夕方からの会議があっけなく終わり、職場を出たのが17時30分。余裕あり。昨日と違って、今日(17日)は風もなく、さすがに暖かくはないが、寒さが随分緩んでいる。バス停でバスを待つのも苦にならない。目黒から山手線外回り電車に乗り、高田馬場に向かう。早稲田口改札を出て、右へ。BIG BOXを右手に見ながら、駅前ロータリーの横断歩道を渡る。
早稲田通りを明治通り方面に向かって歩く。この辺りを歩くのは久しぶりだ。飲食店が並ぶ通りには人が溢れている。歩くこと5分、今日目指していた店の前に到着。だが・・・自分の前を歩いていた2人組の男性がその店のドアを開ける。それで店内が見えたのだが、奥に細長く続くテーブル席は満席。ちょっと無理だな、と判断する。じゃあ、どこへ?駅方向に戻ることにする。
少し歩いたところに地下鉄東西線の入り口がある。そのすぐそばに左に入る道がある。多摩旅館という昭和感溢れる宿のある通りだ。旅館の玄関には明かりが灯ってなくて、ひっそりとしている。いい感じ。その道の奥に赤提灯が見える。何となくそそられて、様子を見にいくことにする。店に近づくと民謡っぽい音楽がかすかに聞こえてくる。木の看板に「鮮魚と地酒 漁介」とある。店は「ねぶた」の絵が掲げられていたり、電光看板には棟方志功の絵みたいのも見える。青森!店の雰囲気は遠くから見た感じと違って、高級感もあり、今風の居酒屋っぽい。こういう店は1人では、どうかなあ。宴会のメニューなんかが掲示されてるみたいだし・・・。女性を連れて来るっていう雰囲気の店のようだし・・・それだと、自分には縁がないし・・・。
とにかく、思い切って戸を開ける。店の中は、予想通り、男女のカップルがテーブル席にずらり。ここなら、女性にも喜んでもらえるだろうというおしゃれな空間だ。奥から、自分に気がついた若いお兄さんが近づいてくる。レストランの店員さんのようなきちんとした服装。「お一人様ですか?」「そうなんですけど。大丈夫ですか?」・・・「はい、カウンターにしますか?テーブル席も一つ空いてますが。」ええっ、テーブル席でもいいなんて・・・お客さん本位の店なんだな。1人客でも歓迎してくれている雰囲気が良い!「カウンターでいいですよ。」と答える。「では、どうぞ。」と先導してくれる。店の奥、厨房の前に4席ほどのカウンターがある。「どうぞ、こちらに。」「ありがとうございます。」
椅子の脇のカゴに鞄と脱いだコートを置いて座る。お兄さんが「おしぼりをどうぞ。」と渡してくれる。卓上のメニューをとって開くと、お兄さんが「飲み放題にいたしますか?それとも個別にしますか?」と問う。飲み放題・・・平日の夜に1人で飲み放題はないよなー。そこまで飲むつもりもないし、第一、先週は幡ヶ谷と有楽町の店で、それぞれボトルを入れてしまうという「暴挙」をしてしまったのだから。今日は多くて3杯くらいで、大人しく。「個別でいいです。」「そう・・・ですか。それでしたら、こちらが飲み物のメニューです。もう一つのメニューは全て日本酒になっています。」なるほど、カウンター前の棚には「田酒」「豊盃」「善知鳥」「八仙」など青森の名酒の瓶がずらりと並んでいる。まずビールを飲んで、その後日本酒を2杯くらいかな。「では、生ビールの中(690円)をお願いします。」
カウンターの向こうは厨房。4、5人のスタッフが忙しそうに動いているのが見える。自分が入った入り口近くの20席くらいのいい感じの広さだが、他に個室など違うスペースがあるのだと思う。店内には青森の雰囲気を満喫できるような飾り付けがなされている。青森か・・・大学時代の友人の顔が浮かんでくる。青森高校出身で、硬派。冬でも靴下を履かないタイプ。で、酒豪。愛読書は「葛西善蔵」、私小説の神様。椎の若葉に光あれ、か・・・。
思い出に浸っている自分の頭の中が一段落つくのを待っていたようなタイミングで、お兄さんが「生ビール」を届けてくれる。「取り皿とお箸をおきますね。」と色々準備をしてくれる。それから、「お通しの刺身3点(550円)です。こちらからサワラ、マグロのホホ、カンパチです。」・・・では、生ビールを一口・・・んめー、じゃなくて、美味しい!店の雰囲気に合わせなくては・・・。お通しの刺身をいただこう。サワラから、一口・・・う、美味い!さすが店名に偽りなし。味が濃いし、歯応えが違う。ビール、ビール。
つまみは何にしようかな。うわー、美味しそうなメニューばっかりだな。刺身はもちろん、貝焼きもいいよなー、イカ美味しそう、肉料理もいい、鍋もあるのか、珍味類!、一品料理も工夫されているなー、などと迷う。ん?ふと見ると「あおもり八寸」というメニューがある。7品の小鉢のセットだ。これにしよう。目を上げるとお兄さんと目が合う。メニューを見て決めるのを待っていたかのようなタイミング。「あおもり八寸(1290円)をお願いします。」「ありがとうございます。」
「あおもり八寸」が届く。お兄さんが説明してくれる。「こちらから、鯖の燻製入りポテトサラダ、スルメイカの沖漬け、紅玉リンゴのなます・・・・・」美味しそうなものばかり。青森感全開という感じ。ポテサラから、一口・・・おお!鯖の燻製がうめー。ポテサラと合うなー。これは楽しめそうだ。つまみはこれでいいかな・・・、ビール、ビール。いやーリンゴのナマスもさっぱりして美味しい!
