今日(29日)は、午前中は雨と強風、午後になって陽射しが見え始め、気温も上がった。職場を出たのは14時過ぎ。仕事で東急東横線学芸大学駅の近くに向かう。その仕事も1時間ほどで終わってしまう。職場には戻らず、東横線に乗って帰ることにする。この春、初めてコートを着ずに通勤してみたが、それが正解だった。電車の中の人たちの多くは暑い上着を脱いで手に持っている。
副都心線直通の電車だったため、新宿三丁目駅で降り、丸の内線に乗り換えて新宿駅に向かうつもり。ぼんやりドアの上の路線図を眺めていたら、このまま池袋まで行ってみようかなという気になる。池袋から山手線外回り電車に乗り、西日暮里まで行き、地下鉄千代田線に乗り換えて北千住に行く。そして、「大はし」で煮込みで一杯っていうのはどうだ・・・んもう、いい!
池袋駅の大混雑を抜けて、山手線の改札を入る。地上のホームに出て電車に乗ると、いつもとは違う風景が車窓に広がる。西日暮里駅でJRから地下鉄に乗り換えなのだが、慣れていないので、反対側のホームに入ってしまう。階段を降りて、我孫子方面行きのホームに行こうと思った時、代々木上原行き電車が入ってくる。時計を見る午後4時10分。咄嗟に、その電車に乗ることに決める。「湯島」に行こう!
そう決めたのには理由がある数週間前のことだが、日比谷側から「湯島」に行き、老舗居酒屋である「シンスケ」に伺おうとした。その前に、ちょっと資料をチェックするためにカフェに寄った。そして、シンスケの戸を開け、更に右手にある戸を開けた時のことだ。カウンターは珍しく空いていて、「1人です!」と喜び勇んで告げると・・・「マスクを着用していらっしゃらない方の入店はお断りしております。」とピシャリ!ええ、そのルールは知ってますけど・・・あっ、しまった、カフェでマスクをとったままだった。自分はこの季節花粉症のため常に外ではマスクを着用しているので、着けているものと思い込んでしまっていたのだ。「ああ、外してましたね。」と後ろ髪引かれながら、入店を断念した経緯がある。そのことが頭に浮かび、そうだ、ここまで来たら「シンスケ」に行こうと思ったというわけだ。
そんなこんなで、都内を漂った挙句、「湯島」駅に到着。3番出口に向かい、階段を上る。地上に出ると「春日通り」。駅を見ながら左側に少し歩くと、「シンスケ」はすぐそこ。一つ目の戸を開けて、さらに右の戸を開ける。入り口から奥に続くカウンターは10席。奥にテーブル席が3つ、右側に2人が並んで座れるボックス席が3つ。カウンターには、一番奥に年配のご夫婦、真ん中辺りにちょっと声が大きめのカップル、手前にじっくり飲んでいらっしゃる50代くらいの男性1人客。「お客様はお一人ですか?」とカウンターの中のご主人が自分に問う。「1人です。」「では、空いている席にどうぞ。どちらでも結構ですよ。」「じゃあ、この席に。」というわけで、入り口から2番目の席に座る。
おしぼりと箸が届く。「ハートランド(中瓶750円)をお願いします。」と注文する。目の前でご主人がハートランドビールの栓をポンといい音をたてて抜いてくれる。そしてグラスと共に届けてくれる。緑色の瓶が美しい。では、グラスに注いで、一口・・・よく冷えている・・・午後からは気温も高く、喉が渇いていたので、この苦味が抑えられたすっきりとした味がありがたい。美味しいなあ。
奥のお客さんのお酒の注文を受け、ご主人が瓶から徳利に酒を移しながら、こちらを見る。料理の注文をしていい合図。「いわしの岩石揚げ(1100円)と鶏もつのウスター煮(750円)をお願いします。」と注文する。ビールを飲んでいると、お通し(400円)が届く。糸蒟蒻に甘い味噌が添えてある。一口・・・うまっ。ビール、ビール。
流石に大正時代から続く老舗だけあって、落ち着く店内。天井も高く、他のお客さんと間隔も十分。それがくつろげる雰囲気を作っている。正面の壁にはずらりと酒器や両関の一升瓶が並んでいる。もう20年も前になるだろうか、ある雑誌で居酒屋特集みたいなのがあって、そこで自由が丘の「金田」と並んで大きく取り上げられていたのがこの店。たまたま店の前を通りかかって、格子窓越しに店内を見ると、スーツ姿の紳士っぽい人がずらりと並び、落ち着いた感じの女性がテーブルに座っている・・・うわー、敷居高いなあーと思った。その時は満員のようだったので入らなかったが、その時代の店も体験してみたかったなー。
