2024年03月23日

グラスの中に桜が咲く・・・阿佐ヶ谷「バルト」

IMG_20240322_2004343月半ばを過ぎても寒い日が続いている。職場を出たのは午後510分過ぎ。風も強く、バス停に立っているのも辛いほどだ。並んでいる人たちは皆身体を揺すって耐えている。やっとバスが来て、空いていた最後部の席に座る。バス停を三つくらい過ぎると、もう満席になっている。運転手さんが「もう一歩ずつ奥へ詰めてください。」と繰り返している。

目黒駅から山手線に乗り、新宿へ。新宿駅で一旦改札を出て買い物をすます。すぐに中央線下りのホームへ。超満員でぎゅうぎゅう詰めの「大月」行き通勤快走が止まっている。とても乗る気になれない。もっとも、目指す駅は通過してしまうので、うっかり乗ってしまってはいけない。「大月」行きが発車して、まもなく「青梅」行き快速電車が入線してくる。こちらは意外と空いている。

阿佐ヶ谷駅で降り、南口へ。阿佐ヶ谷パールセンター商店街とマクドナルドの間の道に入って、一番街に向かう。人通りが少なく、なんとなく寂しい感じがする。とはいえ、流石に名店っぽい店もちらほらあって、そこは賑わっているようだ。せっかくだから奥まで歩いてみることにする。開いている店は大体、常連さんらしき人がカウンターに座っていて、話が盛り上がっている様子。

さて、引き返して、今日行こうとしている「バルト」に向かう。阿佐ヶ谷カフェを目印に南側に曲がる。店の前に立つと、ドアのガラスを通して店の中が見える。大きな楕円形のテーブルには誰も座っていないが、紙袋が一つ置いてある。ドアを開ける。「こんばんは。」と挨拶する。「いらっしゃいませ!」とマスターが大きな声で迎えてくれる。


L字型カウンターにもお客さんはいない。「L」といっても横棒の方が長いのだが、その横棒の方の真ん中に座る。この席はマスターの正面になるので、話しやすいのだ。「先日はどうも。」と声をかける。「いえいえ、ありがとうございました。」とマスター。先週、この店に伺って、ちょうど来られていた女性のお客さんと3人で話が盛り上がったのだ。その時は成蹊大学ラグビー部の応援帰りのグループがテーブル席にいて、店は賑やかだった。

「まず、ヒューガルデンの白(生800円)を。」と注文する。「バルト」に来たらまずベルギービール。少し時間をかけながらグラスに注がれる。それを待ちながら、この空間に馴染んでいく感覚がいい。実は、このブログで去年記事を書いた時から、何度かこの店に来ている。いつもこの席で、こうやってビールが来るのを待って、自分がリラックスしていく過程をゆっくり味わう。マスターはお通しを手際よく作り始める。

IMG_20240322_183239ヒューガルデン白が届く。そして、お通し(400円)も。皿の上には里芋が並んでいて、その上に薄いピンク色のソースがかかっている。ヒューガルデン白は、いつもながら美しい。一口・・・甘い柑橘系の香り、ほのかな香辛料の風味が加わり、そしてあくまで爽やかな味わい・・・素晴らしい!そして、お通し。一口・・・里芋はレンジで軽く温められていて、そして柔らかい・・・ソースは明太子マヨネーズだ。里芋とよく合うなあー。とても美味しい。

「今日のBGMは昭和のアイドルの曲をかけています。」とマスター。なるほど、そう言われてみればそうだが、あまり定番の曲ではないようだ。ただ10代の少女が一生懸命に歌っている感じが、こうやって聴いてみると改めて伝わってきて、ちょっと感動的だ。「1970年代から80年代にかけてNHKで少年ドラマシリーズというのが放送されていたんです。タイムトラベラーとか、つぶやき岩の秘密とかいうような名作がたくさんあったんですね。その中に「巣立つ日まで」というドラマがあって、主演の田中由美子さんが主題歌を歌っているんですが、ネットで見つけて聞いてみたらとてもいい曲だったんです。それが、今流れている曲です。」なるほど、歌詞の言葉をとても丁寧に歌っている雰囲気がいい。「・・・幼い翼広げて 巣立つ小鳥のように 空の広さを 雲の行方を 知りたい・・・」2人で聴き入る。

「他にもいい曲ありますか?」と問うと、「じゃあ、つぶやき岩の秘密の主題歌を流してみましょうか。」とマスターがスマホを操作する。「石川セリさんが歌っている、青い海の記憶という曲です。」曲が流れ始める。「ね、かっこいいですよね。」とマスター。「これを少年時代に聴いたら、なんか奮い立つでしょうね。」と感想を言う。「・・・今だ 見つめておけ 君のふるさとを その美しさの中の本当の姿を・・・」

