2024年02月15日

静かな夜・・・幡ヶ谷「木本商店」

IMG_20240214_202137確かコロナ前だったと思う。幡ヶ谷で人に会う用があり、南口駅前にあるドトールコーヒーショップに行った。1時間ほどで打ち合わせも終わり、まだ時間も午後3時くらいだったので、街を散策してみようと思った。甲州街道の横断歩道を渡り、北口に出て六号通り商店街に入る。なかなか興味深い通りで、生活感も溢れているし、また新しくて色々なコンセプトの店がたくさんある。

 

どんどん歩いていくと、東京都道431号角筈和泉町線にぶつかる。この通りには新宿と中野を結ぶ京王バスが通っている。横断歩道を渡る。さらに六号通り商店街は続いている。駅から離れるほど店の数もまばらになっていき、そろそろ引き返そうかなと思った時、この佇まいいいじゃん、と感じさせる店があった。熊本料理と熊本の酒・・・馬刺し・・・熊本牧場直営・・・へえー。

 

その時はまだ開店前であり、そのまま駅に引き返し、新宿まで帰ってきたのだが、心には引っかかっていた。しかし、雰囲気は良さそうだが、特に馬刺しが好物であるわけでもなく、すぐに行こうとはならなかった。それが、ここ何回か幡ヶ谷のある店に行こうとして、しかし満席のため入れず、寒い中街を彷徨った時、この店の前も通りかかった。お客さんがたくさん入っている様子が外からも伺えて、素通りをしたのだが、次はここに入ってみたいなと思ったというわけだ。

 

IMG_20240214_202401というわけで、今日(14日)、気温も上がり春のような陽気にも誘われて、幡ヶ谷駅に降り立ったのが、午後710分ごろ。六号通り商店街に向かう途中に、その入れなかた店があるのだが、ちらっと入り口のガラス越しに見ると今日は入れそうだった。でも、もう心はあの店に行こうと決めていたので、気にはならない。ずんずん歩いて、やけに眩しい灯りをともす店の前に到着。店の名は「木本商店」。シンプルでいい名前だ。


IMG_20240214_193741迷わずドアを引いて、店の中に入る。すぐに若いお姉さんが出てきて、「いらっしゃいませ。」と、とても控えめな声で迎えてくれる。「あの・・・、1人なんですけど、大丈ですか?」と問う。なぜならば、お客さんが1人もいなかったので、もしかしたら今夜は貸切の予約が入っているのかもしれないと思ったからだ。「お一人ですね。カウンター席にどうぞ。」という答えにホッとする。店は手前にテーブル席が3つ。その奥にカウンターが10席ほど。さらに奥に個室もあるようだ。テーブル席を抜けて、カウンターのさらに奥から2番目の席に座る。

 

先ほどのお姉さんがおしぼりと箸置きを持ってきてくれる。おすすめのメニューをまず示した後、「こちらがメインのメニューとなります。」と分厚いメニューを渡してくれる。日本酒や焼酎の種類がものすごい。もちろんサワー類などの種類も豊富なのだが・・・、メニューをどんどんめくって、生ビールを探す。あった!「すみません。生ビール(580円)をお願いします。」と注文する。

 

IMG_20240214_192135奥から、若い男性が出てくる。店の奥で何か作業をしていた模様。いきなり座っている自分に少し驚いたような表情。そのままカウンターの中の厨房に入ってしまう。生ビールが届く。何はともあれ、ビールを一口・・・いつもながら、この瞬間のたとえようもない美味さ・・・生ビール大好き!うめー。じゃあ、料理を・・・馬刺し、食べてみようかな。種類がたくさんあるんだな。どうしよう。3種盛り合わせ(1390円)というのがある。ここは店にお任せで・・・「すみません。」とカウンターの中に声をかけると、お姉さんが出てくる。「馬刺し3種盛りをお願いします。」それと・・・さっき「タコの天ぷら」というのをみたような気がするが・・・どこだっけ、見失ってしまった。あれっ?おでんもある。長崎アゴだしおでん!熊本じゃなくて長崎だが・・・こちらも 種類がたくさんある。5本盛り合わせ(890円)にしよう。「あと、おでん5本盛り合わせもお願いします。」

 

IMG_20240214_195741客は自分1人なので店は静かだ。BGMは洋楽。音量は抑えてあるので気にならない。その中で店員の2人は料理のこととか素材のことなどを話している。それが、その声がものすごく控えめなのだ。最初に出迎えてくれた時のお姉さんの声が落ち着いていて、控えめだったのだが、それがそのまま続いている。いい感じ。カウンターの上の棚にはずらりと日本酒と焼酎の一升瓶が並んでいることもあって、店員さんたちの姿は見えない。静かな会話とBGM・・・やけに落ち着くなあ。

 