「いわしの岩石揚げ」が届く。40年前の女将さんの創作料理という、いわしのすり身を揚げたもの。では、一口・・・表面はカリッとして、中は柔らかく粘り気もあり、しかもいわしの味がしっかり残っていて、油で揚げることによって甘味も出ている・・・美味いなあ。ビール、ビール。では、日本酒にしようかな。この店の酒は秋田の「両関」。樽酒、純米酒、本醸造、大吟醸と揃っているが・・・。「すみません。樽酒(850円)をぬる燗でお願いします。」と注文する。
それにしても、さっきから予約の電話がひっきりなしにかかっている。明日の土曜日は満席、来週も曜日と時間によっては埋まっているようだ。今日の予約のお客さんも少しずつ入り始めている。後ろ2人用の席にもご夫婦と思われるお客さんが入ってきた。マスクをしていない4人客が断られて、「ダメ?本当に?」などと言って帰っていく。そろそろ賑わいの時間が始まるようだ。
「両関樽酒のぬる燗」が届く。「軽い燗です。」とご主人。では、一口・・・ああ、なるほど、微かな酸味味と甘味。そして樽の香り・・・上品な味だなあ。美味しい。大学時代にお世話になった先生が秋田出身で、「酒といえば両関と爛漫」と言っていたのを思い出す。その思い出が、ますます、自分をしみじみとさせる。うめーなー。
「鶏もつのウスター煮」が届く。老舗でありながら、新しい創作料理を出し続けるところが、この店の魅力の一つだ。では、一口・・・ウスターソースの甘辛さと、鶏レバのねっとりした旨みがよく合う。これは美味しい。酒にも合うなあ。うんうん。美味い、美味い。
後ろのご夫婦はメジャーリーグベースボールの話をしている。「カブスのさー、試合観ちゃったよ。」「鈴木誠也でしょ。」「そう誠也!」・・・鈴木誠也といえば、「巨人の星」の舞台といわれる、荒川区町屋の出身。地下鉄千代田線では湯島から町屋は8分くらい。地元のスターとして応援してもらってるんだなあ、と広島カープファンの自分は嬉しくなる。
じっくりぬる燗を飲んでいると、気持ちが緩やかにリラックスしてくる。老舗居酒屋の緊張感もなく、ただただ、いい時間を過ごしている。では、次の酒を。「すみません。純米酒をぬる燗でお願いします。」と注文する。なんかいつもより酔いがほんわかと回ってくるようだなあ。じゃあ、もう一品。「すみません。鮭の焼き漬け(850円)をお願いします。」
「鮭の焼き漬け」が届く。立派な切り身。いただきます。一口・・・なるほど、日本酒、醤油、味醂に漬け込んだという鮭はとても風味豊か。少しずつ身をほぐして口に含みながら、日本酒を飲むと、ああ、これが居酒屋の楽しみなんだなあと思う。これなら、ずっと飲んでいたい。いいねー。
酒も飲み終わる頃、突然、隣の一人客の男性が話しかけてくる。「この店、美味しいですね。」「え?ええ。美味しいですし、雰囲気もいいですよね。」「ええ、一度来てみたかったんですけど、やっと実現しました。」「初めでなんですね。敷居が高かったでしょう。」「ええ、勇気を振り絞りました。」「どちらにお住まいですか?」「港区です。あなたは?」「中野区です。」・・・みたいな会話。
もっと話したいとも思うけれど、お酒も飲み終わってしまい、今日はここまで。「また、お会いしましょう。」と言って席を立つ。「もうお帰りですか?」「すみません。」
外に出る。暖かい春がやっと来たようだ。気持ちのいい空気に包まれる。3月も終わる。季節はまた新しく巡っていく。
東京都文京区湯島3丁目31−5 YUSHIMA3315ビル
03-3832-0469
Posted by hisashi721 at 17:42│
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