「ところで、マスター、この前来た時に女性のお客さんが、バルトのハイボールが一番美味しいとしきりにおっしゃってましたよね。なので、今日はハイボール(700円)を飲みに来たんですよ。お願いします。」「はい、ありがとうございます。」マスターがとてもシンプルで形の良いグラスとウイルキンソンの炭酸を用意する。氷は出てこない。三冷の神戸スタイル?神戸「サンボア」式のハイボールだろうか・・・ならウイスキーは・・・えっ?「角」じゃない!見たことがないラベルのウイスキー。世界のウイスキー図鑑を愛読書にしている自分なのに、銘柄が確認できない。ギンギンに冷やしてある。グラスにダブルで注ぎ、炭酸の瓶の王冠を抜いて、逆さまにして勢いよく注ぐ。最後にレモンピール。都立大学の「メリーズバー」を思い出す。神戸スタイルでとても美味しかったなあ。

IMG_20240322_184626「どうぞ。ハイボールです。」では、一口・・・スコッチだ!スモーキな香りが素晴らしい。う、美味い。「角瓶じゃなくて、ブレンディッドのスコッチを使ってるんですね。いやー、これは美味しい。」「ありがとうございます。ハイボールに合わせてポテトサラダはいかがですか?今日はいいポテトが手に入りましたから。」「もちろん、いただきます。」




IMG_20240322_185241ポテトサラダ(450円)が届く。「三方ヶ原産のジャガイモは、あと1ヶ月くらいしないと出て来ないんです。今日は北海道のものですがこれも美味しいですよ。」では、一口・・・おお!甘みの中に独特の風味が漂う。いつものマヨネーズが控えめの味付けも絶妙。美味しい!「美味しいですねー。」「そうでしょう。もっとも、最高のジャガイモが手に入ったら茹でて皮を剥いて少々の塩味で食べるのが一番なんでしょうけどね。5月ごろになったら楽しみにしておいてください。」

「あっ、ちょっとごめんなさいい。」と言って、マスターがドアを開けて出ていく。なんだろう。外で誰かと話をしている。しばらくして帰って来て「仲良くしているスリランカ人の家族が引っ越しちゃうんですよ。」と言う。続いて、若い女性が「すみません。」と入ってくる。マスターがテーブルの上の紙袋から「これはドライマンゴー・・・」と言いながら色々と袋を出している。「これまでは食べ物だけど、ここの思い出を忘れないように、これを一つずつお子様達に。」と言って可愛い絵が描かれているマグカップを出していく。それを新品の皮のトートバッグに詰め替えて、「気をつけて。みなさん元気で。」と渡す。女性は「本当にありがとうございました。」と頭を何度も下げている。なんだか感動する。

女性が出て行った後、カウンターの中に戻ったマスターに「どこに引っ越されるんですか?」「平井だそうです。」「江戸川区?」「そう。これもネットで見たんですけど、スカイツリーの下あたりに川が流れていて、そこが釣りのメッカらしくてね。落ち着いたら、釣りを兼ねてあの辺りを尋ねてみようかと思っているんですよ。で、ちょっと足を伸ばして平井までね。」「えっ?あの辺りで釣りができるんですか?びっくりです。」しばらく釣り談義。

「ハイボールを召し上がってくださったので、今日はおすすめのものを飲んでいただきましょうか。」「へー、なんですか?」「桜ハイです。やはり三冷なんですが、お酒は35度の金宮焼酎を使います。25度だと冷凍庫でしゃりしゃりに凍ってしまいますから。そしてウイルキンソンの炭酸を同じように注ぎ、桜花漬けを浮かべます。」「是非!」

IMG_20240322_191042桜ハイ(600円)が届く。「ほら、グラスの中で桜が開いたでしょう。美味しいですよ。」なるほど。では一口・・・サクラの香りはそんなに強くなくて、程よい。爽やかな甘みと塩気も少し・・・これは、美味しい。そう、春の味そのもの。「これは春だけじゃなくて、一年中お出ししてます。例えば、夏になれば、ああ、今年の桜は綺麗だったなとか、思い出しながら飲むのもいいじゃないですか。」「そうですね。でも、桜を待つこの季節が一番いいかも。」「なるほど。」

桜ハイを飲み干して、今日はここまで。「ごちそうさまでした。」「ありがとうございました。外はまだ風が強いですから、気をつけて。」「はい。」

外に出る。レモンのような月が出ている。それを眺めながら歩く。賑やかな駅前のロータリーに出るまでは、しばらく静かな夜の中に溶け込んでいたいと思う。


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東京都杉並区阿佐谷南2丁目21

03-3315-0751 ;


Posted by hisashi721 at 17:39│Comments(0)