IMG_20240214_192407おでん5本盛り合わせが届く。一つ一つの具が大きい。ボリュームがすごいなあ。普通のおでんなら5つぐらいでちょうどいいが、この店ではまず2種類か3種類選んで注文すればよかったかな。でも、美味しそうだなー。この油揚げは、南関揚げというものか。有名。一口・・・肉厚・・・出汁がこぼれるほど沁みている。この出汁うまいなあ。旨味がすごくてほのかな甘みが加わっている。南関揚げ、美味しい!ビール、ビール。「この揚げものはなんですか?」とカウンターの外にいたお姉さんに問う。「こちらがアゴ、こちらがイカです。」なるほど。食べ応えがありそうだなあ。

 

IMG_20240214_192655「馬刺し3種盛り合わせ」が届く。まず、醤油ざらは3つに分かれているが、入っているのは2つ。「醤油は同じものです。お好みで生姜かニンニクでお召し上がりください。」とお姉さんが静かな声で説明してくれる。3種にはそれぞれ札がついていて、上赤身、タテガミ、中落ちと書いてある。じゃあ、順番に・・・上赤身から、一口・・・雑味なし・・・肉の旨みのみ・・・ニンニクと甘い醤油に抜群によく合う。美味しい!次はタテガミ。白い脂?一口・・・とろける・・・生姜にも合うな・・・これはクセになる美味さ。中落ちを一口・・・コリっとした歯応えもある。噛むと旨味が溢れる。馬刺しって美味しいんだな。ビール、ビール。

 

ビールの次は・・・ん、これはなんだ?球磨焼酎のハイボール。特に「最古蔵ハイボール(480円)というのがおすすめらしい。これにしよう。「すみません。最古蔵ハイボールをお願いします。」「はい。お待ちください。」と答えてくれたのはお兄さんの方。こちらも落ち着いた声。いい感じ。

 

IMG_20240214_193736「最古蔵ハイボール」が届く。丸っぽくて手に馴染むグラスだ。一口・・・球磨焼酎の香りがほのかにする。が、ものすごく爽やかな味。大人しくて上品。球磨焼酎といえば思い出がある。遥かな時間を押しやって、遠い記憶が蘇る。ある人と飲み明かした夜・・・長い時間が経ってしまったんだなあ・・・。あの時のような強烈な味はしないけれど、しみじみと味わうにはちょうどいいかな。

 

IMG_20240214_195459それにしても店内に並んでいる酒瓶の種類の多さには圧倒される。熊本の酒はもちろんなのだが、全国の酒が揃っている。日本酒、本格焼酎・・・飲んでみたいものばかりだ。メニューをめくっていると、「飲み比べ3種」というのがある。熊本の銘柄を中心に3種選ぶことができるようだ。広島の「宝剣」もその中にある。へえー。これにしよう。「すみません。3種飲み比べ(1300円)をお願いします。」「銘柄はどうなさいます。」「んー。やっぱり熊本の酒で。まず、墨守、それから、れいざん、あと・・・、ん・・・花の香を。」と注文する。

IMG_20240214_195410注文を受けて、お姉さんが、後ろの冷蔵庫から一升瓶を3本取り出す。グラスは迷わないように大きさや色が異なるものを3つ用意してくれる。そして順番に注いでくれて、「どうぞ。」と勧めてくれる。では、「墨守」から、一口・・・飲みやすい・・・スーと軽やかに喉に吸い込まれていく。美味しいなあ。次は「れいざん」を一口・・・これは米の味がしっかりして、飲みごたえがある。じっくり味わいたい酒だ。最後は「花の香」。一口・・・名前の通り、華やかな香りだ。香りを楽しむ酒だな。どれも美味しい!

 

仕事帰りらしいカップルが入ってきて、入り口近くのテーブル席に座る。続いて、「後で2人来て、全部で3人になります。」と言いながら男性客が1人入ってくる。さて、お客さんが入ってくる時間になったようだ。ここまで、本当にそ静かに飲ませてもらってありがたかった。何も気にすることもなく、思いのままに過ごすことができた。

 

IMG_20240214_201653じゃあ、今日はここまでにしよう。「ごちそうさまでした。」「ありがとうございます。」まずお兄さんの方が声をかけてくれて、それからお姉さんが出てきて会計をしてくれる。そういえば、何も話してなかったな。「木本商店ってシンプルでいい名前ですね。」とお姉さんに話しかける。「ええ、木本は社長の名前です。今日はいないんですが。お住まいはお近くですか?」「いや中野区です。勤めは目黒なんですよ。」「わざわざ駅からずっと歩いてきてくださったんですね。」・・・本当に気持ちよく会話をしてくれる人だなあ。

外に出る。少し気温は下がっている。それでも、コートを着れば、寒さは感じない。駅に向かって歩き始める。空には朧に霞んだ三日月が浮かんでいる。静かな夜に今日も包まれている。

東京都渋谷区幡ケ谷3丁目87 ハルプトュール幡ヶ谷 1F

03-5351-0848


Posted by hisashi721 at 16:53│Comments(0)