は行ってしまうだろう。なら、いっそ・・・「すみません。この焼酎、ボトル(3240円)でください。」「あっ、はい。ありがとうございます。」・・・右隣のご主人が「あれっ?お勤めはお近くなんですか?」と問う。ボトルを注文したのを見てのごもっともの反応だ。「いや、目黒なんですよ。」「えー、まあ、近いといえば近いですよね。」「野毛よりはね。」

 

IMG_20240113_165649氷(200円)を改めてもらって、飲み続ける。美味い。飽きない。「蒲鉾です。こちらがアゴの蒲鉾、こちらがエソの蒲鉾になります。」・・・へー、こちらも醤油をちょっとつけて、白い方から一口・・・魚の味が濃い!よく食べる蒲鉾とは違う。なんかストローみたいなもので巻かれていたが、やっぱり独特の製造法があるのだろう。そして何より魚自体が美味しいからに違いない。いうまでもなく、焼酎にはピッタリ合う。

 

「今日はいい日になったわ。こんなに美味しいものをいただけて。」と左隣の上品な奥様。「私も、じゃがたらお春をロックでください。何しろ、ボトルを入れて美味しそうに飲んでる人が隣にいるからね。」と右隣の若い奥様。ご主人の方は2人ともニコニコ。そういう人たちに挟まれて、焼酎が止まらない自分。

 

いくら何でも、これくらいにしなくては。帰り道も遠いしなあ。「すみません。ご馳走様。」「ありがとうございます。ボトルお預かりしておきます。また、平戸を味わいにおいでください。」両隣のご夫婦に挨拶して、席を立つ。「外は雪になっているかもしれませんね。」と若い奥様がいう。「いや、もしかしたら止んでいるかも。」と年配の奥様。どっちだろう。店を出る。

 

階段を上って、1階に出る。「三省堂書店」が健在なのが嬉しい。外を見ると・・・雪だ。初雪が舞っている。傘を差した人々が駅前を行き交っている。今年の初雪を有楽町で見るとは。寒いけど、何となく風情がある。立ち止まって、しばらく空を見上げる。


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東京都千代田区有楽町2丁目10 東京交通会館 地下1(51 区画)

050-5600-5478


Posted by hisashi721 at 12:30│Comments(0)