ビールがなくなったので、日本酒に行こうかな。メニューを開くと・・・なるほど、グラス1杯1000円以上するなあ。おお、こちらは2000円越えかあ・・・慎重に選ばなくては。メニューを何度もめくり、最初の方に戻ってみると・・・何ですと!飲み放題1290円なの・・・なになに「田酒!豊盃!八仙! 青森県16蔵・30種類の地酒 ビール、ハイボール、サワー、焼酎、60分1290円で飲み放題!」・・・しまったー。最初の注文の時、お兄さんが「そう・・・ですか」とちょっと意外な反応をした意味がわかったよー。大体単品の飲み物は600円前後以上、日本酒は高価なのだから、絶対に飲み放題にするべきだった。気を取り直してお兄さんに声をかける。「今からでも、飲み放題の注文できますか?」「はい、できます。ルールは15分前にラストオーダー、料理2品以上注文いただくというものですが、よろしいですか。」「んもうー、いいですとも。」
お兄さんが、飲み放題メニューを持ってきてくれる。日本酒の銘柄がずらり。「芳醇旨口」「濃厚旨口」など性格別に6つのカテゴリーに分けてあり、それが「甘辛」「濃淡」などの段階別に並んでいる。自分は「豊盃」を探している。見つからない、リストから外れたのかな・・・お兄さんが待っている。普通なら「お決まりの頃伺います。」と言って去るくらいの時間が経つ。ないなー。じゃあ「すみません。田酒特別純米をお願いします。」
お兄さんがグラスを用意してくれる。60mlくらいのやや小さなグラス。これなら何種類も行けそうだ。一升瓶から日本酒が注がれる。もちろん受け皿にこぼすというような、そんなスタイルではない。では、一口・・・田酒だ!美味いなあ、やっぱり。すっきりとして飲みやすく、しかもフルーティ。いいじゃん。飲み放題!八寸がまだ4皿くらい残っている。日本酒にぴったりのつまみだったんだな。
グラスはすぐに空になる。次は・・・田酒を飲み続けてもいいが、せっかくだから違う銘柄を。同じ「芳醇旨口」から一番辛いのを・・・「すみません。鳩正宗特別純米をお願いします。」「はい、お待ちください。」・・・それにしても、気持ちのいい接待だなあ。タイミングもいいし、表情も明るいし、爽やかだし、過剰に大きな声も出さないし、いいなあ。
「鳩正宗です。どうぞ。」・・・じゃあ、早速、一口・・・いいねー、辛口のさっぱり感が素晴らしい。美味しいなあ。そうだ、料理を2品だったよな。ガッツリ系はやめて、日本酒に合いそうなものを・・・さっきの八寸の沖漬けが美味しかったので、まずは単品で、それから・・・「すみません。イカの沖漬け(450円)とあん肝ポン酢(790円)をお願いします。」
「イカの沖漬け」が届く。一口・・・美味しい。何だろ、コリコリ感もいいし、とにかく味が違う。青森のイカ、美味すぎる。日本酒、日本酒。続いて「あん肝ポン酢」が届く。想定していたものより大きくて量も多い。へー、立派なあん肝だなあ。一口・・・うわーすごい旨み。口の中に広がる程度が違う。変なクセも全くなく、純粋にあん肝の美味しい部分を味わっている感じだ。素晴らしい。次の日本酒、行ってみよう。「すみません。駒泉『鯖』(サバ)吟醸をお願いします。」・・・ふう・・・鯖?さっき食べちゃっったなあ。
「すっきり軽快」というカテゴリーらしく、この酒も飲みやすくて、スイスイ飲める。いいねー。あん肝がよく合うよー。グラスが小さいと思っていたけど、なんか酔いが回ってきたような気がするなー。そんなはずないよなー。しかし、美味しいなあ。後ろのテーブル席を背にして、1人で飲んでいるので、自分の世界に入って飲んでいる。それも、今日はいい。先週はお店の方やお客さんと話が盛り上がって、それはそれですごく楽しかったのだが、今日みたいのなも最高にいい。
「陸奥八仙あらばしり、をお願いします。」4杯目。しかしどの酒も美味しい。いくらでも飲めそうだが、酔いとの競争だな。テーブル席の注文はホイボールとかサワー類も多いけど、みなさんガンガン飲んでるな。料理も次々運ばれていく。こういう活気は素晴らしい。でも、静かで、いい雰囲気。そりゃあ、のんびり飲めるでしょ。
お兄さんが来て「飲み放題の延長はどうなさいますか?」延長するとさらに60分1290円で飲み放題を続けることができるようだ。明日もあるし、やめとこうね、自分。「まだ時間はありますので、次のお酒をお持ちしますか?」「いや、お酒もここまでで。」「わかりました。」
「ごちそうさま。」ありがとうございます。お兄さんが会計をしてくれる。「5060円です。」・・・考えてみれば、最初の生ビールと八寸を除けば3500円程度。これで美味しいお酒を種類も飲めて、料理も食べられるなら最高だなー。八寸も生ビールも美味しかったから、これも最高。いい店だったなあ。席を立つ。お兄さんが「ありがとうございました。またどうぞお越しください。」と落ち着いた声で丁寧に送ってくれる。厨房からも「ありがとうございました。」と何人もの声が聞こえる。
外に出る。穏やかな夜だ。駅前の明かりがキラキラしている。厳しい寒さも一休み。週末は雪が降るとの予報だが・・・。駅に向かう人々を見てふと思う。今日はどんな1日だったんだろうと。どんな気持ちを胸に街の灯りを浴びながら歩いているのだろうかと。

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Posted by hisashi721 at 14:28│
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